ノミのジャンプと銀河系
1,430円(税込)
発売日:2017/06/23
- 書籍
「科学」を切り口に眺めると、世界はなんて楽しいんだろう!
「見る・覗く」の人類史、地球で一番速いヤツはナニモノなのか、「とぶ」をめぐる考察、アンドロメダまで最速二五〇〇万年の夢、世界で一番暑い場所・寒い国などなど――SF小説も手がけ、暇さえあれば科学本を読みあさっている作家が、ノミの跳躍から宇宙の果てまでを縦横無尽につづった初のサイエンス・エッセイ。
第二話 馬――人間を一番沢山のせて走った動物
第三話 速さ――世界全動植物スピード大会
第四話 襲ってくるもの――ぬらぬらダラダラへの疑問
第五話 潜る――思えばそこは別次元
第六話 とぶ――ノミは体長の一五〇倍以上は跳ぶ
第七話 太陽系――アンドロメダまで最速二五〇〇万年の夢
第八話 極寒(1)――小便の王様とは何か
第九話 極寒(2)――抜群のうまさ、抜群の汚さ
第十話 酷暑――湿気と乾き。蛇と繩
第十一話 奥アマゾン――博物学の黄金地帯
本書で紹介された本
書誌情報
読み仮名 | ノミノジャンプトギンガケイ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-603810-5 |
C-CODE | 0395 |
定価 | 1,430円 |
書評
頭の中でマンガに変身する科学書
私(更科)は夜寝るまえに、マンガを読む。ベッドに横になって、枕もとの明かりをつける。そして上か横を向きながら、マンガを読み始めるのだ。すぐ眠くなることもあるけれど、コミックを何冊も読んでしまうこともある。
でも、マンガばかり読んでいてもなあ……。ふと、そんなことを考えたある日、私はベッドで小説を読んでみた。ところがどうも落ち着かない。ストーリーは面白いのだが、なんとなくつらい。翌日には、またマンガに戻ってしまった。
いや、私もベッドのそとでは、マンガ以外の本も読むのだ。ものすごく熱心な読書家というわけではないけれど、まあ人並み以上には本を読むほうだろう。でも、寝るまえはダメなのだ。ベッドに上がると、マンガしか読めなくなってしまう。
ところが、ひょんなことで、ベッドで読める本が見つかった。それがこの、『ノミのジャンプと銀河系』だ。理由は、すぐにわかった。この本はマンガではないけれど、でもマンガなのだ。ジャングルをヘビが飛ぶ(!)ところなどを読むと、ジャングルの中を黄色い細長いものが、くねって飛んでいる姿がありありと目に浮かぶ。
海の中で1.5メートルぐらいあるシャコガイにちょっかいを出したら、シャコガイが殻を閉じた場面もすごい。片方の殻で100キログラムはありそうな貝がガクッガクッと少しずつ閉まっていくのだ。著者はゾッとしたらしいが、読者だって読んでいるだけで恐ろしい。足でもはさまれたら、もう海面に戻ることはできない。でも最後まで閉じることができず、10センチメートルほど隙間を開けたまま、シャコガイの貝殻は止まってしまう。いったい何なのだ。すごい肩透かしだ。思わず声を出して笑ってしまう。
きっと椎名氏は、読者の頭の中にイメージを作らせるのが得意なのだろう。最近は「マンガでわかる〇〇」みたいな本がよくあるが、この『ノミのジャンプと銀河系』もそんな本の一つである。ただ、この本の場合、マンガは読者の頭の中に作られるのだけれど。
そんな頭の中のマンガを読みながら、読者は楽しく科学の世界にいざなわれる。この本は科学書だ。でも、科学書にもいろいろある。進化論で有名なダーウィンはたくさんの本を書いたが、そのなかでも広く知られているのは『種の起源』と『ビーグル号航海記』の二つだ。『ノミのジャンプと銀河系』は、『種の起源』ではなく『ビーグル号航海記』のタイプである。椎名氏のバイタリティあふれる探検のおかげで、この本には地球上の想像を絶する場所や奇妙な生物があふれている。極寒の地、酷暑の地、海、ジャングル、砂漠など、地球上のさまざまな場所が、科学的な視点で生き生きと描きだされている。
シベリアにあるヤクーツクの空港に、旅客機が着陸した。ところが20分ぐらい待っても、ドアが開かない。実はシベリアの上空を飛ぶと、飛行機の外側は凍りついてしまう。ドアと機体が一体化して凍結してしまうので、着陸してからバーナーの炎でドアの周りの氷を融かさないと、開かないのだ。こんなに寒いと、トリが空から落ちてくることもあるという。
さらに、この本は宇宙にも飛び出す。惑星や恒星の話だけでなく、宇宙エレベーターや恒星間飛行などの技術的な話題も盛りだくさんだ。
でも、やはり最後には、昔からの椎名誠ファンに、一言伝えておかなくてはいけない。『ノミのジャンプと銀河系』には最新のデータも出てくるけれど、やはりこの本の中にいるのは、あなたがよく知っている、あの椎名誠さんです。
(さらしな・いさお 分子古生物学者)
波 2017年7月号より
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著者プロフィール
椎名誠
シイナ・マコト
1944(昭和19)年、東京生れ。東京写真大学中退。流通業界誌編集長を経て、作家、エッセイスト。『さらば国分寺書店のオババ』でデビューし、その後『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』『銀天公社の偽月』などのSF作品、『わしらは怪しい探検隊』シリーズなどの紀行エッセイ、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』『大きな約束』などの自伝的小説、『犬から聞いた話をしよう』『旅の窓からでっかい空をながめる』などの写真エッセイと著書多数。映画『白い馬』では、日本映画批評家大賞最優秀監督賞ほかを受賞した。