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あなたの小説にはたくらみがない―超実践的創作講座―

佐藤誠一郎/著

858円(税込)

発売日:2022/09/20

  • 新書
  • 電子書籍あり

主人公が無駄にモテる。意味なく「私」が語る。キャラばかりが立つ。佳作止まりです。

小説の新人賞には「傾向と対策」が通用しない――評価の物差しは、時代とともに常に変化し続けているからだ。では、入賞する作品としない作品の違いはどこにあるのか。古今東西の様々な名作から、作家たちの「たくらみ」を暴き、執筆の基礎からテクニックまで徹底解説。編集者として数多くの著名作家を担当する傍ら、五つの新人賞を立ち上げた著者だからこそ語れる、小説家には書けない小説の書き方!

目次
第一章 小説指南書には要注意
小説を書く理由を今いちど問い直す季節/作家の数だけ「書き方」はある/物語の女王かく語りき/アーティストかアルチザンか/「正解」に至る家元制度の誘惑/作家による「書き方本」は究極の自著解説/小説指南書の最適格者とは/コラム ツカミのある冒頭(1)
第二章 小説の物差しはどんどん変化している
傾向と対策が機能しない!/変化に次ぐ変化――エンタメ小説市場の四十年/ブームに惑わされっぱなしの編集者/信長や龍馬人気も、源氏物語でさえも/「キャラ立ち」狂騒曲/小説を評価する際の五大要素とは/ガイジン曰く「日本の文学は面白くない」/キャラ立ち最優先の時代の次には……/小説の本卦還り/コラム べからずの部屋(1)
第三章 「起承転結」はウソかも知れない
「承」って何?/中国起源で文科省公認なのだが……/「承」の行方/三幕構成はソナタ形式/クライマックスが三度なら、ターニングポイントは二度/誰も「統一理論」を示そうとしない/構成がしっかり頭に入ったとしても……/意外性はなぜ必要なのか/話の順序を「ペタペタ」で考える/時系列と「ペタペタ」/スタンダードはあくまでスタンダード/コラム ツカミのある冒頭(2)
第四章 誰の視点で書くべきなのか
小説コンクールは一人称だらけ/いちど「自分」から離れてみよう/日本のノンフィクションの特異性/一人称をエンタメ界の職人たちが使うとき/六つのパターン/それぞれに特性あり/視点人物が多すぎる?/複合型は名作だらけ/三人称ノンフィクションと語り部を立てたフィクション/主人公と視点人物が同じとは限らない/二人称という離れ業/コラム べからずの部屋(2)
第五章 キャラクター狂騒曲よ、さようなら
「女が描けてない」と大家言い/根拠なきモテ系小説/バカが描けてない/最初のキャラ設定で通すのは不自然の極み/人間関係は必ず変化する/脇役はたやすく主人公は難しい/矛盾のない人間はいない/多重人格でもないのに別人格/登場人物の整理統合を/走りながら人物紹介を/コラム ツカミのある冒頭(3)
第六章 安易な同時代性は無用
現代語訳源氏物語、第四次ブーム到来か/コンテンポラリーな源氏物語/古川日出男の場合/藤沢周平かく語りき/同時代性なのか普遍性なのか/小説もメディアの一部である/猪瀬直樹『ペルソナ』のラストに注目!/『それから』の代助が最後に見たもの/コラム べからずの部屋(3)
第七章 テーマを説くな、テーマを可視化せよ
テーマになり得るものと、なり得ないもの/公序良俗もテーマにならない/七つの大罪/ピンとくる罪、こない罪/「こうであったはず」の自分になる/小説のテーマに多い「三つの大罪」/教皇フランシスコが指摘するコロナ禍時代の「怠惰」/第一の大罪/そして動機、さらにテーマへ/動機は時代を映すのみに非ず/『火車』に見る動機からテーマへの進化論/時代小説における動機は、現代小説より素朴!?/作者がテーマを語るのは是か非か/主人公がテーマを語るのは是か非か/「可視化」されたテーマだけが読者を揺さぶる/コラム ツカミのある冒頭(4)
第八章 ロジックで押し切らないという選択
コンバート/裏切り者呼ばわりされた直木賞作家/ミステリーを踏み台にする度胸を持て/ミレニアムで別の作家になった!/トラウマを背負った人々の物語/ロジックの輪を閉じては成立しないジャンルとは?/恋愛小説を金太郎アメにしないために/不可能性が高みに導く/怖すぎた後楽園のアトラクション/構成に問題あり/予感が何より大事/正体が知れれば怖くない/『抱擁』はただのパスティーシュではない/安易なコンバートは絶対禁止/コラム べからずの部屋(4)
第九章 プロの手捌きをすぐ脇で盗み見る
隆慶一郎が最後に会いたがった男/有名人がほとんど登場しないネタ/先行作を超えなければ書く意味がない/『カラマーゾフの兄弟』の大審問官/視点人物の選択はテーマとつながっている/都を知る者の視界/白熱する議論を叙述するための視角/その場に登場しない三成の「視点」/視点人物と文体、ドキュメントと文体/読者をどうツカむか/現在進行形で描くタームを短くする/時系列を動かす/同時代性は「ほの見え」程度がベスト/複数のファクターが連動しつつ決まってゆく/コラム べからずの部屋(5)
最終章 小説の海に北極星はあるのか
小説に「たくらみ」を呼び戻せ/「小説にしかできないこと」を作家は求めすぎる/純粋になることの危険/純文学が発想しエンタメが完成させる/型を壊すためには
あとがき

