1976年に始まった夏の文庫フェア「新潮文庫の100冊」が50周年。それを記念して(!?)今年の「100冊」を読み巧者の4人が縦横無尽に語り尽くします!

──今日は「新潮文庫の100冊」の50年記念に、今年の100冊すべてについて語っていただこうと名うての読書家のみなさんに集まってもらいました。オススメの本を挙げるのではなく、全冊紹介してくださるまで座談会は終らないことになっております。
南陀楼 50年と何の関係があるかわからない企画(笑)。
大森 まるで奴隷船だね。
恩田 でも私、100冊すべて読んでやろうと発心したことはあります。数をこなすために薄い本から読んだんですが。
──100冊フェアの名物に小冊子※Aがありますが、その中では100冊を「愛する本」「泣ける本」「考える本」「ヤバイ本」「シビレル本」という五つのジャンルに分けて紹介しています。このジャンルに沿って進めましょう。まずは「愛する本」から。
吉田 サガン『悲しみよ こんにちは』は長く100冊に入ってますね。今も昔も背伸びしたい女子中高生、文学少女が憧れる世界が描かれてます。
恩田 私は朝吹登水子訳で読みました。
大森 あ、いまは朝吹訳じゃないの?
吉田 2009年に河野万里子訳が出ました。ジーン・セバーグ主演の映画もよかったですよね。
恩田 ヘッセ『車輪の下』は、読んだ記憶はあるけど、内容はほとんど覚えてない。主人公が周囲の抑圧に耐えかねて最後に死んじゃうことだけは覚えていて、確か家出して鉄道自殺する話だと思ってたら……。
大森 ラストを捏造してる(笑)。
恩田 今回読み直してみて、こんな結末だったっけ?と驚きました。主人公が死ぬ瞬間は目撃されていないし、事故なのか自殺なのかもわからない。
大森 実は僕、小学生の時に『車輪の下』で読書感想文を書いて、コンクールで賞を取りました。
恩田 えっ、大森少年はこの作品のどこに共感したの?
大森 そこをまったく覚えていない(笑)。なんか暗い話だったなと思った記憶はあるんですが。でも、いまだに読書感想文の定番みたい。いたいけな少年少女の心に訴えるものがあるんですよ、きっと。感想文といえば、サン=テグジュペリ『星の王子さま』も人気ですね。薄いからかな(笑)。
恩田 でも、この作品で感想文書くのは難しいんじゃないかな。「たいせつなことは、目に見えない」というセリフは有名だけど。
南陀楼 「愛する本」のジャンルに谷崎潤一郎『痴人の愛』が入ってるのはびっくりしますよね。そもそも「新潮文庫の100冊」に愛欲について書かれたこの作品が選ばれるとは、心が広いというか教育的というか(笑)。
──年頃の子たちが堂々と愛欲に触れられる機会になるんでしょうね。川端康成『雪国』も同じく、結構あけすけに愛欲が書かれていますが、私みたいな田舎の中学生にはちょっと読み取れなかった。おとなになって再読して「川端先生……」と赤面しました。
吉田 土井善晴『一汁一菜でよいという提案』が「愛する本」に入っているのもいいですね。
南陀楼 食べることや日々の生活、身体などを愛する、ということですか。
大森 タイトルが絶妙だよね。「一汁一菜でよいのだ!」という断定口調じゃなくて、あくまで「こんな考え方もありますよ」という提案姿勢で(笑)。
恩田 土井さんの「ご飯と味噌汁だけでいい」という考え方で救われた人は、たくさんいるんでしょうね。
大森 料理つながりというわけじゃないけど、吉本ばなな『キッチン』が出た時は衝撃的だった。鮮やかな登場でした。
吉田 海燕新人文学賞を取った作品で、単行本の出版は1988年。もうずいぶん長く100冊に入り続けていますね。同じように100冊のテッパン作が、山田詠美『ぼくは勉強ができない』や宮本輝『錦繡』。
恩田 うん、『錦繡』は大昔から入っていましたよね。
──100冊に最初に入ったのは1986年でした。
南陀楼 『ぼくは勉強ができない』ってタイトルも秀逸ですよね。内容ともぴったり合ってるし。
- ※A 書店店頭で配布。また、7月1日より新潮社HPでも公開。なお、これまでの小冊子については、後日公開の「僕が小冊子を作った頃」に詳しい。
さまざまな愛のかたち
吉田 C・Sルイス『ナルニア国物語』も「愛する本」なんだ。

大森 『ナルニア』と『痴人の愛』と『一汁一菜』が同じジャンルに分類されるのはこのフェアだけ(笑)。
──読書の指針として、100冊をわずか五つのジャンルに分けるので、わりあい広義に解釈しております(笑)。
恩田 『ナルニア国物語』は世界的な児童文学作品ですが、いま読み返すと、宗教色の強さに驚かされます。
