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秘伝・日本史解読術

荒山徹/著

880円(税込)

発売日:2017/05/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

こんな歴史の学び方もあったのか! 歴史小説作家だからこそ気づくことのできた日本史の盲点とツボ。

こんな方法があったのか! 多くの人が早くから日本史につまずくのは何故か。歴史を学ぶのに欠かせない基礎トレーニングとは何か。縄文時代から幕末まで日本史の流れをたどりながら、真に押さえるべきポイントを解説。ときに中国史、朝鮮史もまじえ、古代史学の妄説や日本仏教への誤解なども追究し、作家ならではの視点で傑作、名作歴史小説の読みどころも開陳。誰でも日本史がすっきりわかる秘伝をここに伝授する。

目次
まえがき
序章 「史観」を語る前にすべきこと
第一章 「遺跡は人なり」と心得よ
コメはどこから来たのか/遺跡=偉人?/縄文人は弥生人に恋をする/日本、日本とこだわるな
第二章 秘伝・日本史収納整理術
歴史の百均とは/一、二世紀は空っぽ同然/歴史の空白で活きる想像力
第三章 古代史学は伝奇文学か
誰が四世紀を謎にした/高句麗は韓族の国ではない/国粋化・右傾化と韓傾化・左傾化/妄説が多すぎる古代史学
第四章 日本書紀を再評価せよ
それは新王朝と呼べるか/「考えたって分からない」が正解/「古事記」人気の陰で/平穏な時代を描くむずかしさ
第五章 史料は原文が面白い
国名は記されていなかった/七世紀日本の平和ボケ/中国側も軽視する白村江の戦い/その出兵と大敗はフェイクか
第六章 超「仏教」入門(上)
お経を上げさえすれば……/仏教のウルトラマン化とは/難問「仏教伝来はいつか?」
第七章 超「仏教」入門(下)
それまで僧はいなかった!/仏教を用いて仏教以外を描いた傑作/小説でも5W1Hに注目/その男、古麻呂
第八章 遷都の裏に政教分離あり
きっかけは女帝崩御/日本の伝統的宗教政策?/「城末安初」の描き方/年号は、下二ケタで覚える
第九章 藤原氏で知る系図の秘訣
門閥制度と福沢先生/見やすい系図とは/すべてを一枚に/長大な系図で歴史を実感
第十章 時代の境目とは何か
鎌倉時代の開始は「一二一九年」!/平安時代も「七八二年」から?/源平もの退潮の理由/名場面の演出法/国民作家が描き替えた最期
第十一章 日本史上の二大画期
源平という「軍閥」/「承久の変」過小評価へ反論/世界史的偉人としての北条義時/読みどころは歴史の喜劇性
第十二章 二つの中国とモンゴルの侵略
中国の源流は「代」?/みんなセルべ族だった/“再建”された中国/なぜ読まれないモンゴルの侵略
第十三章 「皇統」は誰が決めるのか
皇統分裂の事情/武士の総意に基く/歴史小説の使命/歴史の脇役こそ小説の主人公に
第十四章 歴史は「応仁の乱」以後で十分か
マイナーな人物は一族でつかめ/足利一族の系譜/家康につながる新田一族/明治まで生き残る清和源氏/広大な天皇家の血脈/続いたのは清和系だけではない
第十五章 歴史と地理は不可分なり
「六分一家衆」と全国六十八国/旧国と県はどこまで一致しているか/小説にも地図を!
第十六章 「太閤記もの」の読み方
唯一、号泣した小説/わたしは津本チルドレン/朝鮮出兵のドラマ化は夢なのか?/武将の呼び名と律令官職
第十七章 世界史から捉える島原の乱
宗教改革と現代潮流の相似性/欧州三十年戦争の意義/宗教の独善を見抜く/それでも読書は柔軟に
第十八章 史的眼力を「忠臣蔵」で考える
歴史の中の「天使の顔」/「買い言葉」と赤穂浪士/「読者第一」の姿勢/歴史の反復に抗す
第十九章 近くの国より遠くのオランダ
裏方が主役になる時代/歴史のシークレットブーツ/近代化の恩人オランダ
第二十章 小説を楽しむためのスキル
読み手に求められるもの/読者への補助輪を見せない/元号を持ちつづける国
終章 歴史は「取り扱い注意」で
あとがき

書誌情報

読み仮名 ヒデン・ニホンシカイドクジュツ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610716-0
C-CODE 0221
整理番号 716
ジャンル 日本史
定価 880円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2017/05/26