書誌情報

読み仮名 アナタノショウセツニハタクラミガナイチョウジッセンテキソウサクコウザ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610967-6
C-CODE 0295
整理番号 967
ジャンル 評論・文学研究
定価 858円
電子書籍 価格 858円
電子書籍 配信開始日 2022/09/20

インタビュー/対談/エッセイ

あなたが小説を書く前に知っておきたい二、三のこと。

佐藤誠一郎佐々木譲

今年8月に『裂けた明日』を刊行した佐々木さん。かつての担当編集者であり、この度『あなたの小説にはたくらみがない―超実践的創作講座―』を上梓した佐藤さんと、「小説の書き方」のあれこれをめぐって語り合います。

佐藤 佐々木さんとは忘れられない思い出がありまして、1987年に羽田空港で『ベルリン飛行指令』の企画を語ってくださった時に、パッと年表を出されたことを覚えておられますか。

佐々木 もちろん覚えています。

佐藤 1937年に日独伊三国防共協定、1939年にポーランド侵攻、1940年に日独伊三国同盟、その前後にバトル・オブ・ブリテンがある。その年表の隙間でこういうものが書けると、『ベルリン飛行指令』の構想をお話しになった。私はもの凄く興奮しました。この記憶は私にとって忘れられないものです。ああいうふうに年表を元に構想を膨らませることは、以前からやられていたんですか?

佐々木 あの時が最初です。歴史年表を見るとき、日本の年表、外国の年表、とバラバラに眺めてしまうのですが、横に見ていくと面白いものが見えてくることに気がついたんです。

佐藤 私が新潮新書『あなたの小説にはたくらみがない』を書くきっかけは、作家志望の人たちの中には視野が自分の生活圏内にとどまって、なかなか抜け出せず悩んでいる人が多いと気づいたことです。佐々木さんが日本や世界の年表を眺めるのと対極の姿勢ですね。

佐々木 若い人の作品を多く読んでいるわけではないのですが、自分を中心にした割合小さな半径の話を書く人は確かにいるなと思いますね。それが悪いことではないのですが、小さな半径の出来事は私にとって目下の関心ごと、書きたいことではないというふうに思っています。でも短編などでは書いていますけどね。

佐藤 ところで以前、精神科医で作家の帚木蓬生さんに、「小説を書く理由は?」と伺ったら、「佐藤さん、それは世直しですよ」とおっしゃるんですね。佐々木さんはいかがですか。

佐々木 一言では言えないですが、世の中に対するやや強めの問題意識があるとは思いますね。

佐藤 私は小説もジャーナリズムの一環だと思うんですね。佐々木さんの新刊『裂けた明日』は内戦が続く近未来の日本を描いていますね。南海大震災をきっかけに戦争が起こり衰退の一途をたどる日本。一方、お隣の朝鮮半島には統一国家が誕生している。設定としては近未来ではあるのですが、この世界の出来事は本当に今の日本ですぐに起こってもおかしくないと感じさせられました。

佐々木 まさにその通りです。今作は近未来小説というジャンルに入るでしょうが、今からわずか数年後なのかなとも読める。また、近未来SFでもありつつ、近過去を改変した小説でもあるのです。

佐藤 佐々木さんの近年の著作には、こういった歴史のifを描くものが多々見られますが、作家の腹の底にある動機とは何でしょうか。

佐々木 私は北海道生まれなんですが、小学校の社会科の副読本に北海道は独立していた時期があったと書かれていて、物凄く興奮した覚えがあります。それが「五稜郭」三部作や、真正面から戦争を取り上げた一連の作品に繋がっていきました。
 そういった創作活動の中で、日本の近代史の中でifという問いかけが成立し、かつ小説にしたときに魅力的な局面はどこだろうと考えるようになりました。その結果、例えば『抵抗都市』では「日露戦争にもし日本が負けていたら」という世界を書くことになりました。

「型」を学び、「型」を破る!