大森 子供の頃は洋服だんすにハマったけど。今はいろいろな訳がありますが、2024年から出ている新潮文庫の小澤身和子訳はなかなかよかった。
吉田 翻訳者についていえば、新潮文庫のシェイクスピア作品※Bは、ほとんど福田恆存訳なんですね。
大森 坪内逍遥以来いろんな人が訳してきたわけですが、沙翁は訳者によってだいぶ雰囲気が変わりますよね。
吉田 ちくま文庫版の松岡和子訳は比較的最近の訳だから読みやすい。
大森 新潮文庫のシェイクスピア『夏の夜の夢・あらし』の初版は1971年。福田恆存が訳したのはさらに前だから今となってはかなり古いけど、これくらい格調高い日本語のほうが“シェイクスピア感”がある。
恩田 文豪タッチですよね。
吉田 瀬尾まいこ『卵の緒』は家族の話で、「愛する本」にぴったり。
恩田 これがデビュー作でしたよね。
吉田 そうです、坊っちゃん文学賞受賞作。同じ愛でも、三角関係や同性愛、禁断の恋など、さまざまな愛のかたちについて書かれているのが三浦しをん『きみはポラリス』。
大森 湊かなえ『豆の上で眠る』の帯はすごいね。「どんでん返し五輪金メダル級!」※Cって書いてある。
──これは営業部の名物次長のコピーです。少し前からこの帯なのですが、有無を言わせぬ感じでいいでしょう?
大森 とにかくどんでん返しで押していこう、という気概を感じるね。でも、どんでん返しで押すのって、何年か前の流行かと思ってたけど……。
──この帯の反響も大きくて、湊さんの作品は『絶唱』や『母性』が100冊に入る年もありますが、今年はこの作品になりました。
南陀楼 そんなふうに複数の作品が交互に選ばれる作家は多いんですか?
──ええ、たとえば辻村深月『盲目的な恋と友情』。辻村さんは『ツナグ』が入ることも多いのですが、今年はこの作品です。
恩田 この作品、エグそうだなと思って手に取ったんですが、予想通りエグくてたいへん満足しました(笑)。
──「100冊」フェアは、普段あまり読書をしない子どもたちにも本に親しんでほしいという思いも込められています。今年で言えば、「ちびまる子ちゃん」の作者さくらももこ『さくらえび』などを入口にしてほしいですね。
吉田 住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』や、小川糸『とわの庭』なんかも、カバーイラストからして中学生が手に取りやすそうですね。西加奈子『白いしるし』もカバー写真の猫がかわいい。燃え殻『すべて忘れてしまうから』のカバーイラストは、もう少し上の高校生あたりが好きそう。
大森 ドラマにもなったけど、内容的にはさらにもっと上の年代でしょ?
吉田 私もそう思ってたんですけど、燃え殻さんは若い人たちに人気で、サイン会にも高校生が来るんですって。背伸びして、おとなの世界をのぞき見る感じがいいんじゃないかな。

恩田 ジャケ買いなら、高村光太郎『智恵子抄』もありですよ。
吉田 今回、新装版が出たんですね。カバーの切り絵は、ミナ ペルホネンのデザイナー、皆川明さんによるもの。お洋服がかわいくて、大人気のファッションブランドのミナです。ミナのファンは絶対買うと思う。手元に置きたい、飾っておきたい1冊でしょう。
──これで「愛する本」21冊が出揃いました。まだ80冊もあるので、どんどん行きます。次は「泣ける本」!
吉田 町田そのこ『あなたはここにいなくとも』『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』と、町田さんの作品が2冊入っていますね。
──100冊に選ばれるのは、基本的には1作家1作品とされていますが、7月の新刊は別枠扱いなんです。町田さんの場合、『あなたはここにいなくとも』が新刊なんです。
吉田 一方の『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』はデビュー作で、女による女のためのR-18文学賞受賞作「カメルーンの青い魚」が収録されてます。
南陀楼 ところで、なぜかショーペンハウアー『幸福について』が「泣ける本」になっているんですが……。
恩田 今まで何度か挑戦したんですが、すぐ挫折しちゃって。
南陀楼 難しくて泣けるのか……。
吉田 私は大学受験のとき、倫理社会で受験したのでこの本も少しかじっています。ただ、私の時代は「ショーペンハウエル」でした。
──10年に1回くらいブームがやってくる作品で、じつは今年の100冊に合わせてカバーを新装しています。

南陀楼 中島敦『李陵・山月記』は、泣けるのは「李陵」のほう? それとも「山月記」?
