弱者の戦略
1,210円(税込)
発売日:2014/06/27
- 書籍
- 電子書籍あり
強い者が勝つのではない。勝った者が強いのである。
海洋全蒸発や全球凍結、巨大隕石の衝突など、地球環境が激変しても多くの生命はしぶとく生き残り続けてきた。そして今でも、強者ではない動植物などはあらゆる方法で進化し続けている。群れる、メスを装う、他者に化ける、動かない、目立つ、時間をずらす、早死にするなど、ニッチを求めた弱者の驚くべき生存戦略の数々。
二、逃げる――三十六計逃げるに如かず/チーターから逃れる方法/蝶のように舞う戦略/静かなる敵から逃れる/敵の存在を知る
三、隠れる――「小ささ」という強み/堂々と身を隠す/成長に合わせて変化する/誰が敵なのか?/植物も擬態する/石に擬態した植物/状況に合わせて変わる/常にオブションを用意する/農薬をまくと害虫が増える
四、ずらす――夢は夜開く/早春に花咲く戦略/西洋タンポポは本当に強い?/早起きは三文の得/ラクダは楽じゃない/ずらす戦略の奥義
コラム1 鳥合の衆の戦略
コラム2 「鰯」を、魚へんに弱いと書く理由
コラム3 ナマケモノの戦略
コラム4 考えない葦の戦略
コラム5 はかなくないカゲロウの命
コラム6 虫けら呼ばわりされる「オケラ」
二、生物の繁殖戦略――生物のrK戦略/rとKのどちらを選ぶか/環境によって変化する/厳しい条件ではどちらを選ぶか?/「R」という弱者の戦略/短い命に進化する
書誌情報
読み仮名 | ジャクシャノセンリャク |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 176ページ |
ISBN | 978-4-10-603752-8 |
C-CODE | 0345 |
ジャンル | 生物・バイオテクノロジー |
定価 | 1,210円 |
電子書籍 価格 | 968円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/12/26 |
書評
歴史をたどれば人間は常に弱者だった
〈著名人が薦める〉新潮選書「私の一冊」(9)
ライオンとシマウマはどっちが強いか。百獣の王ライオンは、エサとなるシマウマのような草食動物がいなくなると生存することができないか弱い生き物である。
雑草は強くない。雑草は植物が生い茂る森の中では生きられず、日のあたる場所を選んで生息している。人間が草取りをしなければ、競争に強い植物がつぎつぎと芽を出して、雑草を駆逐してしまう。そのかわり野原は大きな植物が生い茂って深い藪となる。つまり雑草は、草取りをされるような不人気な場所でなければ生きることができない弱い植物である。
目からウロコが落ちる話がゴロゴロと出てくる。それが「弱者の戦略」だ。弱いものが生きるためには、
1・群れる(イワシなど)
2・逃げる(蝶など)
3・隠れる(擬態)
4・ずらす(早春の花)
の四点が求められる。
「烏合の衆の戦略」「イワシを『鰯』と書く理由」「ナマケモノの戦略」「考えない葦の戦略」「はかなくないカゲロウの命」。
どれもこれも「あ、そうだったのかア」という答えがあり、これは読んでのおたのしみです。すべての生き物はNo.1の勝者で、自然界ではNo.2はあり得ない。それが棲み分けという戦略で、棲む場所をずらす。
農薬をまくと害虫がふえる。この現象を「リサージェンス(誘導多発生)」という。農薬をまけば害虫は死んでしまうが、わずかに残った一万分の一から一〇万分の一の個体が子孫をふやして、農薬に対して抵抗力が強くなる。
稲垣氏の指摘は、どれもこれもが明解で、弱者必勝の条件は「不毛の土地を開拓」することにある。つぎつぎと強敵があらわれるが、挑戦しつづける者が生き残る運命にある。
弱者の勝負どころ、予測不能な変化への対応。「負けるが勝ち」の負け犬戦略は、リストラにあっている企業戦士に読んでいただきたい。弱者である事実を俯瞰して戦え!
人間の進化をたどれば、人間は常に弱者だった。弱者は工夫し、他の生物がいやがるように変化してきた。その変化と工夫に弱者のチャンスが宿るのだ。
(あらしやま・こうざぶろう 作家)
「週刊現代」2014年8月16・23日号 「リレー読書日記」より
インタビュー/対談/エッセイ
弱いことこそが成功の条件
自然界は弱肉強食である。
強い者が生き残り、弱い者は滅びてゆく。それが厳しい自然界の掟である。
それなのに、私たちの身の回りを見渡してみると、どう見ても強そうではない生き物たちが、自然界でその生を謳歌している。弱そうに見える彼らが、どうやってこの自然界を生き抜いているのだろうか。これが本書の重要なテーマである。
私は学生時代に雑草の生き方に魅せられ、大学で雑草学を専攻した。ところが、いざ雑草学を勉強してみて驚いた。
「雑草はたくましい」「雑草魂で強く生きる」が、雑草に抱いていたイメージだったのだが、その雑草が、じつは「弱い存在」だと言うのだ。そこら中に、はびこって私たちを悩ませている雑草が、「弱い植物」というのは、いったいどういうことなのだろうか。
雑草は、他の植物との競争に弱い植物である。まともに勝負しても、とても勝つことはできない。そこで、強い植物が生えることのできないような困難な場所を選んでいるのである。
「逆境は敵ではない。味方である」
私はこの言葉こそが、雑草の生き方を端的に表していると思う。
雑草はさまざまな知恵と工夫を発達させて、逆境の地に生きている。しかし、彼らは逆境に耐えているわけではない。逆境を乗り越え、さらには逆境を活用しているのである。あるものは踏まれることによって種子を散布し、あるものは草刈りをされることによって、かえってはびこっていく。彼らにとっては、逆境は成功のためになくてはならないものなのである。
雑草は弱い。だからこそさまざまな戦略で成功を遂げている。この生き方が雑草を強く見せているのだ。
この発見は、けっして強くない私自身をずいぶんと勇気づけてくれた。そして、逆境を味方につける雑草の戦略は、私が社会を生きる上でも大いに役に立ったのである。
弱い存在であるのは雑草ばかりではない。私たちのまわりには、さまざまな弱き生き物たちが、強く生きている。自然界はナンバー1しか生きられないという鉄則がある。ミミズやオケラやゾウリムシのように、けっして強そうに見えない生き物たちも、じつはナンバー1の部分を持つ勝者なのだ。
弱い存在である彼らの生きる知恵には、目を見張る。彼らを見ていると、弱いことこそが成功の条件ではないかと思えるほどだ。本当の強者とは、自らの弱さを知る者なのかも知れない。
私たち人間も、強い立場で生きることのできる者はほんの一握りである。本書に登場する弱者と言われる彼らの生き方には、少なからずヒントがあるはずだ。
(いながき・ひでひろ 静岡大学大学院教授)
波 2014年7月号より
著者プロフィール
稲垣栄洋
イナガキ・ヒデヒロ
1968(昭和43)年、静岡県生れ。静岡大学大学院教授。農学博士。専門は雑草生態学。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省、静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て現職に。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『生き物の死にざま』『生き物が大人になるまで』『手を眺めると、生命の不思議が見えてくる』などがある。