インタビュー/対談/エッセイ

奇想を育むためにも、もっと史実を

荒山徹

 ずっと「伝奇時代小説」という特殊ジャンルで書いて参りましたが、初めて歴史指南、歴史時代小説指南めいた本を出すことになりました。
 わたしの伝奇時代小説といったら、まず朝鮮柳生であり、妖術師や怪獣が跳梁跋扈し、徳川家康の影武者が文禄の役の韓人捕虜であったり、シスコンの柳生十兵衛がエロな夢を見て夢精し褌を汚したり、敵剣士のペニスを瞬時に三段切りにしてダンゴ三兄弟のように串刺しにしたり――と、そんな荒唐無稽で顰蹙もの。良識ある読者にはやりすぎと眉をひそめられ、疎んじられる作品ばかりですので、今回の新書も愛読者の方々におかれましては非常な期待をお寄せくださっているものと拝察いたします。タイトルに「秘伝」の2文字が入っているからにはなおのことでしょう。
 けれども、まことに申しわけないのですが、そのような持ち味は構えて慎みました。日本史を学び、歴史時代小説をより楽しむためには、どんな方法があるのかというメソッドを極めてまじめに開陳した内容だからです。けっ、伝奇を売り物にしているような野郎が、そのようなものを書けるはずがない、読むに値しねえ、ネタなくして何が荒山徹ぞ、という声には敢えてこう反論いたしましょう。
 伝奇時代小説は一見すると史実から遊離して奔放な面白さを紡いでいるかに見えて、その実、史実と表裏一体なのであり、史実の厳しい掣肘、制約、拘束、羈絆を受けています。史料と史料の間の矛盾が奇想を生み出し、その奇想がどれほど荒唐無稽に展開しようとも、最終的には史実に着地し、還元、終熄する――というのが正しい伝奇時代小説です。史実という花壇に発芽し、妖しく咲き誇る奇想の花なのです。
 奇想を育むためには史実という土壌の手入れが欠かせません。そのようなわけで、長らく歴史に苦手意識を持っていたわたしですが、史実の庭師となって丹精を尽くすうち、気がつくと「歴史って面白いよ。こんな学び方があるんだよ」と少しは人さまに語れるようになっていました。その一端を臆面もなく披瀝することにしたのが今回の新書です。歴史はどうしたら効率よく、しかも面白く学べるのかの技術や、そうして得た「背景知識」で読みなおす歴史時代小説の新しい楽しみ方などをつづりました。歴史教育、歴史認識などについても歯に衣着せず書きました。
 就中なかんずく、特筆すべきは、解説をほどこした歴史時代小説の名作を縄文から幕末まで年代順に配置したことで日本史の流れがイッパツで概観できるようになった工夫でしょうか。未曾有、かつてこのような本は無かったと自負するものです。歴史好きが1人でも多く増えてほしい、歴史小説の愛読者、ひいては伝奇時代小説の愛読者も――その一心で書きつづけました。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(あらやま・とおる 作家)
波 2017年6月号より

担当編集者のひとこと

人が、日本史につまずくのは何故か? 作家が明かした学習法とは?

 著者の荒山徹さんは、歴史小説作家として戦国時代や幕末などを舞台に、柳生一族や真田一族などが妖術、忍術、陰陽術を駆使して闘うといった、いわゆる「伝奇小説」分野の作品を多く書いてきていらっしゃいます。
 となると、その作者が書いた歴史の本なんて、またトンデモナイものでは、と思われるかもしれませんが、本書はじつに「正統派」です。
 荒山さんは、小説作品で「奇」をきちんと際立たせるためには、むしろその基礎となる歴史知識はきちんと固めなければならないと、作家になられてからも歴史をどう学ぶかに苦心惨憺したと言います。つまり本書は、その苦心の末に得た「解読術」を惜しげもなく開陳し、読者の皆さんに秘伝しようというものなのです。
 たしかに、荒山さん同様に日本史には関心があるのに、一方で、「年代や用語が絡み合って、どうしても頭にすっきり入って行かない」と言う人も多いのが現状です。荒山さんは、教科書に沿った歴史の学びが、基礎トレーニングを抜きにして、いきなり旧石器時代の細々とした事項の解説から始まるのが、そもそも歴史嫌いを生み出す原因ではないかと指摘します。
 それでは、歴史の基礎とは何か? たとえば、5W1Hをきちんとおさえることだと荒山さんは説きます。そう言われると、「やっぱり年代暗記か」と思われるかもしれませんが、そうではありません。When(いつ)にばかり気を取られ、他の4W1Hを軽視しているのが、歴史教育の落し穴ではないかと指摘するのです。
 なるほど、とくにWhere(どこ)などというのは結構軽視されているようです。歴史では必ず出てくる出雲、武蔵などという旧国名も、教科書の見返しなどには一覧図が載っていたりしますが、これをきちんと習った記憶のある人は少ないはず。「摂津とは今のどこですか?」と聞かれて、パッと答えられない人は結構多いのでは。最近、NHKの「ブラタモリ」が人気なのも、歴史と地理が融合されないままだったことへの反動なのでしょう。
 この他、中国史や朝鮮史、さらには歴史小説の名作、傑作などもまじえながら、日本史の奥深さを見せてくれる本書。歴史好きの人にも、歴史嫌いの人にも、どちらにもおすすめできる一冊です。

2017/05/25

著者プロフィール

荒山徹

アラヤマ・トオル

1961(昭和36)年富山県生まれ。上智大学卒。新聞社、出版社に勤務の後、韓国へ留学して朝鮮半島の歴史・文化を学ぶ。帰国後の1999年に『高麗秘帖』で作家デビュー。伝奇的な作風の歴史小説でとくに注目される。主な作品に『白村江』『柳生大作戦』『魔風海峡』など。

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