掲載禁止
649円(税込)
発売日:2018/02/28
- 文庫
- 電子書籍あり
大ベストセラー『出版禁止』の著者が放つ、謎と仕掛けとどんでん返しの5連発!!
人の死を見るツアーに参加したジャーナリストが目にした異様な光景(「原罪 SHOW」)、マンションの天井裏に潜む歪んだ愛(「マンションサイコ」)。恋愛していたら決して読んではいけない戦慄作「斯くして、完全犯罪は遂行された」の他、不気味な読み味の「杜の囚人」と、どんでん返しに言葉を失う表題作「掲載禁止」。繰り出される謎と仕掛けに、一行たりとも目を離せない衝撃の作品集!
マンションサイコ
杜の囚人
斯くして、完全犯罪は遂行された
掲載禁止
書誌情報
読み仮名 | ケイサイキンシ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫 |
装幀 | Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 小説新潮から生まれた本 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-120742-1 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | な-96-2 |
ジャンル | ミステリー・サスペンス・ハードボイルド |
定価 | 649円 |
電子書籍 価格 | 605円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/08/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
発表されない五つの短編/『掲載禁止』の理由
――今日は、お忙しいところお時間を作って頂きありがとうございます。早速ですが、現在行方が分からなくなっているN容疑者について、お話を聞かせて頂けますか。
まさか彼があんな恐ろしい事件を起こすとは、思ってもみませんでした。Nは映像作家で、最近は小説家として本も出していましたからね。もっとも、彼の作風は陰惨で後味の悪いものばかりで、今思えば「やっぱりね」という気もします。
――N容疑者は、「整形手術を施し、姿形を変えて逃亡している」などといった情報も入ってきています。なぜ彼が、今回のような事件を起こしたのか、何か心当たりはありますか。
これはあまり知られていないんですが、Nには、発表されていない短編小説が五編あるんです。文芸誌に掲載されるという話もあったのですが、今回の事件が起こり、掲載が見送られました。私はこの掲載禁止となった五つの短編が、今回の事件の鍵を握っていると思っています。
――五編の短編小説とは、どういったものですか。
まず「原罪SHOW」という作品があります。これは、あるテレビ局の報道記者が、ネット上で噂になっている「人の死を見るツアー」に潜入取材するといった話です。新聞記事やテレビのニュースには、殺人事件や死亡事故など「人の死」を扱った情報が氾濫しています。歴史的に見ても人間は、ギロチンや江戸時代の公開処刑など「人の死」を見世物にしていました。この小説は、そんな「人の死を見たい」という、人間の深層心理に潜む“原罪”をテーマにした作品です。
――なるほど。確かに今回のN容疑者が起こした事件も、そういった深層心理を巧みに利用しているように感じますね。ほかの小説は、どんな内容なんでしょうか。
「マンションサイコ」という小説は、元カレのことが忘れられず、男性が暮らす部屋の天井裏に住みつくようになった女の話です。天井裏から覗き見る、かつての恋人の生活。だがある日、彼女はとんでもない光景を目撃します。
――N容疑者は現在、どこかの部屋の天井裏に潜んでいるかもしれない。その可能性があるということですね。
そうなんです。「杜の囚人」は、ある別荘で撮影されたプライベートビデオが物語の軸となって展開します。ビデオカメラの前で、次々と露呈してゆく兄と妹の秘密……。これはNが初めて書いた短編小説で、映画企画だったプロットをベースにして書かれたものです。
――今回の事件でも、N容疑者は犯行の過程の一部始終をビデオカメラで撮影していた、という情報もあります。
「斯くして、完全犯罪は遂行された」は、学生時代の恋人だった女性と再会し、同棲を始めた男が主人公です。でも彼女には、恐ろしい目的があった……。これは「決して解明されることのない、ある完全犯罪」を描いた小説なんですが、まさしくNも今回の犯行で、完全犯罪を企てました。
――確かに、そうですね。でもN容疑者の完全犯罪は、暴かれてしまいましたが。
そして最後が「掲載禁止」。「日本の品格を守る会」の代表を名乗る男を取材する女性ジャーナリスト。日本の品格を取り戻すという名目で、公序良俗を乱す者たちに天誅を加える男。彼の行動は、徐々にエスカレートしてゆき、物語は意外な方向へと展開します。
――明らかにこの五編の短編小説は、今回の事件を予言していますね。でも一つ気にかかることがあります。実は私も、N容疑者には幻の短編があるという噂を聞いたことがあります。でもその詳しい内容までは、知りませんでした。彼はプライベートでも、原稿は誰にも見せず、一部の編集者しか知らなかったと言われています。あなたはどうやって、この短編を読むことができたのでしょうか。もしや、あなたは……。
私がそこまで言うと、彼の顔色が一瞬にして変わった。まさかと思った。しかし、彼はゆっくりと立ち上がると、冷徹な眼差しのまま、こっちに向かってくる。
その時私は心のなかで、この取材記事が掲載禁止にならぬよう、切に願っていた。
(ながえ・としかず 映像作家・小説家)
波 2015年8月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
長江俊和
ナガエ・トシカズ
1966(昭和41)年、大阪府生れ。映像作家、小説家。深夜番組「放送禁止」シリーズは多くの熱狂的なファンを生み出した。自身の監督により映画化もされ、これまで3作が公開されている。2014(平成26)年には『出版禁止』を刊行、話題となる。他の著書に、『ゴーストシステム』『放送禁止』『掲載禁止』『検索禁止』『東京二十三区女』『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』がある。