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出版禁止 死刑囚の歌

長江俊和/著

781円(税込)

発売日:2021/03/01

書誌情報

読み仮名 シュッパンキンシシケイシュウノウタ
装幀 E+/カバー写真、Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-120743-8
C-CODE 0193
整理番号 な-96-3
ジャンル 文学・評論
定価 781円
電子書籍 価格 781円
電子書籍 配信開始日 2021/02/27

本当の「鬼畜」は誰だ? 呪わしい31文字と悪意の連鎖。《出版禁止シリーズ》最新作!

千葉県柏市で6歳と4歳の姉弟が誘拐され、無惨な姿で発見された。犯人は死刑判決を受け、やがて刑は執行されたが、最後まで動機は不明だった。事件から22年後。東京都向島で凄惨な一家三人殺傷事件が発生する。殺害されたのはなんと柏の事件の……。共通する手口、戦慄の短歌、消えたM子。本当の鬼畜は誰なのか。虚実が複雑に絡みあい、逆転また逆転そして絶句。あなたは今度も騙される!

目次
はじめに
「鬼畜の森――柏市・姉弟誘拐殺人事件――」橋本勲
「罪を詠む」草野陽子
「隣室の殺戮者――向島・一家三人殺傷事件――」『インシデント』編集部
「妻が消えた理由」海老名光博
「検証――二十二年目の真実」橋本勲
年表
編纂者のことば
『二〇〇三年六月五日――小菅』
追記 伊尾木誉
渡海
解説 前川裕

書評

私が『出版禁止 死刑囚の歌』を編纂した理由

伊尾木誉

 犯罪とは川の流れのようである。人と人とが無限につながりあう社会のなかで、犯罪も無数に発生し、複雑に連鎖している。一つの犯行を事件として切り取るのは容易いが、それでは決して、その本質までとらえることはできまい。どんな事件でも背後には、人間によって生み出された、犯罪という名の大河が流れているのだ。
『出版禁止 死刑囚の歌』は、実際にあった事件を取材した記事やルポルタージュを編纂したものである。それらは、時代や書き手、テーマが異なっており、一見独立したものであるかのように思えるのだが、意外なところで関連していた。そこで、関係各所の承諾を得て、一冊の本として纏めさせてもらった。
 まず最初に取り上げたルポルタージュは、『流路』という総合月刊誌に掲載された、ある誘拐事件についての記事(「鬼畜の森――柏市・姉弟誘拐殺人事件――」2008年8月号)だ。今から二十五年前に起きた事件なので、覚えておられる方は少ないと思う。
 1993年2月7日、千葉県柏市に住む小椋克司さんの長女、須美奈ちゃん(当時六歳)と長男の亘くん(当時四歳)の行方が分からなくなった。二人が失踪した翌日、望月辰郎(当時四十三歳)というホームレスの男が派出所に出頭する。望月は、公園で遊んでいた須美奈ちゃんと亘くんを連れ出し、近くの雑木林で二人を殺害、遺体を雑木林の土中に埋めたと供述。「被告人には反省の様子もなく、人間性の片鱗すら感じることができない」として死刑が確定、2011年に執行された。
 ルポルタージュは、残酷な犯罪を行った望月辰郎元死刑囚の「見えない動機」に迫ったものだ。幼い姉弟を毒牙にかけた望月。彼は被害者家族とは縁もゆかりもないホームレスである。身代金の要求もなく、誘拐は金目的でもなかった。一体なぜ彼は、見ず知らずの幼い姉弟を殺害するに至ったのか? このルポは、その真相に肉薄した、迫真のドキュメントである。
 次に取り上げた記事は、短歌雑誌「季刊和歌」2012年春号に掲載されたものだ。「罪を詠む」と題されたその記事には、望月辰郎元死刑囚が詠んだという、六首の獄中歌が紹介されている。

血反吐吹く 雌雄しゆう果てたり 森の奥 白に滲むな 死色しいろの赤よ
鬼と化す ては暗闇くらやみ 今もなお 割った鏡に 地獄うつりて
川面かわも浮く はなき花冠かかん せいの地を つ子とがなき 流れては消え
耳すまし 三途さんず渡しの いと真綿まわた死のしょく 在世ざいせ死のどく
姉がす 身鳴き身は息 ろう少女 命におこれ 手よや雲に
暮れゆくも 薄く立つ霧 闇深き 妖花ようかえる 呪いぐさかな


 犯行の過程を、克明に描写した恐ろしい和歌である。雑誌が発売されるとすぐに、遺族が販売の中止を要請、回収騒ぎにまで発展した。「季刊和歌」2012年春号は、事実上の出版禁止処分となっている。
 さらに本書では、今から三年前に、向島で起こった一家殺傷事件についての記事も取り上げた。2015年4月、東京都墨田区向島のマンションの一室で起こった惨劇。何者かに家族が襲撃され、両親は死亡、一人娘も瀕死の状態で見つかった。三人の口のなかに押し込まれていた、くしゃくしゃに潰れた紙。それは、望月辰郎の鬼畜の和歌が書かれた短歌雑誌の記事だった。二十二年前の事件との符合。一家を襲ったのは誰なのか?
 複雑に絡み合う数々の事件。臨床心理学の研究者である私は、ある事情からこれらの事件に取り組むことになった。そして、全容を理解するために、事件について調査し、記事やルポを編纂したのである。
 最後に、本書を編纂して感じたことを述べる。二つの事件は氷山の一角に過ぎなかった。事件の背後にはやはり、人間のどす黒い悪意の奔流が、渦巻いていたのだ。私はその事実を知り、戦慄する。「悪魔」という言葉は人類の最大の発明だ。人の悪行を全て悪魔のせいにできるなら、これほど便利な言葉はない。

(2018年8月11日記)

(いおぎ・ほまれ 国立大学准教授・編纂者)
波 2018年9月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

長江俊和

ナガエ・トシカズ

1966年、大阪生まれ。映像作家、小説家。2003年に第一回が放送された「放送禁止」シリーズは、不定期な深夜番組ながら、熱狂的なファンを獲得。その後、テレビ版七本、劇場版三本が製作され、「放送禁止」ブランドとして確立した。また、2002年には『ゴーストシステム』で小説家としてもデビュー。2014年に刊行された『出版禁止』は、テレビでも紹介され、大きな話題となった。『出版禁止 いやしの村滞在記』は、その第三弾となる。他書に、『出版禁止 死刑囚の歌』『掲載禁止』『検索禁止』(新潮社)、『東京二十三区女』(幻冬舎)、『恋愛禁止』(KADOKAWA)などがある。

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