危機の指導者 チャーチル
1,540円(税込)
発売日:2011/09/22
- 書籍
- 電子書籍あり
今こそ日本人に読まれるべき指導者論!
ヒットラーの攻勢の前に、絶体絶命の危機に陥った斜陽の老大国イギリス。その時、彼らが指導者に選んだのは、孤高の老政治家チャーチルだった。なぜ国民はチャーチルを支持したのか。なぜチャーチルは危機に打ち克つことができたのか。波乱万丈の生涯を鮮やかな筆致で追いながら、リーダーシップの本質に迫る力作評伝。
終の日の風景/危機の指導者チャーチル
註
チャーチル年表
書誌情報
読み仮名 | キキノシドウシャチャーチル |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-603687-3 |
C-CODE | 0323 |
ジャンル | ノンフィクション、世界史 |
定価 | 1,540円 |
電子書籍 価格 | 1,144円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/03/02 |
書評
波 2011年10月号より 外交官の描いたチャーチル
冨田浩司氏の『危機の指導者 チャーチル』は、第二次大戦中に英国首相として対独戦を戦い勝利をもたらした、この特異で魅力ある人物の評伝である。著者自身が「書き尽くされた政治家」と認めるチャーチルを、多くの日本人は無意識のうちにある程度知っているように思いがちだ。しかし本書は最新の研究成果を踏まえ、少数の研究者と読書家以外にはあまり知られていない、青年、家庭人、政治家、軍事指導者、実務家、著述家・画家、最高指導者としての彼の生涯を多面的かつ平易に描いて新たな情報を提供する。そして読者自身に多くを考えさせる。青年チャーチルが、貴族としての人脈と美貌の母の影響力まで総動員し、地位と名声を得るためにいかに奮闘努力したか。過剰なまでの自信をもったこの野心家がもし自分のそばにいたら、相当閉口すると思う。
しかし様々な欠点があり、実際それがたたって何度か政治生命を断たれたかに見えたチャーチルを、第二次大戦で存亡の機を迎えた英国は必要とした。その勇気、信念、歴史観、楽観、決断力、実務能力、雄弁、ユーモアといった資質が危機にあたって一気に発揮され、国民は彼の指導のもと団結して戦う。チェンバレンが辞任した時、対抗馬のハリファックス卿がチャーチルに次の首相の座を譲り、この政治家を必ずしも評価していなかった国王ジョージ六世も同意する個所は、著者の指摘どおり、「英国の政治制度の強靭さ」を示す。
本書は著者の処女作であるが、それはこの本が新人の作であることを意味しない。チャーチルの首相就任直後、イタリアと交渉を行いドイツとの和平の可能性を探るかどうかをめぐり戦時内閣で激論になった際、チャーチルはあくまで妥協せず戦うことを主張し決断する。著者は双方の主張を詳細に分析し、この決断が逆境における英国民の強さへの信頼に基づいていたと結論づける。
こうした分析は責任ある外交官であれば常に行っているはずのものであり、著者は現代の日本が下さねばならない外交・安全保障上の重い決断をも意識しながらこの本を書いていると思う。英国民の粘り強さを過小評価してこの国を敵に回し、真珠湾攻撃の際チャーチルに「結局のところ我々は勝ったのだ」と言わせてしまった先輩たちの失敗をかみしめ、3・11以降の難局を思いながら。
冷静な分析を行いながらも、著者は明らかにチャーチルが好きである。そうでなければ外交官としてイギリス在勤中にこれだけの作品を書けない。同じくこの政治家の雄弁とユーモアを愛する者として、著者に大きな敬意を表したい。
担当編集者のひとこと
今こそ日本人はチャーチルに学ぶべき
この本を読んで、私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、震災危機への対応に右往左往する菅直人前首相の姿でした。
外務省の現役幹部である著者が5年の歳月を費やして書いた本書は、純然たるチャーチルの評伝であり、菅内閣や日本政治に対する論評は一言も書いてありません。
それにもかかわらず、私が前首相の姿を思い浮かべ、「まさに未曾有の国難に向き合う現在の日本人のために書かれた本だ」と強く感じたのは、この本が、チャーチルの波乱万丈の政治人生を追うだけではなく、「危機におけるリーダーシップ」について普遍的かつ実際的な洞察を行っているからに他なりません。
「今さら、チャーチルの大時代な政治スタイルに学べなんて……」と疑問に感じる方もいるかもしれません。しかし、本書の議論は、現役官僚ならではのリアリズムに貫かれており、極めて今日的な内容です。いわゆる懐古趣味的な「強いリーダー」待望論とはまったく次元が異なりますので、ぜひご一読下さい。
「今こそ日本人はチャーチルに学ぶべき」――自信を持って、強くお薦め致します。
2016/04/27
著者プロフィール
冨田浩司
トミタ・コウジ
1957年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。1981年に外務省に入省し、総合外交政策局総務課長、在英国日本大使館公使、在米国日本大使館次席公使、北米局長、在イスラエル日本大使を経て、2018年8月からG20サミット担当大使。英国には、研修留学(オックスフォード大学)と2回の大使館勤務で、計7年間滞在。著書に『危機の指導者 チャーチル』(新潮選書)。