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新芥川賞作家の原点にして、決定的に新しい「青春小説」!

 三度目ならぬ、四度目の正直――。山下澄人氏が「しんせかい」で、第156回芥川賞を受賞しました。
 過去三度の候補作は飛び移る視点やシャッフルされた時制を持ち味としてきましたが、今作ではあえてそれらの特徴を封印。作家本人を思わせる19歳の青年・山下スミトを主人公に、人里離れた演劇塾で起きた出来事を物語に昇華し、選考会では「王道の青春小説」として高い評価を得ました。
 とはいえ、本作はいわゆる「教養小説ビルドゥングスロマン」(成長物語)とは異なります。選考委員の吉田修一氏が“壮大な空振り感”を受け取ったと言う通り、読後には、人生は思い通りにいかないということも含めた、青春時代の確かな手触りが残ります。
 同様に、本作は「私小説」とも違います。自身の内面への驚くほどの興味のなさと、それとは反対に事細かく書き込まれた【先生】や仲間たちの言動。小川洋子氏は「ここに文学があるはずだ、と皆が信じている場所を、山下さんは素通りする」と選評に書いていますが、受賞会見で“他人事気分”と語った作家の原点が刻まれているといっても過言ではないでしょう。
「教養小説」でも「私小説」でもなく、しかし決定的に新しい「青春小説」。それが何を意味するのかは、実際に作品を読んでお確かめください。

波 2017年3月号「新潮社の新刊案内」より

著者紹介

山下澄人ヤマシタ・スミト

1966年、神戸市生まれ。富良野塾二期生。劇団FICTIONを主宰。2012年『緑のさる』で野間文芸新人賞、2017年『しんせかい』で芥川賞を受賞。著書に『ギッちょん』『砂漠ダンス』『君たちはしかし再び来い』『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』など。

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