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密かに遺された、世界一おいしそうな絵。素朴でかわいいお菓子尽くし! 現在も食べられるお菓子情報をあわせて紹介!

懐かしいお菓子―武井武雄の『日本郷土菓子図譜』を味わう―

伴田良輔/著 、今村規子/著 、山岸吉郎/著 、河西見佳/著

1,980円(税込)

本の仕様

発売日:2020/01/30

読み仮名 ナツカシイオカシタケイタケオノニホンキョウドガシズフヲアジワウ 
シリーズ名 とんぼの本
装幀 武井武雄『日本郷土菓子図譜』より/カバー、中村香織/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク、
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 127ページ
ISBN 978-4-10-602291-3
C-CODE 0377
定価 1,980円

大人も子供もみんな大好きだった、甘くてやさしい味の、あの饅頭、煎餅、羊羹……。昭和の人気童画家が密かに綴り、戦火を逃れた奇跡の図譜から、各地で長く愛されてきたお菓子の絵全169点を一挙公開。水彩画としても秀逸、和菓子の記録としても第一級資料となる貴重な一冊。

著者プロフィール

伴田良輔 ハンダ・リョウスケ

1954年、京都府生まれ。作家、翻訳家、写真家、版画家。美術、写真、デザイン、自然科学など執筆ジャンルは多岐にわたる。小原有月名義の版画作品では国内外で受賞多数。著書に『奇妙な本棚』(2002年 筑摩書房)、『アリスのお茶会パズル』(2015年 青土社)、『ネコ温泉』(2017年 辰巳出版)ほか、翻訳書にカレル・チャペック『ダーシェンカ 愛蔵版』(2015年 青土社)など。

今村規子 イマムラ・ノリコ

東京都生まれ。(株)虎屋勤務、虎屋文庫研究主幹。著書に『名越左源太の見た幕末奄美の食と菓子』(2010年 南方新社)。主な論文に『「りん」と「みどり」』(『和菓子』第8号 虎屋)、『二つの「船橋屋織江」』(同誌第22号)など。

山岸吉郎 ヤマギシ・ヨシロウ

1953年、神奈川県生まれ。イルフ童画館館長。前職の広告代理店勤務時代に従事したマーケティング企画やマネージメント・システム構築の経験を活かし、武井武雄の作品世界を広く伝える活動を精力的に行う。2014〜2015年、全国巡回展「生誕120年武井武雄の世界展」を企画、開催。『別冊太陽 武井武雄の本 童画とグラフィックの王様』(2014年 平凡社)、『武井武雄 イルフの王様』(2014年 河出書房新社)などに執筆。

河西見佳 カサイ・ミカ

長野県生まれ。イルフ童画館学芸員。同館の武井武雄展示をはじめ、数多くの童画、絵本原画関連の企画展を手がける。2018年のイルフ童画館開館20周年を記念した『武井武雄クロニクル』では展示の企画や図録の編集・制作を担当。武井作品をこよなく愛し、多くの関連本にも執筆。

