
ヒトと音楽の進化論
1,144円(税込)
発売日:2026/06/17
- 新書
- 電子書籍あり
クジラや鳥たちの歌からAI生成の音楽まで──数万年にわたる「進化の旅」を辿る、響きの革命史。
音楽とは何か。空気のように当たり前すぎて、考えたことさえないかもしれない。だが、巷で聴かれる音楽の「進化」の過程を辿ってみると、科学、哲学、ココロの領域に跨って鳴り響いてきた芸術の、新鮮で豊潤な世界が見えてくる。直立二足歩行を始めた人類と音楽の起源から、劇的な革命をもたらした天才たち、そしてAIによる未来図まで。数万年にわたる旅のハイライトを作曲家の視点で語りなおす、まったく新しい音楽史。
はじめに──地球音楽について
1 直立二足歩行と音楽の起源
音楽脳/失語症と失音楽症/右脳か左脳か/IDS(乳幼児への発話)/絶対音感の「脱学習」/始まりは直立二足歩行/歌と器楽
2 音律と音階
音律とは何か/ピタゴラス音律/基音と倍音/ピタゴラス・コンマ/全音階(ダイアトニック・スケール)/ペンタトニック・スケール/純正律/十二平均律
3 ハーモニー
グレゴリオ聖歌/ポリフォニー/サウンドセル・ピアノ2007/教会建築/音の響き/三和音(トライアド)/和声法(≒コード・プログレッション)/『音楽のサイコロ遊び』
4 バッハと楽譜とハープシコード
近代譜の成立/ハープシコード(チェンバロ)/ヨハン・セバスティアン・バッハ/ミュージシャンズ・ミュージシャン/『スイッチト・オン・バッハ』/デジタル音楽の父
5 ベートーヴェンと啓蒙の時代
二人の天才/産業革命と啓蒙思想/ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン/『交響曲第6番・田園』/『交響曲第9番・合唱付き』/「歓喜主題」/ドイツ語のリズム/芸術家/光と影
6 音楽とモダニズム
モダニズム/エリック・サティ/『ジムノペディ』/家具の音楽/孤高の音楽/ユトリロとキリコ/クロード・ドビュッシー/『牧神の午後への前奏曲』と『月の光』/クロード・モネ/イーゴリ・ストラヴィンスキー/ディアギレフとニジンスキー/『春の祭典』/ポール・ゴーギャン/アルノルト・シェーンベルク/無調への道/十二音技法/究極の抽象音楽/トータル・セリエリズム/ワシリー・カンディンスキー/進化する音楽脳
7 テクノロジーとポピュラー音楽
ポピュラー音楽/前史/ブルース/クレオール音楽/デキシーランド・ジャズ/ジャズ・エイジ/モダン・ジャズ/テンション・ノートと代理コード/チャーリーとマイルス/モダン・ジャズの黄金期/思案に暮れる/ロックンロール/60年代の音楽/ソウルとファンク/フォークとロック/カルチャーになったロック/『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』/マルチトラック・レコーディング/シンセサイザー/サンプラー/シグナル・プロセッサー/ダイナミクス・プロセッサー/ディレイとリバーブ/DAW(Digital Audio Workstation)/音楽メディア/DTMとボーカロイド/ポピュラー音楽の未来
8 音楽の自動生成
情報と音楽/クシュコイ村の指笛/会話の「気分」を奏でる携帯電話/生成AI/AIが作る音楽/手段価値と目的価値
おわりに──存在の音
参考文献
書誌情報
| 読み仮名 | ヒトトオンガクノシンカロン |
|---|---|
| シリーズ名 | 新潮新書 |
| 装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
| 発行形態 | 新書、電子書籍 |
| 判型 | 新潮新書 |
| 頁数 | 288ページ |
| ISBN | 978-4-10-611126-6 |
| C-CODE | 0273 |
| 整理番号 | 1126 |
| ジャンル | 音楽 |
| 定価 | 1,144円 |
| 電子書籍 価格 | 1,144円 |
| 電子書籍 配信開始日 | 2026/06/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
音楽はココロの出来事
「動物が歌う」と云われてもピンと来ない──何故か。生物学者ロジャー・ペインの言葉が興味深い。「ザトウクジラの唄の回転数を上げて再生すると鳥の唄のように聞こえる(中略)鳥の唄の回転数を下げると、ザトウクジラの唄そっくりに聞こえる」。おそらく生き物たちは、それぞれ異なる時間(タイム・ベース)を生きている。時間こそ、音楽で最も重要な要素だ。
ピンと来ないもう一つの理由は、音律と音階だろう。いま巷に溢れる音楽の大半は「ドレミファソラシ」、7音でできている。この全音階と、1オクターヴに12個の半音をどのように配置するかは、古代ギリシアの数学者ピタゴラスが考えた。他の生き物が使うはずはない。
