
指導者の条件
814円(税込)
発売日:2018/11/16
- 新書
- 電子書籍あり
「信頼」から、ドラマが生まれる。名将たち24人の言葉と流儀。
競技へのあくなき情熱、選手との意味ある対話、チームをまとめる意識改革――その言動は時に厳しく、時にやさしい。絶え間ない競争のなかで最高の結果を勝ちとるためには、テクニックやメンタルの強化だけではなく、指導者と選手たちとの勝敗を超えた信頼こそが不可欠だ。独特の指導でアスリートに成長と栄冠をもたらした、伝説の指導者たちの極意と矜持。
【変える力】
「自信を持ってプレーすることが最高の戦術」……佐々木則夫/気づかせる
「勝てると自分を信じないでどうして勝てる」……オレグ・マツェイチュク/対話
「あの一球はない」……大矢明彦/意識改革
「常により良いものを求めろ」……水野彌一/即断実行
「何事も腐らずにやれば必ず人生の花は咲く」……小嶺忠敏/迫力
【叱る力】
「練習は喧嘩だ」……宇津木妙子/服従
「何事も情熱を注入してやらんといかん」……星野仙一/鉄拳
「嫌われる勇気が必要なんです」……井村雅代/叱咤
「お前としたことが」……松平康隆/叱責
「自分でわかるはずだ」……松本清司/無言
【見抜く力】
「個性を削っては元も子もない」……仰木彬/運気
「足を使い、自分の目だけでたくさん見ろ」……根本陸夫/情報
「やってみせなければ人は納得しない」……林由郎/治療
「試合が始まったら選手の感性」……石山建一/眼力
【鍛える力】
「できるまでやればいい」……井上真吾/身体で覚える
「プレッシャーを感じなければダメなんだ」……石浦外喜義/限界を求める
「僕の体の中には後退という文字はない」……北島忠治/「勝て」とは言わない
「ウチくらい練習をしているチームは他にない」……古葉竹識/耐えて勝つ
「練習は手段にあらず。目的そのもの」……中村清/「形影相伴う」まで
【魅せる力】
「俺たちが欲しいのはこれじゃねぇ!」……上田昭夫/演出
「剃るぞ!」……八田一朗/ハッタリ
「骨は俺が拾ってやる」……大西鐵之祐/本気
「集団の一員であることを自覚する」……清原伸彦/相手の心を掴む
「これを走るとまた強くなっちゃうね」……小出義雄/ホメ続ける
おわりに
主要参考文献
書誌情報
読み仮名 | シドウシャノジョウケン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 新潮45から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610789-4 |
C-CODE | 0275 |
整理番号 | 789 |
ジャンル | スポーツ・アウトドア、スポーツ・アウトドア |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 814円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/11/23 |
インタビュー/対談/エッセイ
「信頼」の裏付けはあるか
こんな呟きを吐いたり、逆に耳にしたりしたことはないだろうか。
「今度はいい担任の先生に当たった」、「今の上司はウザイ。次の異動まで我慢するしかない」、「○○監督の指導を受けたくてこの学校に来たんだ」等。学校や職場における指導者への評価であり、この先の運命は“彼ら次第”と言わんばかりのものだ。果して理想的な指導者像があるのか。評判の指導者の下ならば能力は開眼するのか。
たとえば、シドニーオリンピックのマラソンで金メダルに輝いた高橋尚子である。彼女は中学高校大学と陸上に明け暮れ、オリンピックの代表選考にまでは及ばなかったものの、それなりの成績をおさめた。それが認められて名門実業団からの誘いもあったが、「とことん陸上を極めたい」と半ば押しかける恰好で情容赦のない練習で知られる小出義雄監督の門を叩いた。高橋の半端ない覚悟は小出の厳しい練習にも耐え抜き、結果、実を結び、国民栄誉賞をも手にした。高橋が他の指導者の下ならばどうだったか。小出が他の選手を指導したら……。一つ断言できるのは、高橋と小出は「信頼」の二文字に裏付けされた師弟関係だったということである。
昨今、スポーツ界ではパワハラが後を絶たず、金メダリストにまで飛び火する深刻な問題になっている。時代の変化に対応できない旧態依然たる体質から抜け出せない指導者が槍玉に挙げられているが、彼らも選手時代に理不尽な指導を受けた“被害者”で、その“マニュアル”は体の芯にまで頭の髄にまで染み渡り、そう簡単に捨て去ることができずにいるのだ。手を挙げる物理的な暴力と、過度な罵声怒声で怯えさせる言葉の暴力は、「昔は当り前だった」との反論が返ってきそうである。だが、昔にもさまざまな秀逸な指導方法があり、名選手を誕生させてきた伯楽はいた。そこに共通しているのは高橋と小出の間に見られる「信頼」である。これを築けなければその先に栄光は生まれないといって過言でない。信頼を得て勝利に向うプロセスとアクセスはいわばドラマであり、あたかも手品のタネを明かされたようで溜飲が下がる。
本書は14競技24人のスポーツ指導者の流儀を明かしたドラマである。冒頭の呟きが満更でなく、良き指導者との出会いが人生を豊かにさせるのではと思わされる。中には今の時代ならば問題とされる手法も含まれているが、「目からウロコ」と眉根を寄せずに捉えて頂けたら幸いだ。
決して特殊で誰にも真似のできない手法とは思わない。親であったり、部下を抱えていたり、または次は人の上に立つことになる時がきたら、彼らの流儀はヒントになり、またその言葉が頭の中に浮ぶのではないだろうか。
(くろい・かつゆき ノンフィクション作家)
波 2018年12月号より
担当編集者のひとこと
情熱・対話・意識改革……そして「信頼」
レスリングや体操など、2020年東京オリンピックを前に有力競技で次々浮かび上がるパワハラや暴力。いったいなぜこうも続くのか、その線引きはどこにあるのか、判然としない部分もありますが、本書で取り上げる24人の名指導者たちの言行録に、こうした問題を考えるヒントが多々あります。
共通するのは選手・組織作りに対する「情熱・対話・意識改革」、そして勝敗を超えた両者の「信頼」――ビジネスでもスポーツでも、普遍的メソッドと言えそうです。
2018/11/26
著者プロフィール
黒井克行
クロイ・カツユキ
1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』『男の引き際』『工藤公康「42歳で146km」の真実』『高橋尚子 夢はきっとかなう』など。