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鬼憑き十兵衛

大塚已愛/著

781円(税込)

発売日:2021/12/01

書誌情報

読み仮名 オニツキジュウベエ
装幀 遠田志帆/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-103461-4
C-CODE 0193
整理番号 お-111-1
ジャンル 文学・評論
定価 781円
電子書籍 価格 781円
電子書籍 配信開始日 2021/11/27

父の仇を討て! 恩田陸、萩尾望都、森見登美彦が絶賛した新時代の伝奇活劇。

寛永十二年、熊本藩主・細川忠利の剣術指南役を務める松山主水(もんど)大吉が暗殺された。主水の隠し子・十兵衛は父を襲った十五人の刺客を続けざまに斬り裂く。二階堂平法秘伝の技〈心(しん)の一方〉によって。僧形の鬼・大悲(だいひ)を連れ、父の暗殺を企てた者への復讐を誓う十兵衛。だが、金色の髪に深い海のような瞳をもつ少女と出会い……。時代伝奇小説の新たな傑作! 日本ファンタジーノベル大賞2018受賞作。

  • 受賞
    日本ファンタジーノベル大賞 2018
目次
序 てんらいもう――廻る因果の糸車、血にまみれてもつれていくこと
第一章 めい――鬼にかれた少年、深山にて異国の乙女と巡りうこと
第二章 さんぷう――けいせい、老将へみだらに戯化たわむれ、《荷》を欲して《猟犬》を放つこと
第三章 すいせい――少年、災い有りて水に沈み、鬼と共にすべてのかたきを討つこと
終 てんたいゆう――鬼に憑かれた化け物、れてはじめて《何者》かになること
解説 前島 賢

書評

申し分のないデビュー作

若林踏

 荒んだ心に熱い炎が灯る瞬間を描いた小説だ。
 大塚已愛『鬼憑き十兵衛』は日本ファンタジーノベル大賞受賞作「勿怪もっけがかりを改題した作品であり、本作が大塚のデビュー作となる。
 物語は寛永十二年、熊本藩の元加藤家家臣たちが現当主である細川忠利の剣術指南役、松山主水大吉を暗殺したところから始まる。松山主水は相手を金縛りにする〈しん一方いっぽう〉を体得した二階堂平法の達人であったが、手負いで伏せていたためか暗殺者たちにあっさりと殺されてしまう。だが仕事を終えた暗殺者らに突然、黒い小柄な影が襲い掛かる。狼か何かの獣かと見間違えるほど素早い影は暗殺者を次々と斬殺し、ついには全滅させてしまう。この小さな影こそが本作の主人公、十兵衛少年である。
 十兵衛は肥後山中に住む山人一族の女性と里に住む男との間に出来た子供だった。十兵衛は幼い頃より祖父から生き抜くためのありとあらゆる術を叩き込まれ、さらに里に下りた後は松山主水に弟子入りし、二階堂平法の皆伝を受けるまで強くなる。その十兵衛に松山主水は死の直前、衝撃的な事実を伝える。お前は自分の子である、と。実父を殺した人物に仇討ちを果たした十兵衛だが、それだけでは荒ぶる気持ちは静まらない。十兵衛はある者の力を借りて、松山主水の暗殺に加担した侍を山中で殺すようになる。
 壮絶な復讐劇が軸となる小説だが、無論それだけではない。本作をファンタジーノベルの大賞に相応しい、奇想とスケールを持った物語に仕立てる三つの要があるのだ。
 一つは十兵衛の相棒というべき鬼の存在だ。実は暗殺者を倒した直後、十兵衛はひょんなことから大悲と名乗る鬼に死ぬまで憑りつかれることになる。この鬼のキャラクター造型が実に良いのだ。大悲には喰った人間の記憶を辿るという恐ろしい力があるのだが、その姿は絶世の美貌の僧侶で、そのうえ妙に人懐っこい。これが殺伐とした様子の十兵衛と対置されることで、バディもののようなテンポの良い掛け合いが生まれているのだ。
 二つ目は松山主水暗殺の背後にある謎である。十兵衛は大悲が辿った侍の記憶から、《御方さま》と呼ばれる人物が暗殺を仕組んだことを知る。だが、いくら松山主水が傲慢な武芸者だったとはいえ、一介の剣術指南役をわざわざ暗殺する理由とは一体何なのか。やがて十兵衛は単なる暗殺事件に留まらない、壮大な野望の構図に取り込まれていく。冒頭の松山主水暗殺は小さな史実であるが、この実話を起点に虚実を絶妙なさじ加減で織り交ぜ、奇妙奇天烈な謀略話へと膨らませていく手際がこれまた良い。この辺りの筆運びは、例えば山田風太郎の〈忍法帖〉シリーズがお好きな方などは気に入っていただけるのではないだろうか。
 そして最も大事な三番目の要、それはボーイ・ミーツ・ガールの形式を借りて少年の揺れ動くさまを描いていること。
 十兵衛は自分が隠れ住む山中で、心中のように見える複数の不可思議な死体と大きな長持を見つける。そしてその長持に入っていたらしい手枷を付けられた金髪の少女に出会う。この少女だけは助けてやらねば。何故か強くそう感じた十兵衛は彼女を大悲と共に暮らすあばら屋へと連れていくことにする。言葉を発することの出来ないこの少女に、大悲は“紅絹もみ”という名前を与えることにした。
 この紅絹が本作の核心に関わるキーパーソンである。先述の通り十兵衛は幼少から人と戦う術しか教わってこなかった人間であり、復讐を大義名分に敵を斬り殺す日々はその心をいっそう荒野のようなものへと変えていった。そこに一条の光が差し込むかの如く、紅絹が現れるのである。彼女との出会いによって、十兵衛の中に今まで味わったことのない感情が込み上げる。その感情が頂点に達した時、物語は一挙にクライマックスへとなだれ込むのだ。それも熾烈な剣戟アクションを始め、ありとあらゆる娯楽の要素をこれでもかと投入しながら、である。
 個性が際立つキャラクターの構築、話の規模を広げる手腕、そして少年の激しい心を掬い取る確かな描写力。これだけ揃えばデビュー作としては申し分がない。伝奇小説に心強い新人が登場した。

(わかばやし・ふみ 書評家)
波 2019年4月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

大塚已愛

オオツカ・イチカ

静岡県生れ。2018(平成30)年、『鬼憑き十兵衛』(「勿怪の憑」改題)で日本ファンタジーノベル大賞2018を受賞、『ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲(ロンド)』(「夜は裏返って地獄に片足」改題)で角川文庫キャラクター小説大賞を受賞し、W受賞でのデビューとなる。ほかの著書に『ネガレアリテの悪魔 黎明の夜想曲(ノクターン)』がある。

判型違い(単行本)

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