ホーム > 書籍詳細:母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

感動の実話、待望の映画化! 涙と希望に溢れる家族エッセイ漫画。

  • 映画化母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。(2019年2月公開)

母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。

宮川サトシ/著

1,100円(税込)

本の仕様

発売日:2018/12/26

読み仮名 ハハヲナクシタトキボクハイコツヲタベタイトオモッタ
装幀 山田知子(chichols)/デザイン
雑誌から生まれた本 くらげバンチから生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 191ページ
ISBN 978-4-10-352161-7
C-CODE 0079
ジャンル コミックス、コミックス
定価 1,100円
電子書籍 価格 1,100円
電子書籍 配信開始日 2018/12/26

「あんたもワテが産んだ傑作やでねぇ、なんも心配しとらんよ」。かつて僕が白血病になった時、母はこう笑い飛ばした。今度は僕が母を救う、そう決めたはずだったのに。死が近づく闘病の日々と、母を失った日常で僕が知った、最愛の存在がいない世界とその死の本当の意味。死後1年、母から届いたスペシャルな贈り物とは。新たな書き下ろし特別編も収録! さらに読みやすい大きさになった新装版です。

著者プロフィール

宮川サトシ ミヤガワ・サトシ

1978年生まれ。岐阜県出身。地方出身妖怪たちの日常を哀愁あふれるタッチで描いたコメディー『東京百鬼夜行』で2013年デビュー。最愛の人を喪った哀しみとそこからの再生を描いた自伝エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は、多くの共感を得た。原作者をつとめるSFギャグ『宇宙戦艦ティラミス』のほか、『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』『僕!!男塾』(原作)など話題作多数。

書評

母に見守られながら仕事をする

佐藤優

 親がいなくては子どもは生まれてこない。当たり前のように思えるが、この真実を自覚するのは、親が死んだときだ。漫画家の宮川サトシ氏は、大学生のとき厄介な血液疾患が見つかり、骨髄移植手術を受けた。病院食が不味いと不満を漏らすと、お母さんは、宮川氏のために給湯室のコンロを無断借用してカレーを作った。骨髄移植後、宮川氏は、痛みや吐き気で苦しんで、意識がはっきりしない時間が続くようになる。ふと横を見ると、お母さんが簡易ベッドで寝ている。〈なんだありゃ…でかい尻だなぁ…少しイラッともしたんだけど…今思えばこの人がくれた安心感に僕は終始救われていたのでしょう――〉と回想する。
 このくだりを読んで、私は小学校6年生のときに、私がA型肝炎にかかり、学校を3カ月間休んだときの、自分の母のことを思い出した。毎日、私の手を引いて病院に行き、食事療法として、油を使わないスパゲティーや煮物、黄身を除いた卵料理などを作ってくれた。自分よりも息子の命の方がたいせつという気持ちを宮川氏のお母さんも、私の母も持っていたのだと思う。
 宮川氏が退院してから10年後、今度はお母さんに付き添って病院に行くことになる。お母さんは、医師からステージ4の末期がんであることを宣告される。
「残念ですが…胃に数ヵ所がんが見られます おそらく他の臓器にも――末期のステージ4と考えてよろしいかと――我々としては一刻も早く化学療法を――」
 末期がんでもはや手術も放射線療法も不可能なので、抗がん剤でがん細胞の成長を抑える以外に術はないということだ。抗がん剤は、脱毛、吐き気、食欲不振、口内炎など、さまざまな副作用をもたらす。ステージ4の場合、抗がん剤が一定の期間を経ると効かなくなる場合も多い。そうなると緩和ケアに移行し、人生の持ち時間がかなり短くなる。がんの告知を受けているときに、宮川氏は、お母さんが震えている姿を見る。お母さんは、「医者があそこまで言うなら…まぁ あかんってことやねぇ」と言い、身辺の整理を始める。その冷静な姿を見ていると、私は自分の母のことを思い出す。
 鈴木宗男事件に連座し、東京地方検察庁特別捜査部に逮捕され、東京拘置所の独房に512日間収容された私が仮釈放になったのは2003年10月8日のことだった。母の73歳の誕生日であるこの日に合わせて私は保釈手続きを取った。その翌年5月、母がリンパのがんにかかっていることが発覚した。母は自分のことよりも、刑事裁判を抱え、近未来に失職するであろう私の将来を心配していた。がん保険から支給された金も「お母さんには必要ないから」と言って、私のために取り分けていた。幸い抗がん剤治療が功を奏し、がんは治ったが、死を意識した母は身辺の整理を始めた。私は職業作家になった姿を母に見せることができた。宮川氏の場合は、プロの漫画家となった姿をお母さんに見せることはできなかった。このことを描いた場面に人生の哀しさが滲み出ている。
 火葬場で、宮川氏のお母さんは骨になった。骨壺に移した骨の残りを見たときに、宮川氏は咄嗟にこう思った。〈まだ残ってるじゃないか…それなら欲しいよ…っていうか…むしろ食べたい…その瞬間 僕は母親を自分の身体の一部にしたいと強く願いました〉。この気持ちが、本書のタイトルにストレートに反映している。私の母の遺骨の半分は、父と一緒に富士山麓の霊園に眠っている。残り半分は、2010年7月に母が死んでから8年半になるが、私の書斎に置かれている。宮川氏も私も母に見守られながら仕事をしている。

