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「関ヶ原」の決算書

山本博文/著

880円(税込)

発売日:2020/04/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

金がなければ戦はできぬ! 動いたお金は三〇〇〇億円。誰が得して、誰が損した? 『「忠臣蔵」の決算書』に続いて、歴史をお金で深掘りする!

金がなければ戦はできぬ! だが天下分け目の大いくさで、東西両軍で動いた金は総額いくらになるのか? 『「忠臣蔵」の決算書』に続き、日本史上の大転換点をお金の面から深掘り、知っているようで知らない「関ヶ原の合戦」の新常識を提示する。そもそも米一石は現代なら何円? 徳川家康は本当に儲かったのか? なぜ敗軍に属した島津家がおとがめなしで生き延びたのか? 史上最も有名な戦の新たな姿が浮かび上がる。

目次
はじめに
序章
戦国大名の兵糧は自弁が原則だった/豊臣秀吉の兵糧支給方式/秀吉の軍事行動が迅速だった理由/扶持米支給の基準/米一石は現在のお金でいくら?/米の輸送費と城米/金と米の換算/高騰する金/銭との換算/金・銀の比価/「秀吉方式」の実例/小田原陣の時は?/軍役動員の基準/大名の収入
第一章 「関ヶ原」に到るまで
1 豊臣政権と島津氏 島津氏の石高と軍役/島津領太閤検地/新しい島津氏の動員計画 2 秀吉の死 「関ヶ原」の契機/朝鮮からの撤退戦と島津義弘の活躍/伏見屋敷の島津義久/家康の不穏な行動/伊集院幸侃の誅伐 3 家康の独裁政治 前田利家の死去と七武将の三成襲撃/家康、伏見城に入る/家康と豊臣家三奉行/前田利長謀反の風説/日向庄内の乱/家康の調停
第二章 関ヶ原前夜
1 伏見 荒廃しつつあった伏見/西笑承兌の手紙/義弘と家康/留守番は一〇〇石に一人役 2 会津 「直江状」/家康、東下す/家康に従った大名 3 大坂 三成の挙兵/七月十二日の大転換/島津義弘の行動/毛利輝元の参加、従った大名たち/宇喜多秀家の動向/西軍の大名たち/島津義弘、伏見入城を断念 4 再び伏見 伏見城内の動静/伏見城攻め/伏見城落城/島津勢の奮闘 5 小山 小山評定/兵糧の調達/家康と黒田長政/福島正則の清洲城明け渡し/芳春院への約束
第三章 関ヶ原合戦
1 義弘、美濃へ 三成の戦略/島津義弘の焦り/二大老までが/三成の美濃進出/島津義弘が出した長文の書状/晴れがましい出陣なのに 2 岐阜城陥落と家康の出馬 岐阜城陥落/家康が率いた軍勢は/西軍の伊勢進出/鍋島勝茂の右往左往/大津城攻防戦/三成の信頼/島津勢の集結/杭瀬川の戦い/西軍、関ヶ原へ/南宮山の西軍部隊/東軍、関ヶ原へ 3 関ヶ原合戦 開戦/吉川広家の空弁当/三成から島津勢への要請/小早川秀秋の寝返り
第四章 島津義弘の関ヶ原合戦
1 敵中突破 島津勢は敵に向かう/猛勢の中に攻め込め!/長寿院盛淳の討死/手を出さない福島勢、追撃する井伊直政/島津豊久の討死 2 義弘の逃避行 逃走したのではない/島津勢の逃避行/伊賀信楽での危機/堺商人の援助 3 薩摩へ 義弘、妻の無事を確認する/鍋島勝茂の逃避行/義弘の誘い/大坂出船/毛利輝元、大坂城を退去する/三成らの処刑/立花宗茂との再会/義弘の帰国
第五章 九州の「関ヶ原」と島津家の命運
1 九州の「関ヶ原合戦」 島津家の「第二の関ヶ原」/黒田官兵衛の快進撃/柳川城の立花宗茂/宗茂の覚悟 2 島津氏の臨戦態勢 義弘、家臣に加増をする/義久父子への詰問状/井伊直政からの書状/捕縛された島津家臣/東軍方の尋問/忠恒の決意 3 講和交渉は続く 新納旅庵の薩摩下向/島津家中の疑心暗鬼/家康の起請文/義久を取り巻く家臣たち/義弘の起請文/伊集院忠真の殺害/忠恒、大坂に着く/島津家の「決算」
終章 関ヶ原の決算
豊臣時代の終わりの始まり/兵糧米の消費量/西軍に属した者の「決算」/毛利輝元への処分/主な東軍方豊臣系大名の加増転封/その他の東軍大名への加増/「北の関ヶ原」の処分/西軍が失い、東軍が得た総額は?/関ヶ原以前の豊臣家の財政事情/秋田実季に見る蔵入地接収/国奉行が果たした役割とは/関ヶ原合戦の総決算