吉田 どちらも泣けると思いますが、私は「山月記」冒頭場面の“その声は、我が友、李徴子ではないか?”の部分で、もうグッときちゃいますね。
大森 自尊心が高すぎて挫折する「山月記」のテーマは現代的で、森見登美彦さんも翻案※Dしてるよね。
恩田 あ、河合隼雄『こころの処方箋』も「泣ける本」に入っている! 私は就職したばかりの頃、この作品を読んですごく救われた記憶があります。
吉田 恩田さんの心を救った『こころの処方箋』!
恩田 私が就職した頃に読んだんだから、すごいロングセラーですよね。
吉田 ロングセラーといえば三浦綾子『塩狩峠』もすごい。
大森 小冊子のコラムによると、第1回から50年連続で「100冊」に入り続けている名作のひとつです。意外。
恩田 この本は、サンデル教授で話題になった「トロッコ問題」の最終解決策だと思うんですよね。ブレーキの壊れたトロッコに乗っていると、線路が2本に分かれていた。片方の線路の先には5人が、もう片方の線路には1人がいる。あなたはどちらに進みますかというのがトロッコ問題ですが、主人公の信夫だったら……。
吉田 私もご多分に漏れず、最後はものすごく泣いた記憶があります。
大森 『塩狩峠』も、さっきの『車輪の下』と同じように読書感想文の定番なんじゃないかな。『車輪の下』も50年連続で「100冊」入り作品。
吉田 恩田さんが『車輪の下』を鉄道自殺した話だなんて言ったから……二つの話を混同して記憶してしまいそう。
恩田 変な刷り込みをして、すみません(笑)。
大森 50年間「100冊」で並んでるうちに溶け合ってきたのかも(笑)。
- ※B 『ロミオとジュリエット』のみ中野好夫訳。
- ※C 正確には「このウルトラどんでん返し、どんでん返し五輪金メダル級! すごいのなんの! これはもうどんでん返し法違反ですよ! 100万部突破!」。実物は書店店頭で。
- ※D 『新釈 走れメロス 他四篇』(角川文庫)収録。
映画化された作品も目白押し
吉田 梨木香歩『西の魔女が死んだ』も「100冊」のもはや定番ですね。
大森 いま読むと親目線になるんだけど、こういうおばあちゃんがいたらいいだろうなって思う。ちなみに映画化されたときはシャーリー・マクレーンの娘がおばあちゃん役でした。
南陀楼 湯本香樹実『夏の庭』も老人と子どもの物語ですよね。
吉田 こちらはおじいさん。この小説も相米慎二監督と三國連太郎で映画にもなってて、とても良かったです。
大森 映画「西の魔女が死んだ」のほうは長崎俊一監督作です。
吉田 ディレカン※Eつながりだ! まさかここでディレカンが出てくるとは。
──映画化といえば森下典子『日日是好日』も。樹木希林が出演しているのですが、亡くなる前の彼女が全力を注いだ映画として話題になりました。
恩田 茶道がテーマの本なのに、広範囲の読者に愛されていますよね。続編※Fもありますし。
南陀楼 昔から新潮文庫ですよ、みたいな顔をしているのに新美南吉『ごんぎつね でんでんむしのかなしみ』は、奥付を見ると2年ほど前に出たばかりなんですね。
──新潮文庫ではこれが初の新美南吉作品なんです。不朽の名作。
恩田 「ごん、お前だったのか」というセリフは、みんな知ってるよね。
吉田 不朽の名作といえば宮沢賢治『銀河鉄道の夜』もそう。
大森 この作品も50年ずっと「100冊」入りしていますが、カバーの絵は僕が読んだ頃と変わらないなあ。
吉田 誰の絵なんですか?
──加山又造です。
一同 おおっ!
