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第8回 「坂本さんとの対話」

 第4回のメールで、坂本龍一さんと対談したことを書いた。それが本になり、この四月十日、文春文庫から刊行された。
 ここは新潮社のホームページだけれど、今回の『家族狩り』五部作にも関係している内容なので、多少の宣伝も許してもらおう。
 この『少年とアフリカ』は、2001年早春に、文藝春秋から出された単行本の文庫化だが、今回の刊行にあたり、坂本さんからの提案もあって、今年の二月、新たに対談し、一章分を付け加えることになった。
 単行本『少年とアフリカ』が出たあとに、9・11が起き、アフガン攻撃、そしていまも混迷のなかにあるイラク戦争が起きた。当然このことを踏まえた上での対話になった。
 二月二二日、外は嵐のような風が吹いていた。坂本さんは、新アルバム『CHASM』のプロモーションのために帰国されていた。当時、坂本さんがテレビに出演されているのを見た人も多いだろう。ぼくも幾つかの番組で拝見した。その忙しいさなか、時間を割いていただき、対話は進められた。何々を話そうと決めていたわけではない。挨拶を交わし、ぼくから『CHASM』への率直な感動を述べさせてもらったあと、言葉が言葉を呼ぶようにして、あっという間に数時間が過ぎた。
 新たに加えられた章は、「イグノランス」というタイトル。無知という意味の英語だ。
 ぼく自身は時期的に、この『家族狩り』五部作のなかにどっぷりつかっていたので、関連した話がけっこう出ている。小説のテーマと通底することも、多く語った。
 だから『家族狩り』の副読本的な感覚で読んでもらうのも、面白いんじゃないかなと、思っている。ただし、「イグノランス」篇は、小説を、五部の終わりまで読んでからにしたほうがよいかもしれない。自分が読者の場合、小説は先入観なく読みたいほうだから。むろん読み方は、読者それぞれの自由で、たとえばガイド的に読んでもらうのもかまわない。
 一方で、『家族狩り』とは関係なく、文庫版『少年とアフリカ』は、きっといまを生きている人々、ことに若い人たちに必要なことが多く含まれていると信じている。
 実は、対談はそのときに話して終わりではない。それぞれに対話の内容をチェックして筆を入れる。ぼくの場合、中編小説を書くような心構えで、対談原稿に臨み、数日かけて、読者に届けて恥ずかしくないものに仕上げた。
 そして、本来ぼくはこんなことを言うのはためらうほうの人間だけれど……『少年とアフリカ』の文庫用に、新たに書き下ろした「あとがき」には、自分なりの手応えがある。
 特別な技術を使っているわけでも、目新しいことを書いているのでもない。ごくシンプルに、短い文章をつづっているだけだが、こういうことをずっと言いたかったということが、或る部分、しっかり出ている。95年版の『家族狩り』以降勉強をつづけ『永遠の仔』や『あふれた愛』を経て、文庫『家族狩り』五部作にいたる、成果のひとつが、この「あとがき」にはあらわれていると感じられた。
 だから、臆面もないのを承知で、勧めたいと思った。自分の限界や未熟さを、わざわざ知らせるようでもあるし、なぁんだと失望を感ずる人もいるかもしれない。それでも、自分なりに自信を持って、読者へ届ける坂本さんとの対話であり、「あとがき」だ。

 2004年4月14日 どうしてつらい想いをしている人の家へ、いたずら電話や非難の電話をするのだろう。生きていれば、かっとすることも、いらだつこともあるだろう。それを、弱い人を狙って発散すると、傷つくのは、相手だけではない。自分自身も心の深い部分が傷つき、苦しくなってゆくものなのに。