
荷風の昭和 後篇─偏奇館焼亡から最期の日まで─
2,860円(税込)
発売日:2025/05/21
- 書籍
- 電子書籍あり
昭和と対峙し続けた荷風は奇人と見られながら戦後を生き抜く。
荷風の精神を支えた大量の蔵書と共に、偏奇館は空襲で焼け落ちた。戦後、老文士は戦災のトラウマに悩まされ、奇人として有名になる。しかし尚も権威を嫌い、新憲法を嗤い、ストリップを楽しんで、市井の男女の情愛を描き続けた。著者自ら「これを書きあげたらいつ死んでもいい」と筆を振るった荷風論にして昭和論の金字塔!
38 鰹節と日米開戦
防空演習始まる/米と鰹節と梅干あらば/開戦に熱狂する知識人たち/「スミス都へ行く」/徴用令時代の文士たち
39 太平洋戦争下の日々
甘い物がほしい/ドゥリットル隊来襲/ひとりでジャムを煮る/山本五十六も象のトンキーも/「白紙」が来る恐怖
40 戦時下にも「別天地」あり
谷崎との会食の日に/浅草の釣竿屋老主人を眺めて/戦時下のフランス映画/踊子の家のお漬物/鴎外先生墓所掃苔の一日/戦時下の楽興の時
41 建物疎開続く
玉の井でも防火演習/建物疎開促進の「国策映画」/「疎開ト云フ新語流行ス」/東京の市中が臭くなる/軍部が『腕くらべ』を注文する
42 空襲下の日々
最初で最後の偏奇館訪問/サン・テクジュペリと特攻隊/疎開児童、欠食児童/本格的な空襲へ/この世の涯で珈琲を飲む
43 偏奇館燃ゆ
空襲下でも本を読む/文学青年と素人の女性/多くの死体がすばやく片づけられる/観潮楼焼亡す/生まれ育った東京への鎮魂歌
44 偏奇館を焼かれたあと
燃えあがる蔵書の炎/向田邦子の三月十日/大佛次郎と高見順の場合/「人種が違うの」/大空襲翌朝の焚出し/それでも鉄道は走る
45 東中野で五月二十五日の大空襲に遭う
ヒヤシンスの芽、桜の花/大空襲ふたたび/東中野の国際文化アパートへ/荷風を支えた人たち/可憐な少女に会った日に
46 明石での束の間の平穏
二度目の焼け出され/明石への疎開を決心する/ドビュッシイの取りもつ縁/三度目の空襲
47 岡山で四たび空襲に遭う
岡山での八十日が始まる/戦時下のピアノコンサート/「この銀行は安心出来ない」/牧歌的な軽便鉄道が往く/言葉で絵を描く/死を覚悟する
48 岡山空襲のあとで
雨のなかを歩く/岡山の親切な女性たち/「待つ人もなく燈火もなけれど」/「S氏夫婦」との距離感/流転の日々の支え
49 終戦まで――勝山で谷崎に会う
あの頃の郵便事情/谷崎潤一郎の場合/谷崎が町の物価を上げる/「焼け出され」の負い目/八月十五日、荷風は列車に乗る
50 戦時下に書かれた小説「踊子」『浮沈』など
発表のあてもなく/忌み嫌われた作家の「最後の別天地」/滅びゆく町への挽歌/山の手への帰郷/作者に似た世捨人たちの肖像
51 戦時下に書かれた『問はずがたり』のこと
山田風太郎が荷風を読む/末期の目で世界を見るように/思想よりも信仰よりも大切なもの/戦争の時代の新しい少女たち/みごとな非国民ぶり
52 岡山を去る日
荷風の戦後が始まる/「余も今は心賤しき者になりぬ」/“自由”を盾にする同居人たち/村田武雄を頼る/岡山の人びとの親切
53 岡山から熱海へ
貨物列車に乗って/田辺聖子と河野多惠子の大阪空襲/ひとまず熱海に落ちつく/軍国主義にも戦後民主主義にも/余計者の作家が求められる時
54 熱海での日々
着るものも食べるものも/RAAが作られる/天皇に同情する/荷風全集の刊行決まる/思い切って古くなってみせた
55 大家の復活
新興出版社の原稿料/青山虎之助の思い/鎌倉文士が作った貸本屋/荷風の礼儀正しさ/「印税成金」となる
56 熱海から市川へ
突然の立退き要求/終焉の地、市川へ/荷風復活の評価/ズボンのMボタン
57 占領下の市川
闇市で百三十円のビールを飲む/「にぎり飯」のたくましい男と女/闇商売の少年たち/荷風の養子も/与えられたる自由の下で/「パンパン」から日本を見る
58 市川の人々
疥癬に悩まされる/一番湯にムトウハップを/正岡容、そして吉井勇/市川で文学を語り合う/露伴先生逝く/幸田文、父の葬儀のあとさき
59 市川での日々
