ホーム > 書籍詳細:マーガレット・サッチャー―政治を変えた「鉄の女」―

「愛されない覚悟」が世界を変えた――。渾身の指導者論。

マーガレット・サッチャー―政治を変えた「鉄の女」―

冨田浩司/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2018/09/27

読み仮名 マーガレットサッチャーセイジヲカエタテツノオンナ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 302ページ
ISBN 978-4-10-603832-7
C-CODE 0331
ジャンル 政治
定価 1,512円

英国初の女性首相サッチャーの功績は、経済再生と冷戦勝利だけではない。その真価は、国家と個人の関係を根本的に組み替えたことにある。彼女はなぜ閉塞感に包まれていた社会の変革に成功したのか。対メディア戦略・大統領型政治・選挙戦術……良くも悪くも二十一世紀の政治指導者の原型を創り出したリーダーシップに迫る。

著者プロフィール

冨田浩司 トミタ・コウジ

1957年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。1981年に外務省に入省し、総合外交政策局総務課長、在英国日本大使館公使、在米国日本大使館次席公使、北米局長、在イスラエル日本大使を経て、2018年8月からG20サミット担当大使。英国には、研修留学(オックスフォード大学)と2回の大使館勤務で、計7年間滞在。著書に『危機の指導者 チャーチル』(新潮選書)。

書評

国家と個人の関係を考えさせる肖像画

君塚直隆

 英国の書店を訪れられたことのある方はご存じであろう。ワンフロアが丸々「伝記」コーナーで占められている光景を。さらにこの国は全六〇巻、五万人以上を収録する世界最大の人名事典をつくり、ロンドン中央部には肖像画だけを飾る国立美術館さえある。英国人はとにかく「人物」が大好きなのだ。
 こうした英国の評伝文化に魅了され、『危機の指導者 チャーチル』(新潮選書、2011年)に続き、『マーガレット・サッチャー―政治を変えた「鉄の女」―』を上梓されたのが稀代の外交官にして歴史家の著者である。
 サッチャーといえば、二〇世紀の英国で最長の十一年半にわたる政権を維持し、低迷を続けていた経済を「金融ビッグバン」などで立て直すとともに、国有企業の民営化を大胆に進め、財政再建も成し遂げた偉大なる首相である。また、アルゼンチンとのフォークランド紛争で毅然とした態度を示し、ソ連の新しい指導者ゴルバチョフの可能性を西側でいち早く見抜き、ヨーロッパにおける米ソ冷戦の幕引きに多大な貢献も示した。
 このようなサッチャーの確固たる信念に基づく諸政策の根底には、幼少時からのキリスト教信仰による「個人の責任」の重視と「自助」の精神に裏打ちされた彼女の道徳観がはっきり見られると著者は喝破する。ともすればマネタリズムや自由経済という側面ばかり強調される「サッチャリズム」の根源を考えるうえで、この指摘は重要である。二〇世紀に生まれたとはいえ、彼女の政治的理念の背景には一九世紀後半のヴィクトリア時代の精神が連綿と生き続けているのである。
 これまた著者が鋭く指摘しているように、政治も外交もすべて「人間と人間との営み」である。国内外を問わず、政治や外交の世界に長年身を置いてきた著者のサッチャー政治に対する洞察力が特に冴えわたっているのが、フォークランド紛争をめぐる駆け引き(第四章)と冷戦終結にいたる各国首脳たちとの丁々発止のやりとり(第六章)にもうかがえる。
 しかし、すでに政権発足数年後に側近の一人が彼女に苦言を呈したとおり、戦略的思考に欠け、同僚との人間関係を円滑に進められなかった彼女にもやがて「落日」のときが訪れる。その彼女が今日のわれわれに残してくれた遺訓とは、二〇世紀の間に紆余曲折を経てきた「国家と個人の関係」を、われわれはもう一度考え直すべきときにきていることをその知的真摯さから説くことだった。
 著者はサッチャーを「人間的にはどうしても好きになれない」と語るが、この二〇世紀でも最大級の傑物の政治的人生を冷徹に見つめ続ける姿には感服する。本書は、著者自身も魅了された英国流の評伝の伝統にのっとり、二〇世紀のわれわれの世界をもう一度見つめ直すためのまさに「最高の肖像画」といっても過言ではなかろう。

(きみづか・なおたか 関東学院大学教授)
波 2018年10月号より

目次

序にかえて
第一章 カエサルのもの、神のもの
グランサム/父の教え/個人、神、政治/丘の上の垂訓
第二章 女であること
オックスフォード/出会いと結婚/『親愛なるビル』/子供たち/二人の「象徴」
第三章 偶然の指導者
異端者たち―イーノック・パウエル/異端者たち―エドワード・ヒース/Uターン/ミルク泥棒サッチャー/バックベンチャーの叛乱/決断のとき
第四章 戦う女王
苦悩の中の決断/大海のかなたへ/政治と軍事のはざまで/「静かなる決意」/スエズの記憶/サッチャーの孤独/勝利と葛藤
第五章 内なる敵
我々の側の人たち/民営化の御者/開戦/闘いの日々/サッチャリズムの光と影
第六章 戦友たち
サッチャー外交/欧州の戦友たち/一緒に仕事ができる男/レーガンとの政治的結婚/冷戦における勝利
第七章 欧州の桎梏
欧州という断層/「私のお金を返して」/「サッチャー包囲網」/ホスキンスの忠告/ヘゼルタインとの対決/政権最大の危機
第八章 落日
人頭税/ハウ辞任のドラマ/落日/使命の終わり
終章 余光
サッチャリズムから「ニュー・レーバー」へ/サッチャー政治の革新性/「総中道化」「総中流化」する政治/政治変革におけるリーダーシップ
あとがき

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