言ってはいけない―残酷すぎる真実―
924円(税込)
発売日:2016/04/18
- 新書
- 電子書籍あり
警告! この本の内容を気安く口外しないで下さい。遺伝、見た目、教育に関わる「不愉快な現実」。
この社会にはきれいごとがあふれている。人間は平等で、努力は報われ、見た目は大した問題ではない――だが、それらは絵空事だ。往々にして、努力は遺伝に勝てない。知能や学歴、年収、犯罪癖も例外でなく、美人とブスの「美貌格差」は約三六〇〇万円だ。子育てや教育はほぼ徒労に終わる。進化論、遺伝学、脳科学の最新知見から、人気作家が明かす「残酷すぎる真実」。読者諸氏、口に出せない、この不愉快な現実を直視せよ。
【1】遺伝にまつわる語られざるタブー
〔コラム1〕遺伝率
〔コラム2〕遺伝と犯罪
〔コラム3〕ユダヤ人はなぜ知能が高いのか
〔コラム4〕アジア系の知能と遺伝
〔コラム5〕実の親と義理の親の子殺し
〔コラム6〕家庭内殺人と血縁
〔コラム7〕犯罪と妊婦の喫煙・飲酒
【6】「見た目」で人生は決まる――容貌のタブー
〔コラム8〕女子校ではなぜ望まない妊娠が少ないのか
【11】わたしはどのように「わたし」になるのか
注釈:参考文献
書誌情報
読み仮名 | イッテハイケナイザンコクスギルシンジツ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
雑誌から生まれた本 | 波から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610663-7 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 663 |
ジャンル | 社会学、ノンフィクション |
定価 | 924円 |
電子書籍 価格 | 858円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/04/22 |
書評
愉快に読めた「理不尽な真実」
本書で紹介されている学術研究によると、凶悪犯罪者がそうなってしまったのは、親や学校の教育の失敗ではなく、生まれつきそのような犯罪に走りやすい遺伝的な資質を持っていたからである。世の中に、子供の頭を良くするという子育て法は山ほどあるし、そのような塾も溢れている。しかし、多くの学術研究によると、やはり人間の知能は遺伝的に決まる割合がかなり多いとのことだ。遺伝の他に、学業で成功するかどうかを決める重要な要素は、友人たちとの人間関係の中で自然と決まる役割である。たとえば、クラスメートや遊び仲間内で、たまたま自分が勉強のできるキャラになれば、自らますますその長所を伸ばそうとするだろう。つまるところ、子供のために、親ができることはあまりないのだ。
もし、これらが本当だとしたら、いや、おそらく本当なのだが、それは絶望的な話なのだろうか? 僕はそうは思わない。すでに親になっている人たち、あるいはこれから結婚し、子供を作り、親になろうとしている人たちを、子育てに伴う重い責任から解放してくれるからだ。どう育てようと、子供たちの将来は、所詮は、遺伝的な資質や、親の知らぬところでできる偶発的な人間関係でほとんど決まってしまうのだから、いちいち責任を感じていてもしょうがない。子育ては、なるようにしかならないのである。
じつは、僕は学生のときに、子供たちに過酷な勉強をさせることで有名な中学受験塾の講師をしていた。そこで見たものは、親が小さい頃から必死こいて子供に勉強させても、6年生ぐらいになると、そうした早期教育の貯金があっても、後から勉強をはじめた素質とやる気のある子供にどんどん抜かれ、結局、最後は受かる子は受かるし、受からない子は受からない、というものだった。
幸いなことに、僕は経済的にもそこそこ成功し、いくつかの本も売れて、いわゆる成功した人たちと交流する機会が多くなった。そこでわかったこともやはり、元々の本人の資質と、その後の偶発的な人間関係で、成功者は、たまたま成功しているということだった。特に家柄も関係ないし、親が与えた躾や教育もそれほど役に立っているとは思えない。大成功した経営者の中には、貧しい家庭で育った人も少なくない。
日本では、少子化がますます進行している。1人の女性が一生に産む子供の平均数である合計特殊出生率は、4.5人ほどだった戦後から、日本が豊かになるにつれ減り続けた。いまや1.4人であり、人口は減っている。都道府県別では、突出して所得が高い東京が、突出して低く、出生率は1.1人ほどだ。どうやら、人間は豊かになればなるほど、心配ごとが増えて、子供を生まなくなるようだ。このままでは、社会保障制度が崩壊してしまう。日本人は、アフリカの貧しい国を見て哀れんでいるが、そうした国の人口は爆発的に増えており、生物学的には、絶滅の危機に瀕しているのは日本人のほうである。
東京、そして、日本の女性たちが子供を産まない理由のひとつは、子供の教育に多額の金がかかると思い込んでいることだ。しかし、言うまでもなく、公立中学、公立高校から、ほとんどお金をかけずに一流大学に進学し、社会で成功する人もたくさんいる。一方で、親に、塾や家庭教師、私立の学校に多額のお金を払ってもらっても、大学受験にも失敗し、挙句の果てに、大人になってから、親のエゴでやりたくもない中学受験をやらされた、と毒づく人もいる。それだったら、教育にお金をかけないほうが得だ。
