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今月の表紙の筆蹟/写真は、石川直樹さん。

波 2025年9月号

(毎月27日発売)

100円(税込)

雑誌の仕様

発売日:2025/08/27

発売日 2025/08/27
JANコード 4910068230959
定価 100円(税込)
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今村昌弘/櫻田智也だから書けた警察ミステリ
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大竹伸朗『絵の音』
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【水野太貴『会話の0.2秒を言語学する』&堀元 見『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』刊行記念】
[対談]水野太貴×堀元 見/ゆる言語学ラジオのふたり対談

水野太貴『会話の0.2秒を言語学する』
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【特集 新潮クレスト・ブックス フェア】
ネージュ・シンノ、飛幡祐規 訳『悲しき虎』
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【特別エッセイ】
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【新連載】
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[とんぼの本]編集室だより

石神賢介『おどろきの「クルド人問題」』(新潮新書)
石神賢介/気づけばトラックに追われていた

小澤 實/俳句と職業
【連載】
三宅香帆/推しとハレ 第8回
中村うさぎ/老後破産の女王 第18回
下重暁子/九十歳、それがどうした 第4回
椎名 誠/こんな友だちがいた 第13回
大木 毅/錯誤の波濤 海軍士官たちの太平洋戦争 第6回
高嶋政伸/おつむの良い子は長居しない 第18回
内田 樹/カミュ論 第32回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から

立ち読み

編集長から

今月の表紙の筆蹟/写真は、石川直樹さん。

◎江藤淳『昭和の文人』の一番の読み所は、この保守派の評論家が左翼の文人中野重治の詩「雨の降る品川駅」への深い共感を語った箇所。学生たちの前で朗読するうち、感動で一瞬読み続けられなくなった由。《さようなら 辛/さようなら 金/さようなら 李/さようなら 女の李》という畳みかけの、「あるラディカルな旋律が、突然思いも掛けなかった戦慄を喚び起したから」。
◎あの《辛よ さようなら/金よ さようなら/君らは雨の降る品川駅から乗車する》と始まる詩は、昭和天皇の御大典直後の発表。調べてみると、(『文学研究の扉をひらく』ほか)当時は御大典に向けて多くの朝鮮人が追放された時期で、彼らへ呼びかける中野の詩は初出誌(「改造」)では伏字だらけになりました。ところが朝鮮語の雑誌にはほぼ伏字なしで翻訳掲載され、数ヶ月後には応答歌となる詩が書かれます。それが林和イムファの「雨傘さす横浜の埠頭(大村益夫訳)」。《おまえは異国の娘 おれは植民地の男》と恋愛も絡めつつ《あわれなお前が泣きに泣き かぼそいのどが張り裂けようと/異国の反逆青年たるおれを留めおきはしないだろう》と国家に逐われる側から歌いあげます。
◎今度は林和について調べていくと、松本清張が彼を主人公に長篇『北の詩人』を書いていました。舞台は解放後の朝鮮半島、戦前に転向して日本の植民地政策に加担した林和は、その負い目から戦後はアメリカに利用されて、時代の濁流に呑み込まれる……。古い小説なので資料の偏りが指摘されていますが、国家の前に破滅していく詩人の肖像が例えばル・カレの小説に出てくるスパイよりも惻々と迫ってきたのは、僕があの辛や金や李たちは結局どんなふうに生きただろうと考えたからかもしれません。
▽次号の刊行は九月二十七日です。

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雑誌から生まれた本

波とは?

 1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。

 創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。

 創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。

 現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
 これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。