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新版 宇野千代 女の一生

宇野千代/著 、藤江淳子/著 、小林庸浩/著 、ほか

2,695円(税込)

発売日:2026/09/16

  • 書籍

生き方も、仕事も着物も、宇野千代流。

明治から昭和を颯爽と駆け抜けた恋多きひと──「泥棒と人殺しのほかは何でもした」という波瀾に満ちた98年の生涯をグラフィックに辿る。各時代のお洒落なポートレートから、自らデザインした着物、得意料理、身の回りの品まで、貴重写真満載。長く共に暮らした秘書・藤江淳子さんによる回想記「先生との36年」も必読。

目次

宇野千代は「最も善く出来た田舎者」?
彼女がヘア・スタイルをよく変える訳
別れも引越しも、また愉し

I 幸せを呼ぶ、千代流暮らしのスタイル
この単純な暮らしが、私は好き
お洒落は文明人の義務である
桜の花は故郷の花
一日も休まず、机の前に座る
麻雀のない人生なんて
熱中する、夢中になる、そして何かが始まる

II 心をかけた自慢の料理
故郷の味 岩国料理
創意工夫のお惣菜

III 創る喜び、着る楽しみ きもの図鑑
幸せの「桜吹雪」をまとった米寿祝い
一二九枚の古ぎれを繋いだモダン「切りばめ」
お気に入りコーディネート集

IV 日本初のファッション雑誌「スタイル」創刊
天才編集者、宇野千代誕生
戦時色に染められて 「女性生活」
女たちは待っていた 「スタイル」復刊
暮らしに着物を 「きもの読本」

V いつだって幸せ、夢中の人生 文・保昌正夫
故郷岩国から十八歳で踏み出した放浪人生
尾崎士郎との結婚生活に、馬込文士村は華やぐ
東郷青児との暮らしは、出会ったその日から始まった
文学と「スタイル」と北原武夫に、情熱を傾けた日々
パリへ、シアトルへ、吃驚仰天の欧米旅行
別れを乗り越え、「淡墨の桜」のように生きて行く

VI これが私の「家宝」です
天狗屋久吉の阿波の人形
小林秀雄の生原稿と肖像画
青山二郎の煙管と灰落とし
谷崎潤一郎の朱塗りの箪笥
パリが結んだ友情
好きなものに囲まれる安らぎ
友人たちからの手紙

VII 本の装い
モダンな香りに包まれた本
青山二郎の美しい装幀
桜、花、小紋で飾る
特装本の世界
主な著作リスト

年譜 駆け抜けた九十八年の軌跡

先生との36年 藤江淳子
(1)お洒落しないのは泥棒よりひどい/(2)自分の惜しいものを人にあげなさい/(3)凝り性だけど、飽きっぽい/(4)涙なんて、涙腺の問題/(5)忘れられない「カニカマ事件」/(6)旅先の楽しみ/(7)生き方も、着物も、すべて宇野千代流/(8)東郷先生の最期のポケット

書誌情報

読み仮名 シンパンウノチヨオンナノイッショウ
シリーズ名 とんぼの本
装幀 昭和7(1932)年頃の宇野千代。初めて自分でデザインした着物を着て/カバー表、中村香織/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 144ページ
ISBN 978-4-10-602314-9
C-CODE 0390
定価 2,695円