(さとう・まさる 作家・元外務省主任分析官)
波 2019年3月号より
単行本刊行時掲載

目次

第1話 母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。
第2話 僕はまだ母のアドレスを消せないでいる
第3話 ずっとあんたのそばにいるからね
第4話 僕の自慢話を喜んでくれる人
第5話 あの時、母は根拠の無い自信に満ちていた
第6話 百日詣でをする僕と写真整理を始める母
第7話 病室の結婚式
第8話 最愛の人との別れ
第9話 形見が欲しい
第10話 葬儀
第11話 地元に埋まっている地雷のような思い出
第12話 実家と父親
第13話 兄と僕でお墓を買いに行った日
第14話 一周忌
第15話 ハナエへ(前編)
最終話 ハナエへ(後編)
エピローグ 最後の晩餐に食べたい物は
特別編 帰郷

インタビュー/対談/エッセイ

しくじりさえ褒めてくれる、僕らの最愛の人

宮川サトシ山里亮太

2014年に刊行され話題となったエッセイ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の映画化が決定し(安田顕さん主演で2月22日公開予定)、後日談を特別収録した新装版が発売されました。刊行当初から読んでファンだったという山里さんと著者の宮川さんによる、“マザコン対談”。最愛の存在を亡くした後、人はどう生きていけばいいのか――。

やっぱり、遺骨は「食べたい」

宮川 はじめまして。お目にかかれて本当に光栄です。お体は大丈夫ですか?(注:山里さんは年末に虫垂炎に罹り一時休養されていた)
山里 お気遣いありがとうございます。もうすっかり良くなりました。2014年に刊行された当初からこの作品のファンだったので、今日お話しできるのを楽しみにしていました。
宮川 そもそも、僕みたいなマイナーな漫画家の作品をなぜ知って下さったのですか?
山里 理由はシンプルで、たまたま書店で見かけてタイトルに惹かれて買いました。パンチのあるタイトルなのに瞬間的に、「この選択肢、自分の中で全く違和感ないな」と思ったんです。自分では考えてもみなかったけれど、良い選択肢を教えてもらったな、と。うちの母はまだ元気ですが、「その時」が来たら自分も食べたいですもん。
宮川 先行した「あるある」だったんですね。
山里 ええ。無意識に自分の中に存在したとんでもない選択肢が文字になって表れていたわけで、そんな自分自身の気持ちにはぎょっとしましたが。
 拝読したらますます共感することばかりで、漫画の全エピソードに自分の親の具体例が結びつき、ものすごい没入感がありました。もっと詳しく言うと、宮川さんが描く様々な場面や出来事にはうっすらと「のりしろ」が感じられて、その余白に自分の親を当てはめることができたんです。もう涙が止まらなくて、読んでいる途中に新潟の宿を予約して、「旅行いこうよ、母ちゃん!」とすぐ母親に電話をしました。
宮川 嬉しいです。今まで頂いた感想の中で一番嬉しい……。
山里 僕みたいに母親のことがすごく好きな人にはもちろんですが、母親の存在をちょっと遠くに感じている人にとっても、その「余白」に強引にでも自分の親を当てはめていけば、3話目くらいですぐにその存在が愛おしくなるとも思いました。
宮川 ありがとうございます……感無量です。
山里 読んでいる途中よく想像したのは、「その時」がきたら僕は一生メソメソし続けてしまうんだろうな、ということです。先日体調を崩した時も心配した母が2週間泊まり込み看病してくれて助かったのですが、母が作ったおじやに入っていた牡蠣に当たってますます体調を崩してしまったんですね。
宮川 なぜ牡蠣を入れたんだろう(笑)。
山里 虫垂炎だから胃は元気だろうと思ったらしいのですが、病院で点滴を打たれる僕の背中をさすりながら、「私のおじやで亮太が死ぬ!」ってオイオイ泣く母を、「この子はおじやで死ぬような子じゃない!」と親父が慰めて、僕が必死に「大丈夫だから落ち着いて……」と二人を宥めるという出来事があって……。
宮川 ドラマティックだけど妙にダサいですね(笑)。
山里 おじやが主役なので(笑)。で、それでいま思うのは、僕はこのシーンをどのタイミングでこの先思い出すのだろう、と。お母さんの死後、日常に地雷のように潜んでいる母の思い出に涙する宮川さんの姿は、自分の未来とかなり重なるように感じました。僕の場合、胃が痛む度に思い出すことになるので、結構大きな爆弾です。
宮川 ある種の呪いですよね。僕も、母の好きだったトヨエツ(豊川悦司)さんがテレビに出る度に、母のことが頭をよぎります。
山里 そのよぎり方の濃度は変わりましたか?
宮川 いいえ、変わりません。でも自分がどう感じるかは少しずつ変わってきていて、今では「出てきてくれてありがとう、トヨエツ!」と思えるようになりました。悲しさや寂しさが浄化されたんだと思います。
山里 ……すごいことですね。それは未来の僕にとって大きな励みになります。

