
プロパガンダの見抜き方
1,056円(税込)
発売日:2025/02/15
- 新書
- 電子書籍あり
政治家、官僚、企業、インフルエンサーetc. ──思考を操られないための必読書。全手口暴露!
日々見聞きするニュース、SNS経由の“真実”、皆に愛される「ゆるキャラ」、評判の映画、国家的規模のイベント……発信されるあらゆる情報の裏にある意図と目的を見抜けないと、知らないうちに思考や行動は誘導されていく。それがプロパガンダ3・5時代の現実だ。常に情報戦の最中にいる私たちは何を知っていればいいのか。古今の成功例、巧みな手口、定石等を示しながら、具体的な「見抜き方」を伝授する。
序章 なぜ見抜く技術が必要なのか
1 プロパガンダ・リテラシーの勧め
新人時代の苦い思い出/宣伝に使われてはいけない/プロパガンダからは逃げられない/フェイクとは限らない
2 効果的なプロパガンダは「物語」を持っている
五輪をめぐる美談/美談の効果/非難の沈静化/ヒトは物語を求める/物語の成立要件
3 ゆるキャラとグレタさんは強力なツールとして機能している
ゆるキャラという発明/キャラクターの強さは物語の魅力に直結する/なぜ運動の主役はいつも「若い女性」なのか/物語とウイルスの類似性
第1章 どう生まれ、どう発展したか――プロパガンダの歴史
1 布教が起源だった
カトリックの教えを広めよ/聖書はプロパガンダに適していた
2 宗教改革は世界初のプロパガンダ成功例
衝撃的だったルターの文書/ルターのスッパ抜き
3 活字媒体時代のプロパガンダ
識字率向上が大衆を生んだ/新聞の大衆化
4 国家プロパガンダの誕生
ナチスのお手本はアメリカ/PRの父/経済プロパガンダを開拓/「健全性」を説いたバーネイズ/ヒトラーの学習/PR国家アメリカ/ビジネススクールの必修カリキュラムに/広告代理店の危険性/「広報アドバイザー」島耕作
5 プロパガンダのバリエーション
メディアはマスコミに限らない/貨幣もイベントも
第2章 現代日本人は何に乗せられたか――成功した2例の研究
1 アメリカ流プロパガンダが日本を変えた「郵政民営化」
世耕弘成の役割/不可能を可能に/「民衆の大半は頭があまり良くない」/教育がナチスを躍進させた/二者択一というトリック
2 「望月衣塑子記者」というリアリティ・ショー
優秀な調査報道記者だった/「反アベ」のヒロインとして/人気コンテンツと化した官邸会見/わかりやすい「勧善懲悪」は受ける/急増する露出と著書/奇妙な映画『新聞記者』/イオンと民主党と東京新聞/新聞記者が主人公のリアリティ・ショー
第3章 私たちは情報戦の最中にいる――駆使される数々の定石
1 私たちは戦時プロパガンダの時代に生きている
情報が殺し合いの道具になる/兵士個人が発信者に/ハイブリッド・ウォー
2 プーチンは自ら設定したステージで演技を続ける
電撃訪問の読み解き方/サブ・メッセージ解読/発信のベストタイミング/不自然な光景
3 「定石」が成功の鍵を握る
真実は無視しても構わない/切り取りは有効である/消えた被災地/悪い記憶を薄めるために/分断は有効である/レッテル貼り/ネトウヨ、パヨク、虎キチ/あだ名に要注意/キエフ対キーウの意味/私が巻き込まれた「キーウ」論争/ネット時代になりワーディングの威力は増した/間違っているのは彼らだ/官僚が好む仕掛け/イスラム国の所業を利用/ファクトでもフェイクでもいい/科学への懐疑も利用できる/恐怖の強み/ウクライナの恐怖アピール/「被害者」の強み/「政府が悪事を」という恐怖アピール
第4章 プロパガンダ3.5時代が到来した――マユツバ思考の重要性
1 スマホとSNSが生み出したプロパガンダ3.5世代
誰もがプロパガンディストになった/インフルエンサーになりませんか/キャスティング会社社長の話/インフルエンサー・マーケティング市場/ブラック・プロパガンダ業者/業者の経歴/Dappi事件/SNSとハラスメントは相性がいい
2 プロパガンダからの自衛策とは
ロシアのプロパガンダ工場/西側諸国も同じ穴のムジナ/マケドニアのフェイクニュース工場/石丸伸二氏大量得票の背景は?/SNSの基本設計に埋め込まれた危険性/マユツバ思考
あとがき
参考文献・推薦図書リスト
書誌情報
読み仮名 | プロパガンダノミヌキカタ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-611079-5 |
C-CODE | 0230 |
整理番号 | 1079 |
ジャンル | 社会学、思想・社会 |
定価 | 1,056円 |
電子書籍 価格 | 1,056円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/02/15 |
インタビュー/対談/エッセイ
斎藤知事の「ダーク・オペレーション」にはたまげた
最近、地団駄を踏むほど悔しい思いをした。
兵庫県の斎藤元彦知事が再選を果たした昨年11月17日の選挙で、斎藤陣営のPR会社「メルチュ」の折田楓社長が、そのプロパガンダ戦略を詳細に記したブログを公開したのは同20日だった。
これまで、選挙候補者や政治家、政府のプロパガンダを請け負うPR企業の存在は、大手広告代理店やPR会社の名前が囁かれながら、往々にして実態は闇の中に隠れていた。彼らは隠密と保秘が鉄則で、クライアントとの関係すら否定するのが通常だった。