書評

思わず指を伸ばしたくなる

平松洋子

 こんな画帳が遺されていたのか! 本書をめくりながら、夢まぼろしを見る思いがして興奮が抑えられなかった。
 幼いころ「コドモノクニ」「キンダーブック」でその絵を見かけていた画家、武井武雄による『日本郷土菓子図譜』。和綴じの和紙に、じかに水彩で描いた羊羹、饅頭、煎餅、あられ、飴、豆菓子、餅菓子……全国から集めた百六十九種をスケッチして記録するユニークな画帳である。旅先でこれぞという郷土菓子に出会うたび欣喜雀躍、いくつか買い求めては友人知人に送ったり配ったりするのを愉しみにしている私のような者にとって、武井武雄の水彩による郷土菓子は、土地の物語の入りぐちに立たせてもらうかのよう。それが未知の菓子であっても、扉をそっと押すと、東西の風土やら空気やらお国言葉やら、水彩画のなかからすーっと流れ出てくる心地を味わう。
 このたびあらたに編まれた本書には、贅沢な試みがいくつもある。全三巻におよぶ『日本郷土菓子図譜』の画面をそのまま掲載することによって、画帳と郷土菓子の存在に光を当てる。と同時に、美術家・伴田良輔、虎屋文庫・今村規子、武井武雄の作品を収蔵するイルフ童画館の山岸吉郎や河西見佳、諸氏の目をつうじて、画家の内面や魅力をあますところなく引き出す。ページをめくりながら、とかく地味な場所に押しやられがちな郷土菓子に肩入れしたくなり、食べたい、見たい、知りたい気持ちに火をつける絶妙の塩梅。
 まず、図譜に描かれた菓子をためつすがめつ。東京の「芝神明太々餅」。曲げ物に詰められたあんころ餅の色彩の妙、思わず指を伸ばしたくなる。大阪の「大阪やぐらおこし」。粟おこしと包み紙と意匠箱のポップなコントラストに、浪花の空気がむんむんする。「弘前駄菓」一〜五。各見開きいっぱいに配された駄菓子の愛嬌、にぎにぎしさ……冒頭わずか三作で、さっそくもっていかれる。全編にわたって、運筆はあくまでも写実的、デフォルメを嫌いながら菓子の質感や色合いを忠実に捉えて記録しているのに、なぜだろう、ふっと現実を超えて絵空事に見えるときがある。
 このあたりに、武井武雄という画家の創造性の秘密を嗅ぎとる思いがする。童画家として児童雑誌を手がけ、抽象表現による版画、グラフィックデザイン、みずから刊本作品と呼んだ美術作品ほか、とにかく自由奔放な活動ぶり。郷土玩具の研究と蒐集に打ち込み、そののち郷土菓子に着目した。『日本郷土菓子図譜』第一巻の描き始めは昭和十一年、四十二歳のとき。第三巻は昭和十五年から昭和三十三年にかけて。戦時下にありながら、それでも執着した失われかけの甘い菓子は切なさや悔しさの断片でもあっただろう。むろん、各地に散らばる菓子職人の技術、包装や意匠にまつわる文化への思い入れも託されていた。
 でも、手放しで褒めちぎったりはしない。
 余白に、詞書よろしく率直な寸評が記される。
「もう一つもう一つとあとをひく つまる處 胃を惡るくするの菓子也」(名古屋黄金)
「あまきことおどろくばかり 口中むせぶが如し」(新潟無花果甘露煮)
「五色といへど四色なり」(京三條五しき豆)
「いでたち あまりにものものしく こわいであります」(別府柚煉)
「月餅の類と何等異るところなく 個性の全くない菓子」(小倉ぎおん太鼓)
 かと思えば、歯ぎしりしつつギブアップ。
「容色千態千様にて到底その眞を写し得ず この種石菓子のうちにて最も写実的 最も複雑なり」(大磯さゞれ石)
 対象を捉え、即興で描き、空間をデザインし、言葉をあやつる手腕とエネルギー。こんな画家がいたのだ。
 巻末、十八ページにおよぶ懇切丁寧な「今、食べられるお菓子のガイド」付き。武井武雄の貴重な仕事とともに、こうして日本の菓子文化の水脈が保たれることがむしょうにうれしい。

(ひらまつ・ようこ エッセイスト)
波 2020年2月号より
単行本刊行時掲載

目次

見ているだけで至福
幻のお菓子画帳、武井武雄『日本郷土菓子図譜』のすべて
第一巻
第二巻
第三巻
鼎談● 伴田良輔・今村規子・山岸吉郎
世界一おいしそうな絵
伴田良輔[美術家]
奇跡のスケッチ
世界に一冊の手作り私家本
今村規子[虎屋文庫]
長く愛されるものの魅力
“菓子目線”で読む『日本郷土菓子図譜』
山岸吉郎[イルフ童画館館長]
武井武雄とは何者なのか
その生涯と仕事
河西見佳[イルフ童画館学芸員]
密かなる楽しみ
武井武雄はなぜ『日本郷土菓子図譜』を描いたのか
今、食べられるお菓子のガイド
構成・文=編集部
『日本郷土菓子図譜』地方分布リスト
武井武雄『日本郷土菓子図譜』索引リスト

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