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組長の妻、はじめます。―女ギャング亜弓姐さんの超ワル人生懺悔録―

廣末登/著

649円(税込)

発売日:2020/03/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

彼女を悪の道から救い出した男は元ヤクザだった――。関西裏社会“伝説の女”に迫る!

裏社会でこの女を知らん奴はモグリやな――数十人の荒くれ男たちを従え、警察を屁とも思わず悪事を重ねた関西アウトロー業界“伝説の女”。細身のコートにスリムなパンツ、黒の指なしグローブをはめて、高級自動車を盗み出す。繰り返されるカーチェイス、覚せい剤、受刑者生活……。彼女を悪の道から救い出した男は、元ヤクザだった――。犯罪史上稀なる女首領に暴力団研究の第一人者が迫る。

目次
はじめに――本書の成り立ちについて
(1)ヤクザの家に生まれて
父の根性
積木くずし
グーパン(拳骨パンチ)でイワす日々
コーラの中身はシンナーでした
退学
男狩り
シャブとの遭遇
(2)生活の中心にはシャブがあった
山田君からの詫び状
ヤクザは優しかった
着の身着のままの逃避行
シャブちょーだいや
ロマンスグレーの親分さん
「怒らん大人は知能が低いんや」
(3)初めての逮捕と初めての結婚
ビールは身を助ける
嵐の前の静けさ
哀しきヒットマン
東京でのシャブパーティ
(4)自動車窃盗のABC
ギャングの女に
初めての執行猶予判決
「まあ、女では無理やわ」
自動車窃盗講座上級編
プロの仕事
(5)ギャングの女首領になる
ギャングの日常活動
公園で木の実を拾うように
1億円強奪事件のトバッチリ
車を76台窃盗して赤落ち
(6)大学(刑務所)に入学
初入の日は1並び
「どう見ても初入に見えんわ」
短気は損期、損期は満期
満期上等!
(7)懲りない女と笑ってください
シャブの魔力
アウトロー正木
あまりに痛い恥骨骨折
人生最大最悪マッド・ポリス事件
警官が発砲!?
逃亡先は徳島
「お前が朴亜弓か!」
(8)隣人は林真須美
緘黙戦法
ようこそ、男子LB級刑務所へ
さあホームグラウンド大拘へ
お隣さんは林真須美死刑囚
青木恵子元受刑囚との出会い
法を信じた瞬間
(9)病は治るが癖は治らぬ
悪事との縁は切れない
フィレオフィッシュが命取り
裁判官呆れる
3度目の赤落ち
和菓子の本が大好きだった「組長の娘」
ヤマ返し事件
エビで懲役のオバさん
ゴチャ言う私
満期出所
(10)出所後の暮らし
新たなアジト
警察官の暴行で難を逃れる
大和田宝石店強盗事件
組長との出会い
(11)組長との再会
茂雄の誘い
敵中正面突破
またカーチェイス
知らない内に身辺整理
若い衆の世話を焼く
武闘派同士の夫婦喧嘩
(12)これからも一緒に居てくれるか
特製のおかゆ
戻って来なかった財布
母への憧れ
出産
子連れで逮捕
まさか、あの財布が
涙の釈放
(13)そして組長の妻となる
カムバック
私の心からの懺悔
付録
文庫版付録――妻として、母として
船底のジャンヌ・ダルク――あとがきにかえて
裏社会に咲いた愛の物語 鈴木智彦

書誌情報

読み仮名 クミチョウノツマハジメマスオンナギャングアユミネエサンノチョウワルジンセイザンゲロク
シリーズ名 新潮文庫
装幀 北澤平祐/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-120617-2
C-CODE 0195
整理番号 ひ-41-2
ジャンル 文学・評論
定価 649円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2020/06/19