露伴が文に『ぼく東綺譚』を薦める/ラジオの音との戦い/避難所で生まれた短篇/側近、相磯凌霜/下町の商家の別荘地
60 「四畳半襖の下張」騒動
秘密出版で高値を呼ぶ/「来訪者」の二人/震える手で調書に署名する/「この裁判それ自体がすこぶる滑𥡴」/戯作のスワン・ソング
61 二人の閨秀作家、深尾須磨子と林芙美子
円地文子の荷風頌/深尾須磨子の巴里/荷風も愛したフランスの閨秀作家/南京郊外の『ぼく東綺譚』/林芙美子の戦後
62 「菅野はげにもうつくしき里」
隠れ住むのにうってつけの地/牧場と梨のある風景/花薫る里で/葛飾八幡宮で見たもの/昭和二十二年五月三日、「笑ふ可し」
63 「真間川の記」と大田南畝
川をめぐる「奇癖」/川べりの孤影/南畝の碑を発見する/正宗白鳥への猛反駁/似ているのは偶然ではなく
64 「歩く荷風」、再び
日蓮宗大本山の散策/「人間の幸福これに若くものなし」/健脚老人が今日もゆく/焼跡での地図作り/新たな私娼窟、東京パレス
65 困った同居人
老いてもなお我がまま/「正気の沙汰に見えず」/ついに引越す/五叟一家を罵り続ける/文学者荷風と同居人荷風
66 「五叟日誌」に見る戦後の世相
奇行の人として/住友令嬢誘拐事件/弱者に優しい町/買出しの女性を描く/「同盟罷業」突然の禁止命令/東京裁判と公職追放と
67 被害が大きかったキャサリーン台風
人災としての水害/洪水見物に行く/戦後の浅草通いが始まる/「婦女の裸体」の「展覧」/玉の井焼失から七十日で
68 戦後の色街、鳩の街のこと
木の実ナナの回想/水辺の女たち/米兵相手の街になる/吉行淳之介の「借金のカタ」/自作「春情鳩の街」で沸かせる/「初日を見る。大入満員なり」
69 浅草、出遊のこと
失われた東京/知識人が背を向けた街へ/桜むつ子の回想/浅草舞台劇三部作/あるカストリ雑誌との縁
70 老翁、ストリップ劇場にあり
京成本線沿線の踊子たち/新聞記者を避けてロック座へ/井上ひさしの浅草時代事始/ストリッパーたちとの座談会/ある踊子の回想
71 欲望の解放と、老人の諦念
「猟奇」に魅かれる女性/快楽を求める女性像/春本「ぬれずろ草紙」/理想的な世の去り方/酔狂老人の文化勲章受章
72 老いのあとさき
得意料理は野菜炊き込みご飯/四書、そして聖書/荷風をとらえた写真/大金持だと知られてしまう/お金を出すとき/「正午浅草。アリゾナに飯す」
73 フランス映画を見る
そば屋で倒れる/映画史家からの指摘/ラジオ嫌い、ラジオで大いに語る/映画監督になりたかった/ジッドやゾラの原作映画を/女給と見た「赤い風車」
74 市川の荷風を訪ねた人々
昔の愛妾からの年賀状/歌の見た晩年の暮し/文人来訪/東京を愛したフランス人/荷風の話した日本語
75 最後の日々
中央公論社との紐帯/没後全集の出版先/清楚で美しい謎の女性/荷風散人最後の点鬼簿/小林青年、来る/「正午大黒屋」ののちに
あとがき
書誌情報
読み仮名 | カフウノショウワ2ヘンキカンショウボウカラサイゴノヒマデ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
雑誌から生まれた本 | 波から生まれた本 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 592ページ |
ISBN | 978-4-10-603928-7 |
C-CODE | 0395 |
ジャンル | 評論・文学研究 |
定価 | 2,860円 |
電子書籍 価格 | 2,860円 |
電子書籍 配信開始日 | 2025/05/21 |
著者プロフィール
川本三郎
カワモト・サブロウ
1944年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『成瀬巳喜男 映画の面影』、『「男はつらいよ」を旅する』(共に新潮選書)、『マイ・バック・ページ』、『いまも、君を想う』、掌篇集『遠い声/浜辺のパラソル』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』、『叶えられた祈り』(共に新潮文庫)などがある。