お知らせ

2022年 賀正 新潮社
「おとなだって、はじめはみんな子どもだったのだから。」
(『星の王子さま』サン=テグジュペリ著・河野万里子訳 新潮文庫より)

Image

 今年のお正月は、離れて暮らす家族と、直接会うことが憚られていた友人と、久しぶりに再会した方も多いのではないでしょうか。故郷を前に感じるのは、懐かしさ? ぬくもり? それとも、侘しさや退屈さでしょうか。
 芸人で漫画家の矢部太郎さんは、実の父である絵本作家・やべみつのりさんと、自身の幼少期のエピソードを、漫画『ぼくのお父さん』に描きました。つくし採り、屋根の上から眺めた花火、ひょうたん作り、大みそかのお焚きあげなど、四十年前の東京・東村山を舞台に、何でもない日常が、彩り豊かに描かれます。
 この漫画を描くにあたり重要な役割を果たしたのが、いつも家にいて、一緒に遊んでくれた父・みつのりさんが、幼い矢部さんの成長を記録した絵日記「たろうノート」でした。母や姉も登場し、家族の日常生活が細やかなスケッチで綴られた「たろうノート」。曖昧だった「あの頃」の記憶が鮮明になり、「この日記をもとに、家族の物語を描きたい」と矢部さんは思ったそうです。
 そして、矢部さんはこうも言います。
「『星の王子さま』の最初にあるように、大人も、はじめはみんな子どもでした。でも僕がそうだったように、そんな当たり前のことを、多くの人は忘れてしまう。僕は、『ぼくのお父さん』を子どもだった頃の〈ぼく〉に読んで欲しいという思いで描きました。僕に限らず、かつて子どもだったすべての大人に読んでもらえたらな、とも僭越ながら願っています」
 父が綴った家族の記録から、大切な自分の「原点」を思い出した矢部さん。誰にでも子ども時代があり、大人になってもそれは続いている。決して別の人間になるわけではない――。『ぼくのお父さん』に込めたのは、そんな普遍的なメッセージでした。

 忙しさにかまけて私たちが忘れがちな、大切なもの。スマホで検索しても決して見つからない、心のふるさと……。そんな「原点」を思い起こさせてくれる一冊を今年も新潮社はお届けいたします。

Image
朝日新聞/毎日新聞/産経新聞/東京新聞/西日本新聞 2022年1月1日掲載

関連リンク

書籍紹介