書評

裏社会に咲いた愛の物語

鈴木智彦

 私は暴力団を20年以上取材している。そのため暴力や犯罪に耐性が付き、暴力団をはじめ、周辺者たちを題材にしたノンフィクションにも食傷気味だ。正直、この分野にはやっつけ仕事の類似本が多く、本書も斜めに見ていた。軽いタイトルの印象もあって、実話誌によくある「面白おかしい、でもよくあるヤクザの姐さん話」と高を括っていた。
 面白い物語ではあった。しかし、予想は完全に裏切られた。エピソードの迫力は段違いで、半笑いで読み飛ばせる話はほとんどない。極めて重厚、ハードな犯罪ノンフィクションといって差し支えない。
 主人公はヤクザの家に生まれ、覚せい剤に溺れ、ギャングのボスになった女性である。覚せい剤を売買しながら自らもシャブを打ち、車の窃盗団の親玉となり、その配下たちはありとあらゆる犯罪に手を染めていた。
「『公園で木の実を拾うような感覚で、毎日、車泥棒をするという』――そんな生活を順風満帆で送っていたギャングの日々でした」
 さらりとした告白だが、なかなかの名台詞だ。
 優雅な犯罪の毎日は、そう長くは続かない。違法を生業にしている以上、逮捕の危険は常にある。犯罪のプロフェッショナルとなり、大阪の裏社会で彼女の名前を知らないヤツはもぐり……とまで評された実力派の彼女にも、ツケを支払う時が来た。28歳の時、車両窃盗で逮捕された彼女は、覚せい剤事犯の執行猶予も重なって3年10月の拘禁生活を送ることになった。
 刑務所という特別な“大学”に入っても、彼女は周囲とバトルを繰り返した。
「私も喧嘩の場数を踏んできた人間です。相手の目を見たらわかります。目が泳いでいる人や、オンドレ、スンドレ言いながら浪花節を語る者に大した人はいません」
 本書は聞き書き――彼女の独白スタイルで書かれているため、独特の比喩や言い回しがそのまま文章に活かされている。素材をいじらず、ありのままを読者に伝えようとする筆者の狙いは、たしかに効果を発揮している。
 その他、専門的(!?)で分かりにくい表現もあるが、それらすべてには丁寧な注釈がある。筆者の廣末登は犯罪社会学を研究する学者であり、これまでの彼の作品は、読み物としてのノンフィクションというより、学術的手法で裏社会を分析した研究論文に近い。
 聞き書きを重視する理由を、廣末は本書で以下のように説明している。
「私が取り組んでいる犯罪社会学という学問は、その構造や仕組みを研究するものです。そして、そのためには、当事者からの聞き取りは極めて大きなウエイトを占めています。どのような生い立ちで、どのような経験をすることで、どのような行動につながるのか。こうしたことは机上の空論では意味を持たないからです」
 素材に手を加えず、余計な付け足しをしないぶん、アクはかなり強い。しかし、真面目に、真摯に、正確に、時間をかけて行われた犯罪人生の聞き書きは、既存の裏社会ノンフィクションとは別次元の迫力を生み出している。
 娑婆と刑務所とを行き来する犯罪人生……彼女のワイルドサイドを一転させたのは、ヤクザとの結婚、そして妊娠だった。ヤクザの姐さん、言い換えれば暴力団組長の女房となることで、彼女は確実に更生した。反社会的勢力とまで呼ばれるようになった暴力団の関係者となるのは、一般常識でいえば悪に染まることだ。それがなぜ更生になるのか。本書を読めば、暴力団という社会悪の根源も見えてくる。
 小説家・子母澤寛は、『「やくざ者」の読方』と題して、以下のように解説している。
「やくざ者は多くの場合無学です、従ってそこへ現れて来る姿は、人間そのものの正体ですから、事件が切端(※原文ママ)詰っていればいるだけに、ほろりとさせられるようなことが多いのだと思います」(『遊侠ものがたり』所収)
 裏社会に咲いた愛の物語は、我々の日常を凝縮している。

(すずき・ともひこ フリーライター)
波 2017年10月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

廣末登

ヒロスエ・ノボル

1970(昭和45)年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。博士(学術)。龍谷大学嘱託研究員。公益財団法人清心内海塾主席研究員。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』、『ヤクザと介護 暴力団離脱者たちの研究』など。

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