
歌謡曲が聴こえる
836円(税込)
発売日:2014/11/17
- 新書
あの歌が僕の記憶を甦らせる。極私的ヒット曲の戦後史。
〈あの夏の終わり、竹芝桟橋でふと聴いた女性の歌声。その曲は僕の内部にとどまった。良く出来た歌謡曲が持っている刺の一本が、僕に初めて突き刺さった……〉こまどり姉妹、並木路子、フランク永井、ナンシー梅木、田端義夫、美空ひばり……思い出の歌手とあのヒット曲、そして、終戦から高度成長期への日本の姿。心に刻まれてきた歌謡曲をいま再び聴きこみ、名手が透明感あふれる文体で「戦後の横顔」を浮び上がらせる。
書誌情報
読み仮名 | カヨウキョクガキコエル |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
雑誌から生まれた本 | 新潮45から生まれた本 |
発行形態 | 新書 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610596-8 |
C-CODE | 0273 |
整理番号 | 596 |
ジャンル | エッセー・随筆、音楽 |
定価 | 836円 |
蘊蓄倉庫
「赤いリンゴに唇よせて」の歌い出しで知られる『リンゴの唄』ですが、実はこの曲には戦争の悲哀がこめられているというのが片岡義男氏の解釈です。
「赤いリンゴ」は戦争で命を落とした子どもたちの象徴。続く歌詞の「黙って見ている 青い空」は、過去と未来という時間を表していて、過去とは、戦争で子どもを失った悲しみ、未来とは、繰り返し続けられる営みとしての、失った子どもとの辛い別れの積み重ねのことなのだそうです。
この曲を歌った並木路子は、戦争ですさまじい体験をしています。父と兄は戦地で亡くなり、東京大空襲で母親は亡くなり、本人は隅田川に飛び込み一命を取りとめました。
それでも敗戦後、希望を託して、歌い続けたのが、『リンゴの唄』だというのです。
そういう思いで聴くと、この歌がまったく別のものに聴こえてくることでしょう。
担当編集者のひとこと
片岡義男氏が編んだ「僕の戦後“ヒット曲”史」
いまも健筆をふるう作家、片岡義男氏による、初めての新潮新書が本書です。
洋楽に詳しいことで知られる片岡氏が挑んだのは、意外にも、昭和の歌謡曲。
終戦から高度成長期に、記憶に刻まれた日本のヒット曲について、数多く紹介しています。
「僕の心に初めて突き刺さった」こまどり姉妹のヒット曲、『リンゴの唄』に秘められた戦争悲話、フランク永井がかもし出す魅惑のムード、ナンシー梅木の生々流転、哀愁のメロディを奏でる田端義夫のギターの秘密、和田弘とマヒナ・スターズの盛衰、そして、美空ひばりの知られざる暗闘……。
1939年生まれの片岡氏が、多くの曲をいま再び聴き直し、私的な追憶を、歌手や楽曲にまつわる逸話とともに明かしています。同時にそれは、もう失われた「戦後日本の姿」を浮び上がらせることになりました。
透明感あふれる、心地よい文章で綴られる、「僕の戦後“ヒット曲”史」となっています。
2014/11/25
著者プロフィール
片岡義男
カタオカ・ヨシオ
1939(昭和14)年、東京生まれ。作家。早稲田大学法学部卒。『スローなブギにしてくれ』(第二回野性時代新人賞受賞)、『波乗りの島』『頬よせてホノルル』『ミッキーは谷中で六時三十分』『日本語と英語』『私は写真機』をはじめ小説、エッセイ、評論、翻訳、写真集など著作多数。