書誌情報

読み仮名 セキガハラノケッサンショ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610859-4
C-CODE 0221
整理番号 859
ジャンル 歴史・地理
定価 880円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2020/04/24

インタビュー/対談/エッセイ

亡くなる直前まで手を入れていた本

北本壮

 この一文で書き出すことが、まだどうしても腑に落ちない。釈然としない。悔しくてなりません。
 本書の著者、東京大学史料編纂所教授、山本博文さんが三月二十九日にがんで亡くなりました。享年六十三。あまりにも――早すぎる死でした。
 昨年末、『決算! 忠臣蔵』という映画がヒットしました。堤真一さんとナインティナインの岡村隆史さんが出演するオールスターキャスト映画です。興行収入は十億円を突破、岡村さんは日本アカデミー賞授賞式でも話題を呼びました。
 その原作が山本さんの『「忠臣蔵」の決算書』でした。「忠臣蔵」を資金面から考察するという類のない同書をもとに、監督の中村義洋さんが山本さんと綿密に打ち合わせを重ねて脚本を執筆、軽妙でありながら、義士たちの真情を描いた作品の完成となりました。
 撮影現場を訪ね、各地で講演を行い、初日舞台挨拶を客席から眺めていた頃、山本さんの高揚した面持ちには病気の影などまるでありませんでした。『「忠臣蔵」の決算書』に続く本書『「関ヶ原」の決算書』の執筆が軌道に乗り始めた昨年春頃は意気軒昂といってよいくらいでした。
「お金で歴史を考えてみるというのはなかなか面白いものだねえ。発見があるよ」
 いつもダンディで端然としていらっしゃるのですが、シャイな一面もある山本さんが、本書の構想を話す声には弾むような響きがありました。
 本書の冒頭、山本さんはこう書かれています。
「戦争をするのに莫大なお金が必要なのは古今東西を問わない。近現代であれば、ハイテクの艦船や戦闘機、戦車などの装備費が戦費の中でも巨額を占めるだろうが、実際の軍事行動では兵員の移動費や糧食費などにも多くの費用がかかってくる。
 戦国時代から近世始めにかけての合戦でも同様である。装備費=武具の調達のほかに、軍勢の移動費や糧食費にお金がかかった。特に、大規模な合戦では、お金の使い方は総力戦的であったろう。経済力の差が戦力の差に表れることになる」
 学者としての本分を守りながら、書けるギリギリまで書こうという山本さんの端正な文章は、お人柄そのものであった気がします。
 さらなる構想もありました。江戸時代の始まりを告げる「関ヶ原」の後は、「明治維新」を決算するかなと仰っていたのです。
 しかし、それは叶いませんでした。本書の校正を終えた三日後、山本さんは天に召されました。最後のメールは三月二十六日十六時三十分、「ありがとう よろしく」とのみありました。
 最後の最後まで仕事に注力されたお姿には感謝と畏敬の念しかありません――でも担当編集者としてはどうしても申し上げたいことがあります。
 先生、もっと、お仕事をご一緒したかったです。

(きたもと・たけし 新潮社編集者)
波 2020年5月号より

薀蓄倉庫

東軍と西軍は互角だった?

