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ようこそ地球さん

星新一/著

825円(税込)

発売日:1972/06/19

  • 文庫
  • 電子書籍あり

【祝! 宇宙進出】地球によく似た、ステキな星を見つけたけれど……。奇想天外、卓抜なアイデアをとりまぜて描いたショートショート42編を収録。

文明の亀裂をこじあけて宇宙時代をのぞいてみたら、人工冬眠の流行で地上は静まりかえり、自殺は信仰にまで昇華し、宇宙植民地では大暴動が惹起している――人類の未来に待ちぶせる悲喜劇を、皮肉げに笑い、人間の弱さに目を潤ませながら、奇想天外、卓抜なアイデアをとりまぜて描いたショートショート42編を収録。現代メカニズムの清涼剤とも言うべき大人のための寓話集です。

  • テレビ化
    星新一の不思議な不思議な短編ドラマ(2022年3月放映)
  • テレビ化
    土曜プレミアム『星新一ミステリーSP』(2014年2月放映)
目次
デラックスな拳銃

弱点
宇宙通信
桃源郷
証人
患者
たのしみ
天使考
不満
神々の作法
すばらしい天体
セキストラ
宇宙からの客
待機
西部に生きる男
空への門
思索販売業
霧の星で
水音
早春の土
友好使節

ずれ
愛の鍵
小さな十字架
見失った表情
悪をのろおう
ごうまんな客
探検隊
最高の作戦
通信販売
テレビ・ショー
開拓者たち
復讐
最後の事業
しぶといやつ
処刑
食事前の授業
信用ある製品
廃虚
殉教
あとがき 星 新一
カット 真鍋 博

書誌情報

読み仮名 ヨウコソチキュウサン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 448ページ
ISBN 978-4-10-109802-9
C-CODE 0193
整理番号 ほ-4-2
ジャンル 文芸作品
定価 825円
電子書籍 価格 704円
電子書籍 配信開始日 2012/08/31

書評

ひとりの夜に読みたい小説

青木祐子

 皆様、ひとりの夜はお好きですか。
 何を隠そうわたしはひとりでバーベキューをした経験があります。ソロツーリング中にキャンプ場でコンロを借りたら、それがバーベキュー場のことで、しかも左右では仲良しグループが、キャッキャしながらお肉を焼いていたのです。以来、何かひとりでは無理だと思ったら、あのソロバーベキューを思い出し、なんでも平気になったわたしです。
 ひとり旅の夜、ホテルやテント、フェリーの二等席のベッドで、小説を読むのが習慣でした。そんな夜に巡り会った、思い出の小説をご紹介したいと思います。
 一冊目は星新一。言わずと知れたショートショートの名手です。昔から新潮文庫といえば星新一でした。今回お話をいただいたときに、真っ先に思い浮かんだ小説家です。
 どれを読んでも面白いのですが、中でもいくつか印象に残っているものがあります。
 ひとつが『ようこそ地球さん』に収録されている「処刑」です。遠い未来、宗教を失った地球から追放された死刑囚の話です。彼は乾いた赤い星に、銀の玉とともに放たれます。

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 死刑囚たちがさまよう星で、ひとりにつき一個ずつの玉。玉にはボタンがついていて、押すとコップ一杯の水が得られます。水と栄養を得る手段は、この銀の玉しかありません。
 そしてボタンを押した何回目かで玉は爆発し、彼らは処刑されることになっています。
 思考実験のようなショートショートですが、銀の玉との対話、喉が渇くたびに自問自答を繰り返し、堪えかねてボタンを押す恐怖、そしてたどり着いた結論と、最後の一文。なんともドラマチックで美しいのです。
 収録先は別ですが、『妖精配給会社』の表題作も好きでした。宇宙からやってきた小さなペットの妖精さん。知能はないが言葉を喋ることができ、ずーっと飼い主を褒め続けます。地球人は妖精のとりことなり、ずっと自分を褒め称える言葉を聞き続けるのです。
 星新一のショートショートが出版されたのはスマホもSNSもない時代ですが、すべてが暗喩になっているようで、今読むと昔にはなかった怖さを感じます。さらっと読めてしまう話ばかりなので、あえてひとりの夜に読むことをおすすめします。
 次は、『わたし、定時で帰ります。』。著者は朱野帰子さんです。シリーズ化されていて、文庫では二作目まで読めます。

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 わたしは働く女性の話が、というか働く女性が大好きで、このシリーズも初期から読んでいたわけですが、読みどころは主人公・結衣ちゃんの引いた“線”です。
 集団の中にいるからにはどこかで線を引かねばならぬ。良い悪いではなく、わたしの方針はこうと決めなくてはなりません。結衣ちゃんの線は、「定時で帰る」です。譲れない個を持っているということの尊さよ。彼女の意地を見守る気持ちで読み続けています。
 最後は、メジャーすぎて好きすぎて言うのもはばかられるのですが、太宰治の『人間失格』を挙げさせていただきたいと思います。
 ときどき自分の中で再読ブームが来ます。今年になって吹き荒れたのが『人間失格』でした。いろんな出版社のものを読み比べ、映画を観たり、漫画、解説、感想などを読みあさったりしたわけですが、読めば読むほど大庭葉蔵、彼の孤独が染みて染みて、辛くて寂しくて泣けました。短い話だというのに、名作というのは伊達じゃないと思いました。

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 何が辛いって、どの解説でも感想でも、誰も大庭葉蔵の話をしないことです。こんなに有名な作品の主人公なのに。自伝的な小説で、作者の人生が小説以上に劇的だというのは認めますけれども、葉蔵の立場になってみれば、メタな意味でも孤独だなんてあんまりです。わたしだけは、太宰治でなくて葉ちゃんを愛してあげよう。そう思いました。
 ソロバーベキューの夜も、ひとりで焼きそばを作りながら、物語を胸の奥で反芻していたように思います。せめてもっといいお肉を買えばよかったと思った。そんなわたしに、左右のキャッキャグループは、これどうぞと分厚いお肉を分けてくれたのでした。
 星の綺麗な夜でした。何を読んだのか忘れましたが、あの日の物語も美しかったはずです。もうひとりでバーベキューをすることはないだろうけれども、あの夏の夜を超えて、わたしは少し強くなったように思うのです。

(あおき・ゆうこ 作家)
波 2023年7月号より

著者プロフィール

星新一

ホシ・シンイチ

(1926-1997)東京生れ。東京大学農学部卒。1957(昭和32)年、日本最初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参画し、ショートショートという分野を開拓した。1001編を超す作品を生み出したSF作家の第一人者。SF以外にも父・星一や祖父・小金井良精とその時代を描いた伝記文学などを執筆している。著書に『ボッコちゃん』『悪魔のいる天国』『マイ国家』『ノックの音が』など多数。

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