佐藤 一方、作品の構成を見ると、まず主人公がいて、そこにミッションが舞い込んでくる。これは佐々木さんお得意のパターンでもありますよね。

佐々木 これはハードボイルドの様式をそのまま使っているんですね。ジャンルの様式を使うと書きやすいんです。例えば『ベルリン飛行指令』は冒険小説で、まず最初に主人公が果たさなければならない「使命」が出てくる。次に長い距離の移動がある。最後に主人公が使命を果たしたとき、読者が読み始めたときとは違った人物になっている。これが様式の一つです。

佐藤 当時、その秘訣を教えてくれていれば、もっといい編集者になれたかもしれない(笑)。

佐々木 言いませんでしたか?(笑)構成と言えば、佐藤さんは著書の中で、ソナタ形式について言及されていますよね。

佐藤 長年小説講座を担当してきた中で、これから小説を書こうとしている、あるいは何作か書いたんだけど……という人に一番相談されるのが、構成の悩みなんです。
 音楽の世界にはソナタ形式というものがあって、それを小説の時間形式になぞらえる方法もあるよという提案をしました。

佐々木 実は、私は自分の作品を書き出すときに構成についてそれほど綿密に考えたことがないんです。せいぜい考えて、発端があって結末がある、その中に、いくつものシーンがあって、串焼きの串のようにストーリーが刺さっている、ぐらいのものです。
 ジャンルにもよりますが、エンターテインメント小説の中には、様式が非常に厳格に出来上がっているものもありますよね。ハードボイルド小説や、冒険小説もそうです。歴史物で言えば捕物帳、決まった様式の中で書くことにこそ意味がある。
 これから小説を書きたいという人たちが考えるべきはその様式。様式のどの部分を踏襲し、どこを外すか。それを考えていくのがいいんではないかなというふうに思うんですね。

佐藤 それは全く同感です。やはり、「型」もないのに「型」を崩すっていうのは愚かです。まずは型を使って書いてから自分なりの方法を模索してほしいですね。
 そういった意味でも、本書では「起承転結」ではなく、「ソナタ形式」になぞらえる理由を解説しています。

これからは「テーマ」が来る!?

佐藤 令和はコロナに戦争にと、今までにないぐらい世界が変動している時期ですよね。
 私は小説にとって何が一番大事かという順番を遊び半分でずっと考えているんですが、1960~70年代ぐらいまでは「1に文章、2がテーマ、3・4がなくて、5に筋、つまりストーリーだ」と言われていたんですね。
 その後1980年代の後半ぐらいから、「やっぱり小説は面白くなきゃ」、つまり筋重視になってきたのが編集者としての実感です。文学賞の定義にも「豊かなストーリー性」みたいなことが盛り込まれてきて、ミステリー、サスペンス、冒険小説が非常に隆盛を極めた時代が続きました。
 それがひと息すると、今度は「キャラクターだ!」という声が聞こえてきて、書店のポップでも「脇キャラがいい」などのようなコピーがあちこちに並びました。作家も編集者も書店もキャラクター第一主義、というのがミレニアム前後の空気感としてありました。

佐々木 キャラクターと言われると、私なんかはやはりシリーズものを思い浮かべてしまいますね。それにハードボイルド小説の登場人物たちというのは昔からキャラが立っていました。
 ライフスタイル小説の金字塔とも言われたロバート・B・パーカーの作品や、佐藤さんの本の中でも書かれているローレンス・ブロックの「マット・スカダー」シリーズもその一つですよね。これはある事件をきっかけにニューヨーク市警を辞めたアル中の探偵が主人公で、ああいうのをキャラというのであればわかるけど、それとはまた違う「キャラ」重視の時代があったわけですね。編集者から作家へそんな要望が行くこともあったのでしょうか。

佐藤 ありましたね。この脇キャラをもっと派手にしてくださいとか、キャラの口調に個性を持たせてくださいとか。佐々木さんは人物造型の点でもピカイチだから編集者も伝えなかったのでしょう(笑)。海外モノのキャラとはまた少し違う意味合いだったんです。私個人としては小説の本来の役割とは違うのではないかと感じていた部分もありましたが、2010年代には静まってきたように思います。
 時は流れて2022年なのですが、未曾有の出来事が起こっている今の時代になって、これからは原点に戻ってきちんと一からテーマを考えよう、という流れを最近の文壇からは感じています。この点、『裂けた明日』はすでにその流れを体現していますね。ここに見られる危機感というものは、ifが招いたものという以上に現実的です。ただ、例えばですが「コロナ」というテーマに真正面から挑んだ小説としては、さすがにまだ決定版が出ていないような気がするんです。佐々木さんはどう思われますか?

