新潮社

文庫化にあたっての著者からのメッセージ

小説を書くという作業は僕にとって、自分自身を洗い直すための大事なプロセスでもあります。高い壁に囲まれた街の中で、自分の影と切り離され、古い夢を読み続けること。その主人公は僕であり、またあなたであるかもしれません。

2025年4月 村 上 春 樹

コロナ・ウィルスが日本で猛威を振るい始めた二〇二〇年の三月初めに、この作品を書き始め、三年近くかけて完成させた。その間ほとんど外出することもなく、長期旅行をすることもなく、そのかなり異様な、緊張を強いられる環境下で、日々この小説をこつこつと書き続けていた。まるで〈夢読み〉が図書館で〈古い夢〉を読むみたいに。そのような状況は何かを意味するかもしれないし、何も意味しないかもしれない。しかしたぶん何かは意味しているはずだ。そのことを肌身で実感している。 

村上春樹 2023年4月 村 上 春 樹

魂を揺さぶる村上春樹の〈秘密の場所〉へ――
待望の新作長編1200枚!

十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。

試し読み

装幀について

今回の文庫のカバー装画は、幻想と現実を往還する『街とその不確かな壁』の物語への入口として、上巻・下巻それぞれにインドの絵本『The Night Life of Trees』(邦題:夜の木)の絵が使われている。
この絵本は、中央インド出身のゴンド民族のアーティスト3人によって描かれた木をめぐる神話的な世界である。上巻のカバー絵は「まもってくれる木」、下巻は「ドゥーマルの木」という題名がついている。

「夜になるとその本性を現すという聖なる木。人々から畏れられ、また崇められている木。神が住むと言われる木。そのような木々が、ページを繰るたびに目を見張る美しさで次々と姿を現します。プリミティブでありながら洗練され、繊細でしかも力強く美しい世界です」(絵本の版元・タムラ堂のHPより)
さらに、単行本のために制作されたタダジュンさんの版画(角笛や本の意匠)も、カバーと章扉に使われ、村上ワールドにいざなう。
村上作品は日本でも海外でも物語への想像力を呼び覚ます装画が魅力だが、今回の「夜の木」も見事に響き合っている。

新刊

十七歳と十六歳の夏の夕暮れ、きみは川べりに腰を下ろし、“街”について語り出す──それが物語の始まりだった。高い壁と望楼に囲まれた遥か遠くの謎めいた街。そこに“本当のきみ”がいるという。〈古い夢〉が並ぶ図書館、石造りの三つの橋、針のない時計台、金雀児(えにしだ)の葉、角笛と金色の獣たち。だが、その街では人々は影を持たない……村上春樹が封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。

990円(税込)
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新刊

図書館のほの暗い館長室で、「私」は「子易(こやす)さん」に問いかける。孤独や悲しみ、“街”や“影”について……。そんなある日、「私」の前に不思議な少年があらわれる。イエロー・サブマリンの絵のついたヨットパーカを着て、図書館のあらゆる本を読み尽くす少年。彼は自ら描いた“街”の地図を携え、影を棄てて壁の内側に入りたいと言う──二つの世界を往還する物語がふたたび動き出す。

935円(税込)
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街とその不確かな壁

村上春樹/著

    十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。

    2,970円(税込)
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    愛蔵版 街とその不確かな壁
    著者直筆サイン入り
    3月15日11時より予約開始

    『愛蔵版 街とその不確かな壁』は好評につき完売しました。

    2024年3月1日
     たいへんお待たせいたしました。村上春樹著『街とその不確かな壁』の著者直筆サイン入り愛蔵版は、2024年3月15日(金)11時より新潮ショップにて予約を開始いたします。
     おひとり1冊まで、申込先着順、限定数に達し次第、販売終了とさせていただきます。
     発売日は2024年5月15日(水)となります。発売日以降、順次発送いたしますが、着日の指定はできません。

    ◆サインは直筆の為、画像と異なる場合がございます。
    ◆シリアルナンバーは選択できませんので、予めご了承ください。
    ◆画像は製作段階のサンプル写真です。実際の商品と異なる場合がございます。
    ◆商品の外箱(段ボール)は、輸送用保護箱です。仮に一部角潰れなどがあっても箱の交換には応じられませんので、ご容赦ください。
    ◆海外からの発送には対応しておりません。予めご了承ください。

    仕様
    • 欧文タイトルと著者名、著者サインを刻印した無垢ブラックウォルナット製ブックケース
    • 特製真鍮プレート付き布装(タイトル、著者名を刻印)
    • 本文判型=菊判(152×218mm)
    • 二方アンカット、入り本文紙
    • 本文=10.25p43字×19行組
    • 造本=上製角背、突き付け表紙
    特典 著者直筆サイン・直筆シリアルナンバー入り、特製ポストカード入り
    定価 10万円(税・送料別)
    部数 限定300部
    販売 新潮社のオンライン直販サイト「新潮ショップ」にて、先着順で予約を開始いたします。

    「著者直筆サイン入り愛蔵版」についてのお知らせ

    『街とその不確かな壁』の著者直筆サイン入り愛蔵版を新潮社より刊行いたします。物語には〈古い夢〉がならぶ図書館が登場しますが、意匠を凝らした精緻な装幀で、その静謐な世界へといざないます。村上春樹さんの長編作品は、すでにイギリス、アメリカ、スペイン、ドイツなど海外で愛蔵版が発売されていますが、日本で長編作品の愛蔵版が発売されるのは初めてのことになります。

    村上春樹

    村上春樹

    ムラカミ・ハルキ

    1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『スプートニクの恋人』、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『騎士団長殺し』、『街とその不確かな壁』などがある。『螢・納屋を焼く・その他の短編』、『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、翻訳書など著書多数。2006(平成18)フランツ・カフカ賞、オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年アンデルセン文学賞、2022(令和4)年チノ・デルドゥカ世界賞を受賞。

    村上春樹 Haruki Murakami 新潮社公式サイト (外部リンク)