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「十二国記」絵師 山田章博の世界

山田章博/著 、芸術新潮編集部/編

1,815円(税込)

発売日:2023/12/12

  • 書籍

「十二国記」絵師・山田章博、そのあまりにも美しく豊饒なる絵の世界!

小野不由美による「十二国記」の壮大な物語を、山田章博は麗しいイラストで彩ってきました。マンガ家であり、イラストレーターとしても超売れっ子の山田は小説の装画・挿絵、アニメやゲームのキャラクターデザイン等、幅広いジャンルで活躍中。インタビューから制作現場密着取材まで、稀代の絵師の世界をたっぷり紹介します。

目次
「十二国記」イラスト傑作選
「十二国記」イラストについて
小野不由美への十問十答
山田章博のHow to Draw
「芸術新潮」表紙ができるまで
「十二国記」と装画・挿絵のあゆみ
泰麒ヒストリー
ふたつの「十二国記」描き分けの妙技
PHOTO REPORT
「十二国記」
山田章博 原画展 in 石ノ森萬画館
山田章博のWhat a Wonderful World!
I解説編 文:堺三保
IIグラフ編
魅惑の幻影絵師を語る
出渕裕インタビュー
蔵出し!
年賀状&暑中見舞い大公開
山田章博インタビュー
僕の絵は作品でも表現でもない
愛すべき、子供っぽいものです
小説「装画・挿絵」のアート史

書誌情報

読み仮名 ジュウニコクキエシヤマダアキヒロノセカイ
装幀 「芸術新潮」2022年6月号表紙/カバー表、大久保裕文+深山貴世(ベター・デイズ)/ブックデザイン
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-335933-3
C-CODE 0071
ジャンル マーケティング・セールス、絵画
定価 1,815円

書評

絵師のまなざしに潜り、溺れる

辻村深月

 その絵の剣は天を指し、剣を構える少女の瞳は刃の向こうの空を仰いでいる。背後には龍を象ったような美しい装飾が画面をはみ出すように続き、少女の剣を持たない左手と膝をむきだしにした足が、青銅と思しき質感のその装飾の文様に重なる。

