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筋肉と脂肪 身体の声をきく

平松洋子/著

935円(税込)

発売日:2025/09/29

  • 文庫
  • 電子書籍あり

〈からだ〉を知れば、人生はもっと楽しい。「食」を書き続けてきた著者の集大成にして新境地。

スポーツが得意だったら、自分の人生も少しは違っていたのかもしれない──。そんな夢想に端を発し、アスリートの身体と精神に迫る取材の旅が始まった。力士、プロレスラー、陸上選手、そしてスポーツ栄養士、サプリメントや体脂肪計の開発者との、驚きと発見に満ちた対話。食をライフワークとして書き続けてきた著者の集大成にして新境地! 『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』改題。

目次

序章 スタートライン

一章 相撲とちゃんこ
国技を胃袋が支える

二章 プロレスと筋肉
食べなければ得られない

三章 プロテインか、青汁か
自分の肉体を表現する

四章 サプリメントの発見
身体表現の一部として

五章 筋トレとはなにか
筋肉は身近な宇宙である

六章 脂肪と健康
体脂肪計をつくったひとたち

七章 見えないものを見る
腸内環境を覗く

八章 「勝つ」ための栄養
「公認スポーツ栄養士」という仕事

九章 アスリートを支える食のプロフェッショナルたち
野球、サッカー、駅伝

十章 弱さとスポーツ
「感動物語」の背景にあるもの

十一章 身体と時代
二〇二一年東京オリンピックのあとで

それぞれの現在
おわりに
文庫版あとがき

解説 谷本道哉

書誌情報

読み仮名 キンニクトシボウカラダノコエヲキク
シリーズ名 新潮文庫
装幀 新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 512ページ
ISBN 978-4-10-131658-1
C-CODE 0195
整理番号 ひ-24-8
ジャンル 文学・評論、ノンフィクション
定価 935円
電子書籍 価格 935円
電子書籍 配信開始日 2025/09/29

書評

踊ること、生きること

草刈民代

 2001年秋にモスクワで「カルメン組曲」を踊りました。長年憧れていた作品です。二十世紀最高のバレリーナと称されたロシアのマイヤ・プリセツカヤさんの映像を何度も見てリハーサルに備えました。
 この作品はまだソヴィエト連邦時代、マイヤさんが国と戦いながら、ご自身でプロデュースなさり、世界的に有名になった渾身の作品です。マイヤさんにもリハーサルしていただく機会に恵まれ、コケティッシュな魅力がありながらも、当代一の芸術家がもつ華やかさ、神々しさを目の当たりにしながら教えていただきました。
 演じる役を深く理解するため、バレリーナ時代から原作や関連書籍は出来るだけ多く読むようにしてきました。小説のカルメンはマイヤさんが表現した女性像とは全く違いました。野性味に溢れ、生き延びるために手段を選ばない狡猾さや生活感のある女性だったのです。しかし、「カルメン組曲」はマイヤさんが作られたもの。お手本にしながら、私なりのカルメンを作り上げるつもりで稽古しました。

メリメ/著、堀口大學/訳『カルメン』書影

 2006年には韓国国立バレエ団で、コンテンポラリーダンスの巨匠、スウェーデンの振付家マッツ・エック版の「カルメン」に出演する機会を得ました。この「カルメン」は小説の世界観に近く、カルメンの生の欲望に惹かれてしまったドン・ホセの哀れさ、その残酷さが描かれた作品でした。
 その稽古中に、ある記憶が蘇ってきました。
 1992年に旧ユーゴスラビアやルーマニアなど四都市に招かれて「ジゼル」を踊ったことがあるのですが、ある時、セルビアのノヴィ・サドからベオグラードへ向かう長距離バスの停留所で、ひときわ目を引く女性たちを目にしたのです。光沢のあるドレスに、コインを編み込んだ三つ編み。周囲とは自然と距離ができるほどに張りつめた気配を感じましたが、彼女たちが周囲の視線に頓着しているようには見えませんでした。
「あの人たちはロマの人だよ」。同行のダンサーが教えてくれました。
 それはまさに、メリメの小説世界やマッツ・エックの世界観と重なるものでした。そしてその記憶が、私のカルメン像を支えるイメージの核となっていったのです。
 つい最近読んだのは『歌行燈・高野聖』です。作曲家の池辺晋一郎先生が作られたオペラ「高野聖」が2011年の初演以来十四年ぶりに再演されることになって、昨年11月に金沢へ観に行きました。語りを坂東玉三郎さんが演じていらっしゃいましたが、素晴らしい存在感でした。

泉鏡花『歌行燈・高野聖』書影

 以前、同じく泉鏡花の「天守物語」を、玉三郎さんの富姫で拝見しています。作品の世界から抜け出てきたような佇まい、セリフ回しに圧倒されました。「東海道四谷怪談」でお岩を演じられたときにも、「うらめしや~」と、宙に吊られて舞台上に迫り出していらっしゃった時には本当にお化けが出てきたのかと思ったほどでした。あの浮遊感、人ならざるものの凄み。どうしてあんなことができるのでしょう。
 オペラ「高野聖」も、作品の真髄が表現されていて、ぜひ原作を読んでみたいと思って手に取ったのです。
 独特の文体に最初は戸惑いも感じたのですが、この文体だからこそ、僧侶の語りに真実味を感じ、幽玄の世界に引き込まれるような感覚がありました。
 平松洋子さんの『筋肉と脂肪 身体の声をきく』は、身体と食事の関係をどう考え、どう実践していくか、とても興味深かったです。