「死んでから」を描きたかった

宮川 最近言葉になった気持ちなのですが、母の死から6年が経ち、僕は「母の死を食べた」んだなと感じています。死という現象を食べ、自分のものになったというか……。言い換えると、母親の魂が自分の中に入ったということではなくて、母の死が今の自分を支える重要な礎の一つになったということでしょうか。ヘンな言い方ですが、母親が死ななければ今の僕はないと、はっきり言えるんです。もちろん、死んでくれて良かったという意味ではなくて、あそこでお別れをしたから今の自分の強さがある——それは「存在」とも言えて、すぐ近くにいるわけではないけれど、いるにはいるなって感じがしています。
山里 もう寂しくはありませんか?
宮川 いいえ、それがそうでもない(笑)。1年に1回くらいは、悲しいエピソードだけを思い出して一人でメソメソする時があります。でも、今となってはメソメソできて良かったとも思うんです。
山里 それは今の僕には想像がつかないことだなぁ。
宮川 僕もこんな気持ちになるとは考えもしませんでした。最初の3、4年はすごく辛かったけれど、僕の場合は東京に引っ越したり漫画のデビューが決まったりと、日々の忙しさの方が意外に勝っていきました。でも、その支えになったのは間違いなく、母親との死別なんです。
山里 なるほど。そういう意味で「死を食べた」ということなんですね。
 今のお話もそうですが、宮川さんのこの作品は親との別れをテーマにした世の中に数多ある物語とは違って、その死をどう受け入れるかを見せてくれる「教科書」のように僕には感じられました。
宮川 うわぁ……それはめちゃくちゃ嬉しいです。
山里 僕は初めて、親との別れ方のレシピを見た、と思ったんです。
宮川 ありがとうございます! 死に至るまでの過程は濃密に描かれているのに、亡くなったら急に遺影を持ちながら空を見上げて「母ちゃん頑張るよ」って前を向いて終わる……そんな物語が個人的には納得できなかったのが、この作品を描いた動機の一つです。それに、母を亡くした後の方が自分の中の変化もより大きかったということもあります。僕にとっては、不在の時間の方が描きがいがありました。
山里 作中で宮川さんも描かれていますが、「自分の母親だけは絶対に死なない」と僕も思い込んでいて、「その日」が来たら壊れちゃうかもなと思っているのですが、宮川さんが見せてくれた「死の受け入れ方の具体例」が、いつか僕を必ず助けてくれる――そう確信しました。

とにかく俺を褒めてくれ!

