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お茶の味―京都寺町 一保堂茶舖―

渡辺都/著

1,540円(税込)

発売日:2015/02/27

  • 書籍

京都の老舗の茶商が伝える、大切にしたいささやかな暮らしの知恵。

四季折々の行事とともにある暮らしを大切にする京都の人々。旬と名残り、お祭、茶花、贈りもの、毛筆の手紙、祝いごと、出会いと別れ――自然の恵みと人の知恵が織りなす茶の文化が、そのまま私たちの日常へと続いている。一服のおいしいお茶がもたらす豊かな時間とは。一保堂茶舖・六代目夫人がつづる歳時記。

目次
京都寺町 春・夏・秋・冬
新茶のころ
冷たい玉露
抹茶のこと
お茶の出番
雁ヶ音
篩い
お雑煮と大福茶
おいしくお茶を召しあがれ。
一保堂のこと
あきない
嘉木のこと
母のこと
甘く冷たいグリーンティー
香ばしいお茶
ティー、チャイ、チャ
寺町通二条上ル
お茶まわりのおはなし
急須のこと
茶碗と茶托
いり番茶
三角関係
ティーバッグ
外で飲むお茶
茶葉を保存する
茶事のよろこび
お稽古のこと
お茶の時間
おもち/火/静電気/ふくらむ/春節のお茶/包む/水色/点てる/母の日/おまつり/今だけ/ほたる/季節感/七夕/祗園祭/茶柱/せみ/ささゆり/きんみずひき/水やり/飲み比べ/日焼け/味わい/暦/実/かおり/姿勢/名残/夕暮れ/自転車/紅葉/おくりもの/猫手/貿易/大晦日

書誌情報

読み仮名 オチャノアジキョウトテラマチイッポドウチャホ
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-339071-8
C-CODE 0077
ジャンル クッキング・レシピ、ワイン・お酒
定価 1,540円

書評

お茶はゆっくり飲むのがいい

永江朗

 一保堂の前に立つとほっとする。一保堂は京都の日本茶専門店で、享保年間、1717年に始まったというから、もうすぐ創業三〇〇年になる老舗だ。
 ぼくは四年ほど前から、毎月、一週間から十日間ほどを京都ですごしている。京都駅で新幹線から地下鉄に乗り換え、京都市役所前で降りる。地上に出て寺町通を北上する。御池通、押小路通、二条通と、道を渡るにつれて心がだんだん京都モードになってくる。そして一保堂の暖簾の前で、深く息を吸い込む。お茶の香りを全身に行き渡らせるように。京都に帰ってきたな、という気持ちになる。ぼくの家はもう少し先、下御霊神社の手前を入ったところにあって、京都にいる間は毎日のように一保堂の前を通る。
 渡辺都さんは一保堂の奥さんで、『お茶の味』には渡辺さんが京都暮らしのなかで日々感じたことや思ったことが書かれている。感心したのは、いやなことがひとつも書かれていない点だ。エッセイを書こうとすると、つい世の中にモノ申したくなる。きっと渡辺さんにもそういうことはあるはずなのだけど、この本にはない。楽しいこと、気持ちのいいことだけが書かれている。まるで日本茶のようだ。
 役に立つこともたくさん書かれている。たとえばお茶をおいしく淹れるコツ。日本茶はもっとも身近な飲み物なのに、なかなか上手に淹れられない。ぼくはコーヒーには少し自信があるけれども、抹茶もお薄ならまあまあ点てられるかなと思ったりもするけれど、ごく普通の煎茶はまるでだめだ。でもこの本には秘訣が書かれている。茶葉とお湯の量、お湯の温度、そして茶葉をお湯に浸しておく時間の、四つがポイントだそうだ。
 知らなかったこともたくさんある。たとえば玉露は日本茶の仲間では歴史がいちばん新しいということ。なんと、つくられるようになったのは幕末になってからだという。玉露は抹茶用の茶葉を煎茶の製法でつくったもの。生産性向上で抹茶が余るようになり、その新たな利用法として生み出されたのが玉露なのだとか。玉露がいちばん古い、だから高級なんだ、とぼくは思い込んでいた。
 この玉露を氷水で淹れることを渡辺さんはすすめる。ひんやりと冷たく旨みのあるしっかりとした味になるという。老舗の奥さんだから、「冷たいお茶なんて、あきまへん」というかと思ったら正反対だった。この夏、ぜひ挑戦してみよう。
 このエッセイ集のベースになっているのは、季刊誌「考える人」に連載された「京都寺町お茶ごよみ」を改稿したものだが、それだけでなく、「京都新聞」に連載されたエッセイや、書き下ろしも含まれている。「考える人」で欠かさず読んでいた人、バックナンバーを揃えている人にも、この本はぜひおすすめしたい。
 とりわけ書き下ろしの二編、「茶事のよろこび」と「お稽古のこと」には、涙がこぼれそうになるくらい心を揺すぶられた。大阪の川沿いのマンションで催された茶事に招かれた思い出は、もう二十年以上も前のことなのに、蹲踞代わりの蛇口の下の黒い石や、待合の掛け軸代わりの映像(映画「雨月物語」の一部)にはじまり、モーターボートで淀屋橋まで送ってもらったことまで細かく記されている。茶の湯の奥深さと広さをあらためて感じるエピソードだ。そして昨年、渡辺さんは茶事の亭主をつとめたのだという。その趣向がまた素晴らしい。二十年前の感動をそのまま持続して別の形で表現する感性のみずみずしさがよくあらわれている。
 ところで、この本をたのしむコツがある。それはゆっくり読むこと。あなたがいつも読むスピードより二割ぐらいゆっくり読むと、言葉と言葉のあいだから香りと味がしみ出てくるだろう。

(ながえ・あきら フリーライター)
波 2015年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

渡辺都

ワタナベ・ミヤコ

1953(昭和28)年、島根県生れ。フェリス女学院大学卒業。1717(享保2)年創業の老舗茶商「一保堂茶舖」に嫁ぎ、京都から世界中にお茶の愉しみを伝えるべく努めている。

判型違い(文庫)

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