平松洋子『筋肉と脂肪 身体の声をきく』書影

 バレリーナ時代はよく踊りたいという目標が最優先で、食事もそのための行為でした。食べるものと食べないものの線引きも明確でしたし、食べないと決めたものは見るのも嫌だと思うくらい、徹底していました。
 平松さんとはお食事をご一緒する機会があったのですが、「食」を心と身体全体で楽しむ姿勢に感服させられました。「これは一口でいくのがいちばん美味しいわよ」「このデザートはすぐに食べてほしいの」など、丁寧に説明してくださるのです。食が単なる栄養補給だった時間が長かった私には衝撃的な経験でした。
 どう生きていきたいか、どんな自分でいたいかということがしっかり見えていないと、自分に合った食事には辿りつけないんですよね。これから長く健やかに働くためにも、食事のあり方に真剣に向き合わなければならない時期にきていると感じています。

(くさかり・たみよ 俳優)

波 2026年2月号より

アスリートの食へのこだわりが面白い

夢枕獏

 本書『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』(平松洋子)を興味深く読ませていただいた。
 ぼくの好きな格闘技系──相撲やプロレスの話題が多かったことがひとつにはあるが、この一年ほど、筋トレやリハビリ、食事などに気をつかう日々をずっとすごしていたからである。
 実は、この一年あまり、病気の治療や手術で四回ほど入院をし、そのたびに歩行器などを使用するリハビリから始め、筋トレをして少し元気になったら、次の手術で入院。またリハビリをして入院ということを繰り返していたのである。
 血液ガンや心不全などをわずらって、ガンは寛解、心不全の方はひとまず落ち着いているのだが、食事は減塩、有酸素運動はこまめにやらねばならない日々をすごしているのである。そんなわけで本書に書かれているメッツ(METs)などという単位がどういうものか、現在のぼくは知っているのである。メッツというのは、安静時の単位を1とした時の「運動強度の単位」である。ちなみに、メッツ「4~5」というのは、ぼくの手元にある医者からもらった資料では、「軽い大工作業」、「軽い草むしり」、「入浴」、「10kgの荷を持っての歩行」とある。メッツ「9~10」は、「ボウリング、アメリカンフットボール」ということになる。ぼくのメッツは「3~4」で、家事一般や、ラジオ体操、カートありのゴルフはやってもいいが、それ以上の運動は心臓に負担がかかるため、やってはいけないことになっている。
 おそらく、読者の多くは、運動と食の関係について、ざっくりとした知識はお持ちであろう。運動量の多いアスリートほど日々摂取するカロリーは高くなる。しかしながら、競技によっては、たとえば相撲取りとマラソンランナーでは、ただ筋肉をつけるだけでなく、それぞれの運動の特性に合わせた筋肉をつけねばならないということも、知識としては持っておられるであろう。けれども、具体的に、そういう筋肉や肉体を作るためには、どのような食事をせねばならないかということまでは、きちんと知っている方は少数であろう。本書には、そういうことが、実例をあげて、細かく書かれている。
 特筆すべきは、その中でプロレスラーの肉体と食についても、かなりのページ数をさいて書かれていることであろう。
 他のアスリートとプロレスラーの違いは、もちろんある。プロレスラーが特殊であるのは、ただ力強い筋肉、速く動くことのできる身体を作るだけでは、足りないということなのだ。観客に見せる、あるいは観客を魅せるための肉体を作らねばならないからである。しかも、その肉体は、自分をどのように見せたいか、自分のファイトスタイル、理想とするプロレス観などによって、実に様々なのだ。
 この稿で指摘しておくべきは、プロレスラー棚橋弘至のことであろう。
 本書の棚橋について書かれた文章を読めば、プロレスラーが(というより棚橋が)いかに自分の肉体を設計するために努力をしているかがわかるであろう。棚橋は言う。
「朝、昼、夜食べるんですが、それだと食事の時間が空きすぎて血中アミノ酸濃度が下がってしまう。すると、身体は、脂肪ではなく筋肉を分解してエネルギーに変えようとしてカタボリック(異化)な状態になってしまう。(略)つねに二~三時間置きにプロテインとアミノ酸を摂取して、血中アミノ酸濃度が下がらないよう一定にしなければならないんです」
 人気プロレスラー棚橋が、ここまで徹底して自分の肉体を管理しているのかと感動する。
「プロレスってのは結局人間の春夏秋冬を見せるもんだろう」
 と言ったのは、プロレスラーの故・橋本真也だが、リングの外で、彼らや多くのアスリートたちが、「食」というものにどういうこだわりを持って生きているか、それを知りたかったら本書を読めばいい。さらにつけ加えておけば、アスリートにはアスリートの食があるように、音楽家、作家などそれぞれの職業についても、その仕事にあった食がきっとあるに違いない。では、自分はどうするかというところまで考えさせられる本であった。

(ゆめまくら・ばく 作家)

波 2023年2月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

平松洋子

ヒラマツ・ヨウコ

1958(昭和33)年、倉敷市生れ。東京女子大学卒業。2006(平成18)年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022(令和4)年『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。ほかの著書に『おもたせ暦』『食べる私』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』『おあげさん 油揚げ365日』などがある。

判型違い(単行本)

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