宮川 以前ツイッターでもつぶやかせて頂きましたが、山里さんのエッセイ『天才はあきらめた』が僕は大好きです。この御本やテレビ・ラジオなどの発言から感じている山里さんの尽きない嫉妬心に、僕は共感しか感じていません。僕も妬みが一番の原動力です(笑)。
山里 ありがとうございます! いや〜嫉妬心だけでここまでやってきました(笑)。
宮川 でも山里さんの場合、「(相方の)しずちゃんじゃない方」という世間の印象を今では見事に覆していらっしゃいます。今いる場所からの景色って、昔と変わりましたか?
山里 いいえ、全く変わっていません。自分がこの仕事をして自分以外の芸人が存在して「活躍」という単語がある限りは、嫉妬は一生尽きません。断言できます!
宮川 やはりそうですか!
山里 作家の西加奈子さんが、「山里さんは嫉妬を抱きしめて生きている人。普通は嫉妬をするだけで終わるけれど、嫉妬を自分の中にぎゅっと抱きしめてパワーにしている人だから、そのままでいいよ」とおっしゃって下さったことがあり、以来、嫉妬すること自体はあまり気にしなくなりました。
宮川 「嫉妬を抱きしめる」っていい言葉ですね。
山里 ええ。それに、嫉妬をしているうちは天狗になり難いので、努力を惜しまない。自分ができないから嫉妬しているわけですから。
宮川 謙虚になりますよね。
山里 そうなんです。嫉妬相手に勝ったときは猛烈に嬉しいですし。僕の中の勝手な勝負ですが(笑)。
宮川 え、どう勝負しているんですか!?
山里 お恥ずかしい話ですが……例えばバラエティの収録中、自分に話が振られた時、このシチュエーションであの人だったら何と返すだろうと自分の中で瞬間的にシミュレーションするんです。それでいいワードが出た時は、「この言い回しは多分勝てたな」とほくそ笑み、出なかった時は「くっそー!」と悔しがる……そんな毎日ですね。
宮川 その気持ちよくわかります。僕も例えば、ツイッターで無料で読める漫画が10万リツイートされていたら、「10万リツイートと10万部は全然違うからね!」と、聞かれてもいないのに奥さんに説明しています。
山里 わははは! 確かに1回100円だったら、きっとそんなにリツイートされない(笑)。
宮川 そう思うようにしています(笑)。そういえば、山里さんのお母さんは山里さんのことをものすごく褒めますよね。幼少期はもちろん、今のお仕事についても絶対に褒めてくれるというエピソードは猛烈に羨ましかったです。僕が漫画家になる前に母は死んでしまったので。
山里 激甘なんです(笑)。
宮川 それで思い出しましたが、1月4日に初夢をみて、久しぶりに夢に母親が出てきました。そこで僕は、それまでの自分のキャリアでうまくいったことを全部話していたんです。「デビューしたよアニメになったよ今度は映画になるよ」とまくしたてるように……。母親の反応は覚えていませんが、結局僕はいつまでも、母親に一番褒めてもらいたいんです。
山里 自分の仕事の自慢話を飽きずに聞いてくれるのは母親だけだ、と作中でも書かれていましたよね。すごく共感しました。僕も仕事の報告、特に上手くいった仕事のことはよく母親にしています。「すごいねえ」といつも嬉しそうに褒めてくれますし、どんなに小さい記事もいまだにスクラップし、どんなに短い出演でも編集してDVDに保存してくれていて、もう2000枚を超えている……。
宮川 素晴らしい愛情ですね。
山里 激甘ですから(笑)。書籍の帯にも写真が載っていますが、今回の映画では本当に倍賞美津子さんがお母さん役を演じられるのですね。
宮川 そうなんです。漫画の中で兄が「倍賞美津子さんを見ると母を思い出す」と話す場面があるのですが、まさか実現するとは……! 実際お会いしてみたら、母はあんなに綺麗でも彫りが深くもなかったなと思いましたが(笑)。完成したものをすでに観させてもらったのですが、とても素晴らしくて、病室の匂いまでしてくるほど、実際に自分が体験したこととあまりに空気感が似ていました。
山里 お兄さんもご出演されているんですよね?
宮川 エキストラに応募していました、勝手に(笑)。
山里 僕も楽しみに拝見します。
宮川 ぜひぜひ。感想お聞かせ下さい!

(やまさと・りょうた お笑い芸人)
(みやがわ・さとし 漫画家)
波 2019年2月号より
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