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「ハレ」そして「ケ」。日々の営みである「ケ」の中にこそある美を求めて。

ケの美―あたりまえの日常に、宿るもの―

佐藤卓/編著

2,376円(税込)

本の仕様

発売日:2018/10/31

読み仮名 ケノビアタリマエノニチジョウニヤドルモノ
装幀 塩川いづみ/装画、横尾香央留/題字刺繍
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 143ページ
ISBN 978-4-10-351072-7
C-CODE 0095
ジャンル 美術館・博物館、美術館・博物館
定価 2,376円

石村由起子、緒方慎一郎、小川糸、隈研吾、小山薫堂、塩川いづみ、柴田文江、千宗屋、土井善晴、原田都子、松場登美、皆川明、柳家花緑、横尾香央留――14人の人気クリエイターが表現する、日々の暮らしの中に現れる美しさとは? グラフィックデザイナー佐藤卓のディレクションで話題となった「ケの美」展のすべてが一冊に。

著者プロフィール

佐藤卓 サトウ・タク

グラフィックデザイナー。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立(2018年4月に株式会社TSDOに社名変更)。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」等の商品デザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」等のシンボルマークを手掛け、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」総合指導、21_21DESIGN SIGHT館長およびディレクターを務めるなど多岐にわたって活動。著書に『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)、『塑する思考』(新潮社)等。

目次

  この本について

ケの美を考える14人
 土井善晴 料理研究家
 柴田文江 プロダクトデザイナー
 隈研吾 建築家
 千宗屋 武者小路千家家元後嗣
 石村由起子 「くるみの木」代表・空間コーディネーター
 緒方慎一郎 「SIMPLICTY」代表・デザイナー
 小川糸 作家
 小山薫堂 放送作家・脚本家
 塩川いづみ イラストレーター
 原田郁子 「クラムボン」ミュージシャン
 松場登美 「群言堂」代表・デザイナー
 皆川明 「mina perhonen」代表・デザイナー
 柳家花緑 落語家
 横尾香央留 手芸家
 「ケの美」展のこと

対談 佐藤卓×橋本麻里
 日常の裏側で働くデザイン

 あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

あたりまえの日常に、宿るもの

佐藤卓

「これ、お掃除に使えるので、ぜひ」
 作家の小川糸さんがそう言ってくださったのは、小さな掃除用ブラシでした。細くて深い穴にも潜りこめそうな、20センチほどの細長いもので、聴覚障害者施設の入所者の手作りだとのこと。手渡された場所は、ベルリンのとあるカフェでした。長期滞在中の小川さんと、旅の途中でお会いしたのです。「しかも、美しいのに無駄がないでしょう」とドイツのブラシを動かしながら目を輝かせる小川さんの顔は、ほんとうに楽しそうでした。
 日常に使う、こういった掃除ブラシが持つ美しさには、時折ハッとさせられます。こういうものの美しさとはなんなのだろう。そんなことを考えていた頃に、料理研究家の土井善晴さんにお話を伺う機会を得ました。そこで耳にしたのが、「ハレとケ」で、それは後にこの本のテーマとタイトルになった「ケの美」につながっていきます。
 土井さんは料理に真摯に取り組むあまりに、食べることや食事のことなど、ひたすら突き詰めて考えるようになり、「ハレとケ」に思考が行き着いたとおっしゃる。私なりに解釈して言えば、非日常的な「ハレ」と、日常である「ケ」は、日本人の伝統的な世界観の両面を成すもの。「晴れ着」と言うように、祝い事や特別な催事が「ハレ」であり、一方で、毎日繰り返すあたりまえの日々が「ケ」と呼べそうです。
 みなさんの日常はいかがでしょうか。今の社会はひたすら華やかで写真映えするような「ハレ」ばかりを求めてはいないでしょうか。日々のあたりまえとなって、退屈だとさえ感じる「ケ」こそ、実は時間を経ると貴重で得難いものです。後からそう、しみじみと思えることは多いものです。
「『ケの美』とは、日常の営みという生き物の秩序の中に現れる美しさです」とは、本書の中の土井さんの言葉です。
 同様にその秩序については、こう綴っていかれます。
「それは『心地よい』という根源的な感覚にあらわれる、頭で考えることではないもの」
 この発想はユニークです。それでいて、あなたはどう生きるのか、という根源的な問いかけでもあるように思いました。ポーラミュージアムアネックス(東京、銀座)で「何か展示を」と依頼を受けた時に、これしかない、と思いました。「美しいものをつくりだす人たちは、日々どんなものに触れているのか」について、「ケの美」と題してディレクションをさせていただいたのはそのためです。「ハレとケ」の思考に触発されて思いついたのが、本の土台になっている「ケの美」展なのです。
 2017年の年末に開催に漕ぎつけたこの展示では、「私が興味を持つ14人、五十音順に石村由起子、緒方慎一郎、小川糸、隈研吾、小山薫堂、塩川いづみ、柴田文江、千宗屋、土井善晴、原田郁子、松場登美、皆川明、柳家花緑、横尾香央留(敬称略)の方々に、それぞれの仕事の紹介と合わせて、日用品、自身が考える「ケの美」を象徴する「もの」、そしてそれを伝える千字ほどの文章を提出していただきました。全員の方のポートレートと、日用品の撮影は、例外をのぞいて写真家の広川泰士さんによるものです。
 書籍化にあたっては、その写真をほぼそのまま掲載し、「展示物をもっとじっくりと味わいたい」と感想を伝えてくださった方に向けて、まとめました。写真を鮮やかに入れることができ、それぞれの方の纏う空気感も出せたように思います。
 本をお見せしたところ、土井さんが「ケは陰で支える存在とも言えます。ITのような華やかな世界があるなら、逆に実質を支える存在も必要だと思います。ケの美、という言葉は残っていくもの。本としてまとめてくださって嬉しい」と書籍化を喜んでくださいました。こちらこそ嬉しいことでした。
 さて、掃除ブラシの贈り主、小川糸さんも14人のうちの一人であるわけですが、無駄のないドイツらしいブラシは、我が家の廊下のくぼみを掃除するのに、日々役立っています。そんなちょっとした贈り物のやりとりも、「ケの美」のおまけかもしれません。

(さとう・たく グラフィックデザイナー)
波 2018年11月号より
単行本刊行時掲載

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