そうした「影の存在」は、姿を現すとしてもごく稀で、たまに事件や裁判絡みで、実態の一部が明るみに出る程度だったのだ。そうした当事者の隠密性そのものが、選挙プロパガンダが行う世論誘導の「ダーク・オペレーション」(表に出せない秘密作戦)ぶりを語っていた。
ところが折田社長は「弊社が斎藤知事の選挙プロパガンダをやりました」と自ら名乗り出ただけでなく、基本コンセプトから具体的な成果物に至るまで、実に詳細かつわかりやすく、その方法をネットに公開した(公職選挙法など法律に違反するかどうかの議論は措いておく)。長年プロパガンダの生態を観察し続けてきた私も、これにはたまげた。表に出るはずのないものが公開されたのだ。まごうことなく、政治とプロパガンダの関係を示す第一級の重要史料である。もう少し早く公開してくれていたら、と地団駄を踏んだ。というのも、この時点で拙著『プロパガンダの見抜き方』の完成稿をすでに入稿してしまっていた。この件を詳述することが叶わなかったのだ。悔しい。
気を取り直して、この件の教訓を述べると「プロの世論対策業者によるプロパガンダはかくも日常的、ありふれたものになっている」だ。
日本語で「プロパガンダ」というと、ナチス・ドイツやソ連共産党の「政治宣伝」を思い浮かべる人が多い。しかし日本外では“Propaganda”は「政治宣伝」「商用広告」両方を含む。もともとは「布教」を意味するラテン語で原義では「政治」「経済」を区別しない。
PR業者からすれば、売り込む対象が「商品」から「政治家」「政策」に変わるだけで、政治宣伝も商用広告も、メソッドには大差がない。日本政府の政策キャンペーンに大手広告代理店の名前がちらつくのは、実はごく自然なことなのだ。
日本社会は政治宣伝には過剰なほど神経質だが、商品広告にはノーガードに近い。「納豆にダイエット効果がある」とテレビがいえば、翌日には納豆が売り切れる。現在は主力メディアがネットとスマホ、SNSに代わり、プロパガンダの規模も浸透度も桁違いに大きくなっている。そんなプロパガンダが充満した時代に、それに対抗するメディア・リテラシーを育ててほしい。それが本書に込めた願いだ。
(うがや・ひろみち 報道記者)
蘊蓄倉庫
島耕作と政府広報
昨年10月、人気まんが「島耕作」シリーズの一作「社外取締役 島耕作」の中の登場人物のセリフが物議を醸し、作者の弘兼憲史さんと版元が謝罪をするという出来事がありました。沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設工事に関連して、「抗議する側もアルバイトでやっている」といった表現が問題視されたのです。この件、単に弘兼さんらの「認識不足」といった受け止めが大半で、当時の記事でもそういう扱いがほとんどです。しかし『プロパガンダの見抜き方』の中で著者、烏賀陽弘道さんは次のように指摘しています。
「重要なのは、作者の弘兼憲史さんがもともと防衛省の『広報アドバイザー』だという事実だ。タレントやフリーアナウンサーら弘兼さんを含む8人が同省の広報アドバイザーに就任し『防衛省・自衛隊の各種広報活動にご協力いただきます』と2023年6月2日付のXで公表されている。
ミスだったのか意図的だったのかは別として『普天間基地移設に反対する運動をする人は本心で反対しているのではなく、カネをもらってやっている』という内容は、移設を推進する防衛省にとって望ましい、好ましい内容であり、まんがを使ったプロパガンダと見るのが正解だろう」
マスコミ発のニュースに加え、膨大なSNS情報を消費する現代において、見抜き方は必須の教養であることが本書を読むとよくわかります。
掲載:2025年2月25日
担当編集者のひとこと
世界はプロパガンダに満ちている
布袋寅泰さんと吉川晃司さんのユニット、「COMPLEX」に「PROPAGANDA」という曲があります。布袋さんが書いた歌詞では「プロパガンダ」と「ここを出ていくんだ」という韻を踏んだフレーズが何度も繰り返されます。
布袋さんがどういう気持ちで書いたのかはわかりませんが、こんなにプロパガンダであふれている世の中に何だか嫌になってしまい、「出ていきたい」と思うのも無理もない──本書『プロパガンダの見抜き方』を読んだ方はそう思われるかもしれません。
政府や政治家の発信がプロパガンダだ、企業の発表は宣伝だというのはわかりやすい。でも、美談のようなニュース、ヒット映画やまんが、さらには「ゆるキャラ」まで……と言われると、全方位を囲まれたような気分になっても当然でしょう。
しかし、この状況は今後も変わりません。むしろプロパガンダの手口はより複雑化し、巧妙になっていきます。
そんな中で個人ができることといえば、「見抜き方」を身につけることに尽きます。その知識はそのまま、自身がプロパガンダを発信する際にも有効です。
『プロパガンダの見抜き方』は、自らを守る楯にも、相手を攻める矛にもなりうる刺激的な1冊です。
2025/02/25
著者プロフィール
烏賀陽弘道
ウガヤ・ヒロミチ
1963(昭和38)年生まれ。京都大学経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部、「AERA」編集部勤務などを経て退社し、フリージャーナリストに。コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程(軍事論)修了。著書に『フェイクニュースの見分け方』など。