 一般的に、「関ヶ原の合戦」と言えば、徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍ががっぷり四つに組んだ天下分け目の決戦として知られています。数年前の大河ドラマ「真田丸」では主人公・真田幸村の父、真田昌幸を草刈正雄さんが演じて人気を博しましたが、その真田昌幸が活躍したのもこの時。西軍に与した昌幸は三成と連携して関ヶ原の遥か東方、自らの居城である信州・上田城で家康の息子、秀忠の大軍3万8000を引きつけます。これだけの兵力が最終決戦に参加できなければ、さしもの家康も勝ち目はなかろう……と昌幸が思ったかどうかは知りませんが、この決戦、実際にこれまでは東軍7万、西軍10万の戦いとも言い習わされてきたのです。しかし結果は西軍の惨敗。西軍に与していたはずの小早川秀秋が突然裏切り、背後から攻め寄せてきたから……というのが定説になっていますが、果たしてそうなのでしょうか?
 現在の歴史学が示す「新常識」は、東軍7万、西軍○万という数字。
 詳しくは本書をお読みいただければと思いますが、「よく知っている」と思い込んでいる関ヶ原の戦いですら、常識は塗り変わっています。
 兵力は経済力の差。
 そのことが如実にわかる本書をお読みいただければ、「こうしていたら西軍も勝利できたのでは……」などと歴史のifに思いを馳せる歴史好きも、想像の翼の形が変わるかもしれません。

掲載:2020年4月24日

担当編集者のひとこと

天国で次作を

 本書の著者、山本博文さんは2020年3月29日の早朝、帰らぬ人となりました。本書の最後の校正を私に送って下さってからわずか3日後。青天の霹靂でした。
 がんであるとは仰っていました。腎盂がんというのが正式な病名であるようですが、最後にお目にかかった際、「実はがんでね」と。これから入院する東大病院1階のタリーズで、コーヒーをすすりながら。肝臓にも、肺にも、転移しているようなんだよ、といつもの山本さんの穏やかな声音と顔色で、淡々と仰っていたのが3月5日のことでした。それからわずか3週間。手術や、化学療法や、放射線治療や、がんに対抗する手段はさまざまあるはずです。わたしの妻は、最初のがんが見つかってから11年半、再発して治療法のない状態でも4年半を生きました。残されている時間はまだまだあるはずだと私は思い込んでいました。山本さんも、そう思っていらっしゃったかもしれません。少なくとも、入院されるときまでは。
 昨年は、山本さんの『「忠臣蔵」の決算書』が映画化され、「決算!忠臣蔵」として大々的に公開されました。その数年がかりの製作過程の折節に立ち会いながら、山本さんは、確かにお金の面から歴史を見つめ直してみるのは面白いのかもねえ、と仰って、本書『「関ヶ原」の決算書』の執筆に入られました。江戸期がご専門の山本さんです。『「新撰組」の決算書』も書けそうだなあ、『「明治維新」の決算書』も書いて下さいよ、などといったやりとりをしながら原稿は昨年末に完成、いよいよ刊行を目前にして、山本さんは旅立たれてしまいました。
 私たち編集者は、著者がいて初めて編集者たりえます。
 山本さんの思い描いておられた未来の執筆計画がどのようなものであったかはもちろん、私などが知る由もありません。が、それでも思わずにいられないのは、私が読みたいと切実に願っていた『「新撰組」の決算書』も、『「明治維新」の決算書』も、もはや読む機会は永遠に失われてしまった、ということです。
 ただ、それと同時に思うのです。私たちには、最後に本書、『「関ヶ原」の決算書』だけは読む機会が与えられたのだ、ということも。
 人との出会いが一期一会であるように、本との出会いもまた、そうであるのでしょう。
 この拙文を目にされた方が、本書を手に取って下さることを祈ってやみません。

2020/04/24

著者プロフィール

山本博文

ヤマモト・ヒロフミ

(1957-2020)1957(昭和三十二)年、岡山県生まれ。東京大学文学部国史学科卒、同大学院修了。東京大学史料編纂所教授。専門は近世政治史。新しい江戸時代像を示した『江戸お留守居役の日記』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。『島津義弘の賭け』『「忠臣蔵」の決算書』など著書多数。

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