吉田 『銀河鉄道の夜』はアニメ映画のイメージも強いですよね。ますむらひろしの絵の。
大森 監督は杉井ギサブローで、脚本別役実、音楽細野晴臣という豪華版。あれは名作だったなあ。
吉田 同じく夜空を見上げたくなるのが伊与原新『月まで三キロ』。
恩田 伊与原さんは『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を取ってデビューしたんですが、じつは私、当時江戸川乱歩賞の選考委員やってて、伊与原さんはそちらでも最終候補に残られてたんですよ。
吉田 あの作品からは、今のような作風になるとは思いもしませんでした。
大森 いまやSFじゃない科学小説といえば伊与原さん、って感じですね。
恩田 もともと理系の研究者でしたし、まさに本領発揮されています。
南陀楼 伊与原さんが直木賞を取った『藍を継ぐ海』もこの科学小説路線でしたね。ド文系の僕にも科学分野がよくわかるように書いてくれる(笑)。

吉田 江國香織『号泣する準備はできていた』も直木賞受賞作ですよね。
大森 これはわりと短めの短編を集めた作品集。内容もタイトルもすばらしい。タイトル大賞を贈りたい。
吉田 直木賞受賞作、そして泣けるとくれば重松清『ビタミンF』。
恩田 この帯もすごい。「涙腺キラー・重松清 最泣の一冊」。もしかしてこの帯も、営業部の名物次長さんが?
──はい、先ほどの「どんでん返し五輪」と同じ人物です。
恩田 「最泣」ってなんて読むの?
大森 さいきゅう? さいなき? 重松さん、この帯見て困惑※Gしたんじゃない?(笑)
吉田 帯裏には“『ビタミンF』はFamily,Father,……〈F〉で始まる様々な言葉をキーワードに書かれた短編集”とあります。ファミリーつながりで言うと、ドラマも話題になった早見和真『ザ・ロイヤルファミリー』。
大森 競馬をテーマにした物語で、JRA賞馬事文化賞を受賞しましたね。
吉田 JRAも全振りで応援してました。去年の東京競馬場は、ドラマの番宣ポスターにあふれていて、おおっ! となった。でも、この小説は競馬だけじゃなくて、家族の物語としても感動的なんです。
南陀楼 家族について書かれたというなら、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』も近年の名作です。こちらはノンフィクションで、ブレイディさんの息子の“ぼく”がイギリスでどんな中学生活を送っているかを描きながら、いまの世界の普遍的な問題を扱っています。
恩田 これはいい本でした。「共感」と訳されるEmpathy(エンパシー)という言葉を「誰かの靴を履いてみること」と説明してありましたね。
吉田 この本でエンパシーという言葉が広がりました。「親子で読みたい『一生モノ』の課題図書」と謳われているけど、その通りだと思う。
恩田 私はこの座談会の直前に山本文緒『無人島のふたり』を読んだんですが、泣けるというか、呆然としちゃって。
吉田 余命宣告された山本さんが最期まで綴っていた日記です。
恩田 もう、あんまりだ、と……。
吉田 涙なくしては読めません。山本さんが生きていれば、この本が生まれることはなかったのに、という悲しみが湧き上がってきます。
- ※E ディレクターズ・カンパニー。1982年に長谷川和彦を中心として映画監督9人で設立した映画製作会社。相米慎二、長崎俊一ともにディレカン作品で監督をしている。
- ※F 続編『好日日記─季節のように生きる─』(新潮文庫)では、茶道を通して気がついた「季節の美しさ」が綴られている。
- ※G 「波」2021年11月号には、重松清さんがこの帯について書いたエッセーが掲載されている。新潮社HPでも公開中。
本屋大賞は泣ける!?
