一汁一菜でよいと至るまで
902円(税込)
発売日:2022/05/18
- 新書
- 電子書籍あり
料理に失敗なんて、ない。「一汁一菜でよい」という、家庭料理の斬新なスタイル。そこに至るまでの修業、出会い、発見、迷い……、すべては人を幸せにする料理につながっていく。
料理に失敗なんて、ない――レストランで食べるものと家で食べるものとを区別し、家庭では簡素なものを食べればよい、という「一汁一菜」のスタイルを築いた料理研究家・土井善晴。フランス料理、日本料理の頂点で修業を積んだ後、父と同じ家庭料理研究の道を歩む人生、テレビでおなじみの笑顔にこめられた「人を幸せにする」料理への思い、ベストセラー『一汁一菜でよいという提案』に至るまでの道のりを綴る。
書誌情報
読み仮名 | イチジュウイッサイデヨイトイタルマデ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 波から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610950-8 |
C-CODE | 0276 |
整理番号 | 950 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 902円 |
電子書籍 価格 | 902円 |
電子書籍 配信開始日 | 2022/05/18 |
インタビュー/対談/エッセイ
「一汁一菜」で幸せになって欲しい
やっと本が出ることになりました。『一汁一菜でよいと至るまで』という、初めての新書です。
この「波」で2018年の11月から、一年以上にわたって連載した文章をまとめて、加筆して、書き直して、削って、また加えて、と、何度も試行錯誤したものです。連載当初から、拙い私の文章を楽しみにしてくださっていた方がいらして、その上、「いつ本になるのか」という問い合わせのお電話を何本も頂戴した、と担当の編集者さんから聞きました。本当に、ありがたいことです。そういう方の顔が浮かんで、頑張れました。
連載の当初は、毎月の締め切りに間に合わせるのに精一杯で、連載原稿を書くことそれ自体が挑戦でした。それをまとめるというのですから、さらなる大きな挑戦です。そもそも、連載を始めるにあたり、担当の方に言われました。
――『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)で書いたような、ある意味で、料理研究家としての自らの首を絞めるであろう「提案」をする、土井さんのような奇特な料理研究家がなぜ誕生したのか、ご自分のことを書いてみてください。
言われてみれば、料理研究家の父親を持ち、料理の道を歩むことは十代の頃には志していました。とはいえ、あまりにも何もできない自分がそこにはいて、スイスやフランスへ武者修行、帰国時には神戸のフレンチで、そして自分に足りない日本料理の現場「味吉兆」で仕事しました。その後父の料理学校を手伝い、教壇に立ちましたが、修業時代に出会った素晴らしい人、技、美しいもの、その全てを伝えるのは難しいことでした。
そこで大きな壁にぶち当たるのです。プロの料理と家庭料理の違いをどう考えるべきか。その後、悩みに悩みました。とにかく手足を動かして、会うべき人に会って、たくさん話して考えて、とやってみるしかなかった。父、土井勝は、「善晴は料理しかできないからね」と言いましたが、その通りで、今もそれは変わらないのです。
1957年生まれの私は、そうして、料理のことばかりに携わる人生を過ごしてきました。それをまとめたのがこの新書です。どうして「一汁一菜」というスタイル、思想に至ったのか、その思考の流れをまとめる結果になりました。連載の企画が出てから五年、「一汁一菜」を最も必要とする、働く世代が読む新書という形になり、嬉しく思っています。簡単に、当たり前に、人生を豊かにする「一汁一菜」に、難しいことは何もありません。それに「失敗」ということもありません。その日の挑戦の結果が伴わなかった、というだけ。誰もが成長途中ですから、大丈夫。
料理という行為、それを日常にする「一汁一菜」というスタイルを武器にして、幸せになってください。それが私の願いです。
(どい・よしはる 料理研究家)
波 2022年6月号より
薀蓄倉庫
料理に失敗なんて、ない。
父、土井勝さんが元祖となったたらこスパゲティ。フランスの「一汁一菜」は野菜スープとパンとチーズ、スープは毎日水で煮る。修業した味吉兆での賄いは、その後テレビ番組で教えた際にも大評判となった「たまねぎのけったん」。はっきり言って、うまい漬物をつける人は信用できる。忘れずにね、味噌汁は何を入れてもいい!
料理研究家、土井善晴さんが「一汁一菜」という日常のスタイルでもある「思想」にたどりつくまでに出会った、魅力的な人や食。すべてが、料理人生に活きていきます。料理で失敗だと思うこと、あると思います。でも、それを「失敗」に終わらせてはもったいない。いくつになっても、成長していると思えばよいのです。
掲載:2022年5月25日
担当編集者のひとこと
5年間、発酵させた1冊です。
「一汁一菜でよい」という、家庭料理における斬新なスタイルの提案は、毎日の料理にプレッシャーを感じる人たちにとって大きな励ましとなりました。『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)はロングセラーになっています。根源的で画期的なこの「提案は家庭料理に革命的な変化をもたらしたといえます。それなら、そこに至るまでの土井さんの半生と思考の過程とは、どのようなものだったのか。そんな疑問から、企画が生まれたのはなんと5年前のこと。まず、2018年の11月から月刊誌「波」で1年以上にわたり連載をいただきました。その後も加筆して、修正して、また直して、という試行錯誤を経て、やっとまとまったのが『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)です。発酵期間は充分、土井先生の言葉が見事に熟成し、味わい深いものになりました。
具沢山の味噌汁、ご飯、そしてお漬物があれば大丈夫。そんな「一汁一菜」に至るまでの修業、出会い、発見、迷いの数々。テレビでおなじみの笑顔にこめられた、料理への真摯な思いが、土井さん自身の足跡を辿ることで見えてきます。料理人として、その後は、料理研究家として、積み重ねてきた料理人生を追体験して見てください。すべては「人を幸せにする料理」へと、つながっていくのです。
2022/05/25
著者プロフィール
土井善晴
ドイ・ヨシハル
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』、『料理と利他』(共著)、『くらしのための料理学』など多数。