書評

わたしもこうありたい

南沢奈央

 ふと、今は亡き祖母のことを思い出した。いつだってお化粧をちゃんとして、洋服にも気を遣ってお洒落だった。わたしは祖母が持っている服、時計やアクセサリーに憧れて、似たようなものを真似して買い、亡くなったときには祖母の服を何着かもらった。今年ちょうど十三回忌を迎えるが、今も大切にその服を着ている。本を読んだり、俳句を詠んだり、麻雀をしたり、編み物をしたり。好奇心旺盛で、よく笑って、輝いている人だった。
 本書を開いて宇野千代さんの姿を追っていたら、祖母に憧れていた気持ちが蘇った。と同時に、何度自らを省みたことか……。女としての生き方を見つめ直し、背筋が伸びる。やっぱり、自然体でお洒落な人ってかっこいい。
 宇野千代さんといえば、この秋から始まるNHK連続テレビ小説「ブラッサム」で主人公のモデルとなり、現在また注目が高まっている人物だろう。ヒロインは石橋静河さんで、後年を加賀まりこさんが演じられる。本書ですっかり千代ファンになったわたしから見ても(偉そうにすみません)、お二人ともイメージにぴったりで、楽しみで仕方がない。
 明治30(1897)年、山口県の岩国生まれ。作家、着物デザイナー、編集者、と仕事においてマルチな才能で人を惹きつけた。それだけではなく、三度結婚するなどたくさんの恋をしたり、広く深い交友関係を築いていたり、人としての魅力に溢れていたことが窺える。本書は、そんな宇野千代の98年の人生を、「暮らしのスタイル」「料理」「着物」「ファッション誌『スタイル』」「家宝」「本のデザイン」と、彼女を形作る重要なエッセンスで切り取り、美しい写真の数々とともにその輝きに触れていくことのできる一冊となっている。
 千代さんの身だしなみに対する考えは、女としてハッとさせられることが多かった。昭和初期の馬込文士村で誰よりも早く断髪にして物議を醸したというエピソードは耳にしたことがあったが、今までそこで抱いていたのは、意志やこだわりが強い印象。“これと決めたらこれ!”というような。それも間違いではないのだが、今回ヘアスタイルの変遷を見て驚いた。まぁコロコロと髪型が変わる。固執しない、その潔さ。そして晩年も変わらず、毎朝の化粧は欠かさず、週一で美容院へ通ったという意識の高さ。本書の中にたくさん登場する千代さんの写真を見ても、すべてが“オン”状態で感動すら覚える。オフの姿が一切ないのだ。中学時代からずっと変わらずショートヘアで、なるべく化粧をしないで過ごしたいと思っているわたしには、「自分のためだけにするのではなく、自分に接する人の眼に気持ちよく映るようにするもの、お洒落は人としての義務」という言葉はグサリと刺さった。
 こだわりを持ちながら、固執しない。これって実は相当難しいことだ。自分というものがある上で、柔軟で居続けること。新しい文化や価値観に出会うたびに、自分に取り入れて変化し続ける姿に、わたしもこう在りたいと思わされる。こういった、一見相反するものを両面持ち合わせているのが千代さんの人間としての面白みであり、凄さだ。36年間秘書として生活を共にした藤江淳子さんによるエッセイで語られる「凝り性だけど、飽きっぽい」一面や、故郷の味を大切にしている一方で「発明料理」を楽しむ様子、着物を愛しながら当時いち早く洋服も着こなした姿、たくさんの恋愛を経験して小説にも心の機微を描き出した人なのに情緒に流されない性格……しなやかな感性と芯の強さが見える。
 そんな千代さんが残した作品の数々は、実に生命力に満ちている。千代さんがデザインした着物、特に本人が愛した桜の模様のものはどれも圧巻。ビジュアル本である本書の最大の見どころと言ってもいいかもしれない。故郷岩国の錦川河畔の桜並木と、川面に散りかかる花びらから着想を得てデザインしたという訪問着「万朶の桜」は、写真を通して見ただけなのに、その美しさに、思わず涙が溢れてしまった。シンプルなのに圧倒的な美は、時代が変わろうと色褪せることはないだろう。
「自分の心に秘めた、ほんとうの仕事」と本人が断言する文学では、もっともっと泥臭く、命を削るように向き合い、一字一句に生命力が吹き込まれている。文芸評論家の保昌正夫さんによる千代の人生の足跡を辿る章で、10年の歳月をかけて書き上げた『おはん』、最後の夫である北原武夫との別れを描いた『刺す』以降、〈自分の根源を掘り出すような小説を立て続けに執筆する〉とあるように、父の面影を追ったものや自伝体の小説に取り組む。すべての経験を血肉にし、書けても書けなくても毎日机の前に座り続け、85歳で『生きて行く私』に到達するのだった。
 宇野千代のように、お洒落に美しく、人生に花を咲かせていきたい。現代に生きるわたしたちも追いかけるべき存在である。

(みなみさわ・なお 俳優)

波 2026年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

宇野千代

ウノ・チヨ

(1897-1996)1897(明治30)年、山口県岩国生れ。岩国高等女学校卒業。1921(大正10)年、短編「脂粉の顔」が「時事新報」の懸賞小説で一等に当選。尾崎士郎、東郷青児らと結婚や同棲をしたが、ビジネス・パートナーともなった北原武夫との結婚は1939(昭和14)年から25年つづいた。「おはん」で1957年に野間文芸賞、1958年に女流文学者賞。1982年「透徹した文体で情念の世界を凝視しつづける強靭な作家精神」によって菊池寛賞を受賞。著書に『色ざんげ』『風の音』『雨の音』など多数。1996(平成8)年急性肺炎で死去。享年98。

藤江淳子

フジエ・アツコ

(1929-2023)1929年、宮城県生まれ。1960年から宇野千代と暮らしを共にし、千代が亡くなるまで36年間、秘書として公私にわたって支え続けた。株式会社宇野千代の代表を務め、桜をモチーフにしたデザインの「宇野千代ブランド」を世に広めた。2023年没。

小林庸浩

コバヤシ・ツネヒロ

(1943-2026)1943年、東京生まれ。写真家。大判のカメラで、染織、やきもの等の工芸や茶の湯、料理、骨董の世界を中心に撮影。共著に『庭の旅』『色の歳時記』『辰巳芳子のことば 美といのちのために』など。2026年没。

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