大森 小川洋子『博士の愛した数式』は第1回本屋大賞受賞作です。
吉田 これも読み継いでいってほしい名作です。
南陀楼 帯曰く270万部突破だって。
大森 受賞前から売れていたけど、本屋大賞によって爆発的にヒットしました。これは本屋大賞にもよかった。スタート前は派手なエンタメ作品の賞になると思われていたのが、第1回を『博士の愛した数式』が受賞したことで、純文学系や家族小説にも光を当てる賞だというイメージができた。他の作品が受賞していたら、まったく違う性質の賞になっていたかもしれない。
恩田 エポックメイキングでしたね。
大森 そして第2回本屋大賞を受賞したのが……。
吉田 恩田陸『夜のピクニック』。
恩田 ありがとうございます。「100冊」に入れていただいて。
大森 でも「泣ける本」なのかなあ。 安易に泣ける本とか言ってほしくないですとか思いませんか?(笑)
恩田 泣いてくれてもいいです(笑)。
大森 恩田さんは会社員をやめて専業作家になるとき、あちこちの出版社の編集者を一堂に集めて「今、こんな話が書けます」といろいろな小説のプロットをプレゼンしたんですよね。そのとき『夜のピクニック』は、「高校生が夜通し朝まで歩く話です」と説明されて、正直、何がおもしろいんだろうかと……でも、あにはからんや、素晴らしい小説になりました。
恩田 書くのはもう少し先に取っておこうかなと思っていたのですが、新潮社の編集者が「あの話はいま書かなきゃダメだ」と強く言ってくれて、そこからすぐに連載が始まったんです。
大森 青春小説の王道──を越えて、もう、クラシックになりましたね。
──これで「泣ける本」がコンプリート! 次は「考える本」です。
大森 「考える本」でコナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』が入るのは当然っちゃ当然か。
恩田 カバーもかわいい。絵が浮き出し加工になってますね。
大森 カバーは新しくなったけど訳は延原謙のまま。もう70年以上前の翻訳だけど読みやすいですよ。
恩田 レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』は、川内倫子さんのカラー写真がたくさん入っていて、丁寧で持っていたくなる本作りですね。
大森 小さな子を持つ人が読むと、とてもいいと思いますよ。子どもを自然に触れさせなきゃという気持ちになる。都会でも公園で季節の移ろいを感じられるとか、けっこう実践的なことも書いてあるし。
恩田 幸田文『木』もよく似た雰囲気のカバーだけど、こちらはイラストなんですね。
南陀楼 ヴェンダース監督の「パーフェクト・デイズ」の中に、この本が登場して話題になりました。役所広司演じる主人公が浅草の古本屋で買う一冊。映画のトーンによく合った本です。
哲学書からお仕事小説まで
吉田 國分功一郎『暇と退屈の倫理学』はすごいカバーですね。こんなのあるんだ、「東大・京大で1番読まれた本」とでかでかと……。
南陀楼 あれ、これダブルカバーじゃないですか? オリジナルカバーの上に、宣伝文句が刷られた別のカバーがかけられている。
吉田 あ、下に隠されたオリジナルカバー、こっちは結構かっこいい(笑)。
恩田 内容もとてもおもしろかったですよ。「考える本」にぴったり。
大森 現代の哲学の本が「100冊」に入るんだと思ったら、三木清『人生論ノート』も入ってる。
──これもロングセラーで、着実に増刷がかかります。名言多数ですよ。
南陀楼 谷川俊太郎『ひとり暮らし』はエッセーなんですね。
吉田 詩集より素顔が見えやすいですよね。谷川さんのご家族を知っている知人から、谷川さんのお話を聞いていたので、読み方が深まりました。
大森 漫画も入ってますね。益田ミリ『マリコ、うまくいくよ』。
吉田 働く女性を描いた人気のお仕事漫画です。読書の入口にもなりそう。
恩田 益田さんは『ツユクサナツコの一生』もよかった。今年5月に文庫になったので、来年以降はこちらも「100冊」に入れてほしいな。
吉田 働く女性を描く小説は津村記久子『この世にたやすい仕事はない』。もちろん面白い作品ですが、「入社2年目・K」さんによる手書き帯もいい。
恩田 この、一生懸命書きました、という感じの文字にぐっときますね。
吉田 星新一『ボッコちゃん』は表題作がNHKでドラマにもなりました。ボッコちゃん役の水原希子さんが長身のクール美女で、イメージ通り。
大森 『ボッコちゃん』は星さんにとって初めての文庫だったので、それまでに出ていた作品集8冊からショートショート50編を自ら選りすぐった。だから本当に粒揃いなんです。
──筒井康隆さんの解説も力のこもったものですね。ちなみに今年は星さん生誕100年にあたります。
大森 沢木耕太郎『深夜特急』を読んで海外に行った若者はたくさんいるよね。作家の宮内悠介さんもこの本を読んで旅に出たらしい。
吉田 『深夜特急』には功罪あると思う(笑)。この本によってどれだけの若者が道を誤ってしまったことか。
──これで半分まで来ました。残り50冊は次号で! だけど座談会はこのまま続けます。
(8月号「後編」に続く)
(おんだ・りく 作家)
(おおもり・のぞみ 翻訳家)
(よしだ・のぶこ 書評家)
(なんだろう・あやしげ 書評家)
波 2026年7月号より































