ホーム > 書籍詳細:歴史としての二十世紀

歴史としての二十世紀

高坂正堯/著

1,760円(税込)

発売日:2023/11/16

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「戦争の世紀」が再来した今こそ、高坂史観が役に立つ――!

「〈いい人〉の政治家が戦争を起こすことがある」「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」――戦争の時代に逆戻りした今、現実主義の視点から「二度の世界大戦」と「冷戦」を振り返る必要がある。世界恐慌、共産主義、大衆の台頭、文明の衝突……国際政治学者の「幻の名講演」を初の書籍化【解題・細谷雄一】。

目次
はじめに――「我々がどのような時代に生きてきたか」 細谷雄一
第一回 戦争の世紀――世界戦争と局地戦争
一九一四年七月二八日/突破が困難な「死の地域」/塹壕に無力となった第二波突撃/仏軍歩兵操典の再改定/プラッシーの戦いで英軍が勝った理由/第一次大戦の前哨戦となった日露戦争/総力戦時代の「銃後」/「いい人間たち」が起こした戦争/「権力に対する意識の欠如」/三十年戦争のトラウマ/欧州の真ん中にあるドイツ/モルトケとシュリーフェン/国際法違反のベルギー侵攻/最悪のシナリオ/「メイド・イン〜」は一世紀前の貿易摩擦の証/「生存競争」としての国家間戦争/冷徹な第二次大戦の指導者/クラウゼヴィッツ『戦争論』の限界
第二回 恐慌――大成の前の試練
失業率二五%の衝撃/フーバーとルーズベルト/大恐慌が起こった理由/「アメリカはナイアガラ」/大国にふさわしい通商政策/米関税が下がらなかった理由/高関税になる「ログローリング」/ウィルソン大統領の挫折/禁酒法と一〇〇〇ドルディナー/繁栄と享楽の一九二〇年代/対米債務と低金利政策/責任感なき国際リーダー/コンドラチェフの波/ルーズベルトの心理政策/国家による経済不介入の原則/産業構造を転換させた戦争/アメリカにとっての教訓
第三回 共産主義とは何だったのか
無謬のマルクス主義/大粛清・スペイン内戦・独ソ不可侵条約/許しを請うて処刑された人々/前衛党の民主集中制/強引な工業化/人々を説得したスターリンの演説/「農業集団化」の実情/農民階級の抹殺/「絶対窮乏化」理論/終末論的楽観論の極致/フォード式生産方式と「大祖国戦争」/「真理省」・「平和省」・「豊富省」/立ち遅れた技術革新/野次馬的批判精神/共産主義歴七〇年と四〇年/「ユートピア」の存在意義/ラグビーボールの哲学
第四回 繁栄の二五年
空前の経済成長/一九二二年の『さよならアメリカ』/「コカ・コロナイゼーション」/ラジオと自動車という文明の利器/コマーシャルと分割払い/豊かさが消した将来への悲観論/イブン・ハルドゥーンの「アサビーヤ」/西側の経済発展を牽引した冷戦/ケインズとホワイト/西欧と日本が経済復興できた理由/優秀な技術者は軍事産業へ/政治システムと大学の変質/戦後生まれ世代の反抗/「失われた一八年」/福祉政策による経済効果/肥大化する政治機能
第五回 大衆の時代――資本主義と民主主義
資本主義は正しいか?/大衆の時代/合理主義と大衆民主主義は両立しうるか?/資本蓄積のための迂回生産/プロテスタンティズムと土光敏夫/ダニエル・ベルの「公的家計」/福祉国家の欠陥/日本の貯蓄率/「家族動機」と「不在資本家」/危うい「資本主義のパラドックス」/電子取引と金融情報化/アダム・スミスの「道徳」観/「マイダス・タッチ」/借金は罪である/日本の政治家が二流である理由/土地収用ができない二つの国
第六回 異なる文明との遭遇
世界と西欧/「非暴力主義」と日露戦争/バリ島の集団自殺事件/「いったん攘夷のち開国」/モンテスキューの「国民」/規則正しく無秩序なドイツ人/イタリア人のドイツ人嫌い/「日本異質論」の世界史的意義/エジプトの「和魂洋才」/ヘロデ派対頑固派/日本人の「ちっぽけな良心」/帝国主義の救いの美徳/バリを愛したドイツ人の数奇な生涯
解題――高坂正堯が我々に託したもの 細谷雄一
関連年表

書誌情報

読み仮名 レキシトシテノニジュッセイキ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 232ページ
ISBN 978-4-10-603904-1
C-CODE 0320
ジャンル 歴史読み物、歴史・地理・旅行記
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,760円
電子書籍 配信開始日 2023/11/16

