シャーロック・ホームズの帰還
825円(税込)
発売日:1953/04/20
- 文庫
- 電子書籍あり
ワトスン君、お久しぶりです。死んだはずのホームズが帰ってきた! 世界中を魅了した名探偵の10の事件を収録。
自ら歴史小説家と称していたドイルは『最後の事件』をもってホームズ物語を終了しようとした。しかし読者からの強い要望に応え、巧妙なトリックを用いて、滝壺に転落死したはずのホームズを“帰還”させたのである。本編はホームズ物語の第三短編集で、帰還後第一の事件を取上げた「空家の冒険」をはじめ、「六つのナポレオン」「金縁の鼻眼鏡」など、いよいよ円熟した筆で読者を魅了する。
踊る人形
美しき自転車乗り
プライオリ学校
黒ピーター
犯人は二人
六つのナポレオン
金縁の鼻眼鏡
アベ農園
第二の汚点
書誌情報
読み仮名 | シャーロックホームズノキカン |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 464ページ |
ISBN | 978-4-10-213402-3 |
C-CODE | 0197 |
整理番号 | ト-3-2 |
ジャンル | 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、評論・文学研究 |
定価 | 825円 |
電子書籍 価格 | 781円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/02/19 |
コラム 映画になった新潮文庫
自分も出演することがあるので大きな声では言えませんが、ミステリーのドラマや映画を観るのが少し苦手です。母は好んで観る方なのに、私はサスペンスを盛り上げるための、例えば〈ふいに後ろから口(あるいは眼)を覆われる〉みたいなよくある演出だけで、もう動悸が激しくなって観ていられなくなります。臆病なんです。
そのためミステリーの小説も子どもの頃から敬遠してきて、シャーロック・ホームズの名前は――明智小五郎や金田一耕助も――もちろん知ってはいても、読んだことがありません。それが、舞台を現代に移した「SHERLOCK/シャーロック」というBBCのドラマが面白いというので正月休みに恐る恐る挑戦してみました。
ドラマになっている何本かの原作のうち、あまり怖そうでないものをとアタリをつけて選んだのは「踊る人形」(『シャーロック・ホームズの帰還』に入っています)。びっくりするような謎解きに、厄介な恋愛が絡んで面白く、ぶじ最後まで読めました。
ホームズの依頼人、キュビット氏の家(屋内ではなくて、窓敷居とか道具ごやのドアとか)に突然、
こんな人形たちが踊っているような図がチョークでたびたび描かれるようになります。キュビット氏は何のことやらさっぱりですが、夫人はひどく怯えます。
この奥さんはアメリカ人で(ホームズもキュビット氏もイギリス人で、小説の舞台も英国)、過去も家族関係もほとんど謎に包まれていて、彼女は結婚前に「あなたの妻になるまでの過去については、いっさい申しあげないのを許していただかなければなりません。もしこの条件がお嫌でしたら、寂しい私なんかに構わないで」と将来の夫へ告げもします。そしてこの踊る人形は、どうやら彼女のアメリカでの暗い過去や男性関係と深い関係があるらしい……。
キュビット夫人への夫の無償の愛も(妻が自分には解らない暗号で誰かと通じ合っているなんて嫌だろうなあ!)、昔の男の身勝手な愛も(あんな愛し方では何も生まれないのに!)切なく、三人の心の矢印がてんでばらばらの方向を向いたまま悲劇が起きます。ホームズの人形の暗号の解き方も凄いけれど、何よりラスト二行、何も悪くない夫人のその後が哀れで心に沁みました。
小説に満足してDVD、シーズン1の第二話「死を呼ぶ暗号」へ。「あっ、これはワトソン殺されちゃう」「窓が開いてる部屋に忍び込んだら、先に誰か入ってるに決まってるよシャーロック」とか案の定ドキドキものです。原作を巧みに現代へアレンジしていて、アクションも多く、派手で華やか。
シャーロック役のカンバーバッチは何を考えているか分らない雰囲気や、神経質なのにどこか抜けている可愛さなどが絶妙。彼に振り回されるワトソン役の俳優も巧みで、さあ、男性として魅力的なのはどちらだろう? 私は変人では全然ないからシャーロックみたいな人に振り回されるのが魅力的な気もしますが、彼は人見知りっぽいので、同じく人見知りの私と合わないか……と考えたところで思い出しました。「私は人見知りなので」と言い訳しないのが、今年の目標なんです。
(はら・みきえ 女優)
波 2016年2月号より
著者プロフィール
コナン・ドイル
Doyle,sir Arthur Conan
(1859-1930)アイルランド人の役人の子として、スコットランドのエディンバラに生れる。エディンバラ大学の医学部を卒業し、ロンドンで開業するが、家計の足しにするために文筆に手を染める。『緋色の研究』(1887)を皮切りに次々と発表された私立探偵シャーロック・ホームズと友人ワトスン博士を主人公とする一連の作品は世界的大人気を博し、「シャーロッキアン」と呼ばれる熱狂的ファンが今なお跡を絶たない。
延原謙
ノブハラ・ケン
(1892-1977)岡山県生れ。早稲田大学卒。逓信省電気試験所勤務の後、「新青年」(博文館)「雄鶏通信」(雄鶏社)編集長を務める。のち、翻訳に専念、コナン・ドイルを始め英米推理小説の翻訳多数。