自然発生的に生まれたヒトの音楽は、もともと4つか5つの音でできていた。7音の全音階は、キリスト教が「グレゴリオ聖歌」に使うことで広まった。作曲家が創るクラシック音楽の始まりだ。
この全音階と1オクターヴの構造を知れば、体系が異なる音楽も扱うことが出来る。地球上ほぼ全ての音楽を包含する、この雑食性と分析力こそ、ヨーロッパの音楽が世界中に拡がった要因だ。
しかしそれは、音楽の優劣を示す訳ではない。ジョン・ウイリアムスは、映画「未知との遭遇」の中で、地球外知的生命体と交信するための音楽を「レミドソ」、4音だけで書いた。その原初的な深い響きに、生命の脈動を感じる。
生物音響学者のギュンター・テンブロックは、歌の定義を「無作為的でないフレーズの連続」とした。つまり、それが音楽であるかどうかは、音を発する側の意図にも因る。音楽は、「ヒトの心理が生みだすココロの出来事」なのだ。
西洋の音楽理論でアナリーゼ(楽曲分析)しても、音楽を理解したことにはならない。音楽には常に、科学と哲学の要素が含まれている。
稀代のシンガー・ソングライターであり偉大な哲学者でもある「クマのプーさん」は云う。「詩とか歌とかってものは、こっちでつかむものじゃなくて、むこうでこっちをつかむものなんだ。だから、ぼくらは、むこうでこっちを見つけてくれるところへ出かけるくらいのことっきり、できやしないんだ」──これこそ作曲家の、まさに実感だ。
現代の音楽の構造は、100年前からほとんど進化していない。変化があるとすれば、それを齎したのは音楽家ではなく、テクノロジーだ。
ドビュッシー、ストラヴィンスキー、チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、ジミ・ヘンドリックス、ビートルズ。20世紀の音楽家たちが総がかりで抉じ開けた扉の向こうに拡がっていたのは、不毛の荒野だったのか。その問いは、今も続いている。
この本は当初、音楽に起きた革命的な出来事を振り返るつもりだったが、結局それは、ヒトのココロの進化を描くことだった。
(さの・よしひこ 作曲家)
蘊蓄倉庫
赤ちゃんは全員「絶対音感」を持っている?
「絶対音感」という語をご存じでしょうか。「2つの音を比べてどちらが高いかを認識する能力」である「相対音感」に対して、「他の音と比較することなく、音の絶対的な高さを認識できる能力」のことです。この絶対音感は、およそ1万人に1人が持つといわれ、幼少期に繰り返し訓練することで身につくとされてきました。
ところが近年、発達心理学者のジェニー・サフランが行った実験によると、生後8カ月の乳児は、絶対音感を持っている可能性が高いことが示唆されたのです。
ではもし本当に赤ちゃんが等しく絶対音感を持って生まれてきているのだとしたら、その殆どが失われてしまうのはなぜなのでしょうか。
それは、絶対音感への依存が言語学習の妨げになるからかもしれない、と言われています。つまり、母親の言葉と父親の言葉に1オクターブの違いがあったとしても、それは同じ言葉で、単語内のアクセントや高低を理解することのほうが重要です。このような背景から、徐々に相対音感の重要性が増し、絶対音感は「脱学習」されるのではないか、とサフランは述べています。
掲載:2026年6月25日
担当編集者のひとこと
人類と音楽の壮大な旅
街中で、家の中で。音楽はつねに私たちのそばで鳴り響いています。では、私たちが日々耳にするその音たちは、今なぜこのような響きになっているのでしょうか? 本書は、人類がその長い歴史の中で生み出してきた音楽の移り変わり──数万年にわたる“進化”の過程を、その転換点に注目して語りなおします。
世に音楽史の本は数多あれど、人類が直立二足歩行をはじめた頃から、AIが自動生成する音楽までを網羅して語ってくれる書籍は他になかなかないはず。そして、私たちがもっとも身近に接する機会の多い音楽の基礎となっている「西洋音楽」史は、ともすれば「いわゆる“クラシック”の成立と、その後の前衛音楽」までの記述で終わってしまいがちですが、音楽の実作者でもある本書の著者は、その後にこそ紙幅を割きます。ブルース、ジャズ、ソウル、ファンク、フォーク、ロックetc……といったポピュラー音楽の発展史や、テクノロジーの進化とともに出現した様々な音楽機材やメディアこそ、今我々が聴く音楽にダイレクトにつながっていると言えるでしょう。
物語を読むように楽しめる「人類と音楽」にまつわる壮大な旅を、ぜひご一緒ください。
2026/06/25
著者プロフィール
佐野芳彦
サノ・ヨシヒコ
1954(昭和29)年静岡県生まれ。作曲家。同志社大学法学部中退、星城大学大学院修了。修士(保健学)。ドラマ・舞台音楽を中心に創作活動を展開すると共に、様々な音楽生成システムの開発に携わる。名古屋市立大学医学部・名古屋工業大学大学院非常勤講師。

