佐々木 今まさに人類が経験している、想像を超えた「災厄」っていうのはテーマにはしづらい気がしています。特にエンターテインメント小説では難しいのではないでしょうか。
 事実、いまだに東日本大震災を真正面から取り上げている小説は少ないように思います。ただ純文学であれば、それは書けるかなとも思いますが……。

過去の名作は「ネタの宝庫」

佐藤 佐々木さんや私の世代は、とにかく海外文学や海外サスペンスなどをたくさん読んで育ってきましたよね。

佐々木 私の場合は、小学生になった時に親父が講談社の『少年少女世界文学全集』を買ってくれたんですね。それが読み終わったら、今度は親父の本棚から新潮社の『世界文学全集』を取り出して読みました。
 他に思い出深いのが、高校生の頃に河出書房新社から出版された『カラー版 世界文学全集』。この第1回が『戦争と平和』だったのですが、たしかソ連版の映画「戦争と平和」が公開されるのに合わせての発売だと記憶しています。

佐藤 今、海外作品がマーケット的には非常に苦しい時代で、読者が減ってきています。でも佐々木さんが挙げられた『世界文学全集』や、私が学生時代に夢中になった筑摩の『世界ノンフィクション全集』など、これらの作品群というのは、ものすごく大きな力を持っています。ここには小説の「ネタ」がたんまり眠っているのでは、と考えているのですがいかがでしょうか。

佐々木 本当にその通りですね。ただ今の時代は活字以外で面白いものが消化しきれないぐらいある。クリエイターの基本として見ておかなければというものだけでも膨大にあって、なかなか海外作品にまで手を出しにくくなっているのかもしれませんね。

佐藤 『あなたの小説にはたくらみがない』では、新旧の日本の名作と同時に海外作品も取り上げつつ、小説の書き方を紹介しています。何から読めばいいか分からない、という人は是非ここで紹介している作品から手を付けてみてほしいですね。

佐々木 過去の名作から学ぶことは私もやってきたことです。

佐藤 私が担当している「新潮社 本の学校」の小説講座では、最新の名作として『裂けた明日』も取り上げたいのですが、よろしいでしょうか?

佐々木 もちろんです。小説をお書きになる皆さんのご参考になれば嬉しいですね。

(ささき・じょう 作家)
(さとう・せいいちろう 編集者)
波 2022年11月号より
単行本刊行時掲載

蘊蓄倉庫

小説に「起承転結」は必要ない?

 国語の授業で作文を書くとき、必ずと言っていいほど習う「起承転結」。文章を書くときには意識する人も多いのではないでしょうか。しかし本書『あなたの小説にはたくらみがない―超実践的創作講座―』の著者は、起承転結の承は必要ないのではないのだろうか、と問題提起します。
 物語の中では、作品の冒頭で読者をツカム「起」、そのツカミを受けて作品の設定や登場人物を紹介する部分が「承」にあたります。しかし、説明箇所に当たるため物語の進行を止めてしまうデメリットがあります。本書では、近藤史恵氏の『サクリファイス』を例に挙げ、小説内時間をストップせずうまく人物紹介を織り込んでいく技を紹介しています。古今東西の名作を取り上げながら、今まで当たり前だと考えられてきた物語の書き方に対する常識を一度疑い、これから小説を書く人に向けて丁寧に基礎から応用までを教える内容になっています。

掲載:2022年9月22日

著者プロフィール

佐藤誠一郎

サトウ・セイイチロウ

1955年生まれ。編集者。東京大学文学部卒業。「新潮ミステリー倶楽部」他三つの叢書を手がけるとともに、「日本推理サスペンス大賞」をはじめ五つの文学新人賞を立ち上げた。日本冒険作家クラブ主催第1回日本赤ペン大賞受賞。新潮社主催の小説講座を担当。2022年10月1日にオープンしたオンライン学習サービス「新潮社 本の学校」で講義を担当。

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