書評

「但し書き」の精神

中西寛

 本書の著者高坂正堯が1996年に亡くなってから27年になる。その著者の新刊が出るというのは出版界としても珍しいだろう。作家の未発見作品の出版といった場合でもなければ、まず起きないことではないか。それだけ高坂が日本人に敬愛され続けている証左と言えよう。
 本書は高坂が1990年1月から6月まで新潮社の主催で行った連続講演録である。高坂の同社との関係は長い。若くして訪れたタスマニアでの滞在後に刊行した『世界地図の中で考える』(1968)、高坂の著作の中でも最も著名となった『文明が衰亡するとき』(1981)という生前の二著に加えて、月刊誌「フォーサイト」の1991年から1994年までの連載からなる『世界史の中から考える』(1996)、1979年から1995年までの講演録や論考を集めた『現代史の中で考える』(1997)の二著が没後に出版されている。
 いずれも文明と歴史という高坂独特の視点が共通しており、本書もその系譜に属する。ただ、本書の特徴は1990年前半という比較的短い時期の高坂の思考を反映している点である。日本では1989年末に株価が史上最高値をつけ、まだ「バブル崩壊」といった意識はなかった。世界的には1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、翌月にはマルタでブッシュ、ゴルバチョフの米ソ首脳が会談して冷戦の終焉が語られた。要はこの講演が行われたのは、長い緊張から解き放たれた一方で、新たな時代や課題がまだ見えていない時期だったのである。
 その状況は1990年8月イラクのフセイン政権がクウェートに突如軍事侵攻して以降急速に変化し、世界では湾岸危機から湾岸戦争、そして1991年末のソ連邦崩壊へと矢継ぎ早に事態が進行していく。慌ただしく「ポスト冷戦」や「世界新秩序」が時代のキーワードとなり、日本もバブル崩壊と湾岸戦争への対応を巡って「二重の敗戦」が意識されるようになった。本書は冷戦の終わりとポスト冷戦の開始の狭間の時期の講演録であり、第1回の冒頭で「一つの時代が終わりつつあることは誰しも感じているでしょう。しかし、社会を動かすような新しい思想が生まれたわけではありません」(19ページ)という高坂の言葉は的確にこの時期の性格を言い当てている。
 そしてこの端境期に高坂が語ったことは、30年以上を経た現在、改めて示唆に富む。今や世界では、アメリカ率いる西側が主導するリベラル国際秩序としてのポスト冷戦期が終わりつつある一方で、次の秩序のありようは見えていない新たな端境期を迎えているからである。
 高坂は端境期にあってできるのは過去を振り返ること、として戦争、恐慌、共産主義、繁栄、大衆、文明というテーマから20世紀を振り返る。時間の制約からか十分に扱えていないテーマもあるが(たとえば「戦争」では第一次世界大戦の話が大半を占めており、それ以外については軽くしか触れられていない)、その幅広い語り口には改めて驚嘆する他ない。政治、軍事、経済、社会、文化といった分野を横断して繰り出される多彩な話題について、読者は話を聞きながら高坂と散歩をするかのように楽しめる。その道行きで、読者は自らの知識や関心に応じてさまざまな洞察に気づくことができる。
 たとえば、評者が本書の校正刷りに目を通している最中にイスラエルとパレスチナ人組織ハマスの大規模な紛争が始まった。高坂は本書で、古代イスラエルのヘロデ派と頑固派の対立に触れた後に次のように述べている。「ユダヤ人は偉大な民族ですが、国をつくると狂信的でありすぎるのかもしれません。現在イスラエルが中東でやっていることを見ると、気が気ではありません」(206ページ)。時を超えて高坂のこの言葉は胸に迫る。
 また、共産主義の失敗と関連して、高坂は理念が人間の心に対してもつ支配力の恐ろしさについて述べている。「理念は社会を方向づけるために大事なものですが、それにより恐ろしいことも起こるわけです。……人間は常識や自分の利益にも反して理念によって動かされるところがある点を覚えておくべきでしょう」(114ページ)。この話は今日のアメリカの極端な分断を思い起こさせる。
 無礙自在の高坂の方法を敢えてまとめると、総合的な視点からの歴史哲学である。それは但し書きの精神と言ってもよいかも知れない。アダム・スミスが手放しの市場礼賛者ではなかったことに触れつつ、高坂は「独自の分野を切り拓いた思想家は、自分の頭で考え、辻褄の合わない矛盾点には但し書きをつけて話を進めます。ところが、後に続く学者たちは微妙なニュアンスを省き、無味乾燥な要約をします」(171ページ)と述べている。高坂の著作が魅力を失わないのは、高坂が自分の頭で考え、但し書きをつけることを厭わない思索家として希有な存在だったからだろう。

(なかにし・ひろし 京都大学教授)
波 2023年12月号より

著者プロフィール

高坂正堯

コウサカ・マサタカ

(1934-1996)1934年、京都市生まれ。京都大学法学部卒業。1963年、「中央公論」に掲載された「現実主義者の平和論」で鮮烈な論壇デビューを飾る。1971年、京都大学教授に就任。『古典外交の成熟と崩壊』で吉野作造賞受賞。佐藤栄作内閣以降は外交ブレーンとしても活躍。新潮選書から刊行した『世界史の中から考える』『現代史の中で考える』『文明が衰亡するとき』『世界地図の中で考える』がいずれもベストセラーとなる。1996年没。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

高坂正堯
登録
歴史読み物
登録
歴史・地理・旅行記
登録

書籍の分類