 作家・小野不由美の大人気小説、「十二国記」の本編第一作『月の影 影の海』上巻の装画である。この絵について著者の小野氏は「いただいた絵は衝撃的でした。涼やかに剣を掲げ、凜とした表情で空を仰ぐ陽子は『天』のようでした。仏像で言う天部像のよう」と語り、担当編集者の鈴木真弓氏は「傷だらけでぼろぼろの制服をまといながら、これほど気高い少女の姿はほかにないと感じた」と当時を振り返る。
 私もまた、この装画を目にして、「十二国記」の世界に飛び込んだ一人だ。高校生の時だった。装画の持つファンタジーの雰囲気に心惹かれ、読み進め――、今も覚えているのは、読む途中で、ふとまた装画を見た時の衝撃だ。一枚の絵としての美しさに目を奪われていたが、この装画の少女が身に着けているのは私もよく知る現代日本のセーラー服であり、こちらに向けられた足裏は擦り切れたローファーの靴底なのだ、と唐突に理解した。それほどまでに装画の陽子の纏う空気は特別感があり、ぼろぼろの制服は硬質な素材の鎧のように、その時まで私には見えていた。物語を理解したからこそ見える世界がこれまでとまったく違っていた。陽子の掲げた剣が、天に向けた左手が、むきだしの足の膝が、より強く鋭く、瞳と心に焼きついた。
 今思えば、これこそが「装画」の魅力と凄さ、そのものだ。一枚の絵で世界観を象徴し、ファンタジー小説であること、少女の物語であることを伝えて読者を小説内部に引き込み――読者がその小説を深く知ると、今度は絵の中に潜むテーマや企みにさらに気づいて、絵により大きな奥行きが宿る。異世界だと思っていた世界が、陽子の制服とローファーの色と質感を通じて、まさに「私の物語」になった瞬間だった。
 この絵を描いた絵師の名は山田章博。本書は、その山田さんの魅力に迫る一冊である。タイトルに『「十二国記」絵師』とあるように、漫画やアニメ、ゲームなど活躍の場が多岐にわたる山田さんの仕事の中でもとりわけ物語の「装画」「挿絵」の歴史と軌跡を追う。
 見どころがたくさんあって、どこから紹介するか困ってしまう。でもたとえば、「十二国記」の講談社版と新潮社版の装画の違い。「十二国記」は当初、講談社の少女向けレーベルで刊行され、二十年の時を経て、一般読者向けに新潮文庫の完全版が刊行されたという歴史があり、その両方の装画をともに山田さんが描かれている。同じ物語、同じ絵師の装画がその二つでどう変わったか。
 また、本書は「芸術新潮」での特集記事がもとになっており、表紙の陽子の横顔の絵が完成するまでに密着している。これがもう、なんとも圧巻。彼女の髪が何で塗られ、背景がどのように完成し、その過程を山田さんがどんな言葉で語るのか――見てほしい。驚くから。感動するから。
 そう、ファンとしては驚き、戦慄することがいっぱいなのだ。『風の海 迷宮の岸』の下巻の、あの美しく愛らしすぎる泰麒がまさかそんな状況で描かれていたなんて嘘でしょ!? と慄き、また、選りすぐって掲載された作中の挿絵の数々に改めて目を留めて、画面を切り取る角度と視点の奇抜さに驚嘆する。山田さんが描かれたからこそ自分の中であんなにも彼らが今ある姿で「生きている」のだと気づき、実感し、感謝を覚える。
 そして、思い出した。ずっと待ちわびた戴国の物語、『白銀の墟 玄の月』一巻の装画が発表された時の、泣きたくなるような胸の高鳴りと痛みを。その瞳と姿それだけで、彼がこれまでの泰麒と違うのだということが伝わり、この先を読むことへの覚悟を問われた思いがした。同時に、「十二国記」を愛し追いかけ続けてきたことの幸福が胸に迫った。
 なぜ一枚の絵で、読者の心がそうなるのか。物語の「装画」は、おそらく絵師の物語への理解とまなざし、思想そのものだ。そしてそれは技術だけでは計れない、極めて選ばれた人にしか持てない才能でもある。
 実は私も、山田さんに自分の小説の絵をお願いしたことがある。長くファンだった身の分不相応な望みと理解しつつ、ダメでもともとという気持ちでした依頼に対し、返ってきた言葉に心が震えた。山田さんのご承諾を得て、ここに一部を引かせていただく。
「先生には折りにふれて『十二国記』を挙げて頂き、一挿絵画家が著者側に立って申し上げるべきではありませんが、感謝申し上げております。甚だ役者不足ではありますが、山田で問題ないようでしたら是非一点描かせて頂きたいと存じます」
 作品への真摯で誠実な姿勢と愛情。大きな物語の歴史を著者とともに作り上げてきた稀代の絵師のまなざしは、こんなやり取りにも宿るのだと言葉もない。同時代に生きる天才の仕事を今、ぜひ多くの方に見てほしい。

(つじむら・みづき 作家)
波 2024年1月号より
単行本刊行時掲載

【動画】作画風景

目次

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著者プロフィール

山田章博

ヤマダ・アキヒロ

1957年高知県生まれ、京都府在住。マンガ家、イラストレーター。1981年、「ぱだんぱだん」でマンガ家デビュー。代表作は、「BEAST of EAST~東方眩暈録~」、「ロードス島戦記~ファリスの聖女~」など。イラストレーターとしても、多くの装画・挿絵を手掛けており、「十二国記」シリーズ(小野不由美・著)は30年にわたる代表作。その他、ゲーム、アニメのキャラクター原案、映画のコンセプトデザイン等も手掛ける。1996年、第27回星雲賞(アート部門)受賞。

芸術新潮編集部

ゲイジュツシンチョウヘンシュウブ

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