結局、子供がどう成長していくかは、生まれたときにすでに決まっている遺伝的資質と、その後の、親が関与できない友人たちとの人間関係でほとんど決まってしまう、と本書には書いてある。だったら、みんなもっと気楽に子供を作って、適当に子育てしたらいいということなのだ。
真実はただそこにあり、作り出さなければいけないのは、偽りだけなのだろう。そして、すこしでもこの世で上手く立ち回りたいなら、まずはその真実を知る必要があるのだ。
関連コンテンツ
蘊蓄倉庫
「避妊法の普及が望まない妊娠を激増させる」ワケとして、著者は以下のようなメカニズムを説いています(9章より)。
性市場では、多数の若い男性と若い女性が互いに性的パートナーを得ようと複雑なゲームを行っている。保守的な社会では、大半の女性が婚前交渉を拒むから、男性が(売春以外で)セックスを手に入れるためには、結婚によって生涯にわたる経済的援助を約束しなければならない。いうまでもなく、これは男性にとってきわめてハイコストな取引だ。
このとき、あるタイプの女性が避妊を条件にカジュアルセックスを受け入れるようになったとしよう。これは一部の商店が(ほとんど)同じ商品を格安で販売するのと同じだから、“消費者”はこぞってこの女性に殺到するはずだ。
そして、この「受け入れてくれる(やらせてくれる)」女の子はまちがいなくモテるのだ。
そうなると、道徳的な女の子(とても多い)はカレシ獲得競争できわめて不利な立場に置かれることになる。好きな男の子がいても、セックスを拒んでいると、カレは「やらせてくれる」女の子のところに行ってしまうのだ。
ユニクロの登場でフリースやジーンズなどカジュアルウェアの価格が大きく下落したように、一部の女の子がカジュアルセックスを楽しむようになると、それにひきずられて性市場における女の子のセックスの価格も下落してしまう。このようにして、保守的で道徳的な社会であっても、多くの女の子が婚前交渉に応じざるを得なくなる。
研究者の推計(マリナ・アドジェイドによる)では、2002年に性体験をもった未婚のティーンエイジャー(13歳~19歳)のうち、「ピルで避妊できる」との理由でセックスした割合は1%に満たない。
このごくわずかな女性が、性市場での男の子と女の子の「ゲーム」のルールに大きな変化をもたらし、コンドームなしのセックスを拒否できない女の子を激増させることにつながっているという。
オーディオブック
担当編集者のひとこと
「残酷すぎる真実」を心に響かせる橘玲さんのレトリック
橘玲さんの最新刊である本書には、なかなか口は出せない、この社会の「残酷すぎる真実」が数多く書かれています。欧米での研究や論文などの最新知見がそれらの証左として示されています。
それだけでも充分な読み応えがありますが、作家・橘さんの魅力は、さらにその先にあります。この社会のタブーを科学的、論理的に明らかにした上で、それらをどのようなレトリックで読者に伝えてくれているのか。その一部を挙げてみます。
*****
ひとは幸福になるために生きているけれど、幸福になるようにデザインされているわけではない(「まえがき」)。
不吉なことが起きると、ひとびとは無意識のうちに因果関係を探し、その原因を排除しようとする。異常な犯罪がなんの理由もなく行なわれる、という不安にひとは耐えられないから、子ども(未成年)が免責されていれば親が生贄になるのだ(1章)。
日本社会は(おそらく)人類史上はじめて、若い女性が身体を売りたくても売れない時代を迎えたのだ……。
「知識社会」とは、知能の高い人間が知能の低い人間を搾取する社会のことなのだ(3章)。
童顔のひとは純真で、素直で、か弱く、温かく、正直な印象を与える。……だが、生きていくのは有利だとは限らない。銀行の窓口担当には適うが、融資の査定担当では「非情さに欠ける」と判断され、割を食うことになる。……逆に、童顔の男性にカネを騙し取られたと訴えたとしても、多くの場合、敗訴する。
私たちの日常的判断は、視覚(見かけ)に大きく依存しているのだ(6章)。
雇用主は、男性の外見のどこを気にするのだろうか。それは美醜でなく暴力性だろう……。私たちは「美貌格差」を批判するが、その差別を生み出しているのも私たちなのだ(7章)。
男女平等が「女性の幸福」を妨げている(8章)。
避妊法の普及が望まない妊娠を激増させる(9章)。
知的能力を伸ばすなら、よい成績を取ることがいじめの理由にならない学校(友だち集団)を選ぶべきだ。女性の政治家や科学者に女子校出身者が多いのは、学校内で「バカでかわいい女」を演じる必要がないからだ。
だが有名校に子どもを入れたとしても……(13章)。
*****
「残酷すぎる真実」を、魅力的なレトリックや心に響く箴言で表現し、読者を堪能させてくれる1冊です。
2016/04/25
著者プロフィール
橘玲
タチバナ・アキラ
1959年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が三十万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。