
浮世絵「春画」の絶技─こんなに凄い『花鳥余情 吾妻源氏』─
4,950円(税込)
発売日:2026/09/30
- 書籍
彫と摺の神業エロチカ!
歌川国貞『吾妻源氏』は数ある「春画」の中でも、技術の粋を極めた最高峰の逸品。そんな名作を隅から隅まで多彩な撮影で捉えました。縮れ毛を超極細で彫った「毛彫」、肌の膨らみを繊細な凹凸で表現した「極出」「空摺」、横から見ると光沢柄が浮かぶ「正面摺」……江戸職人の超絶技巧をたっぷり見せます。本文全文翻刻も!
序文
『花鳥餘情 吾妻源氏』概説
錦繪版畫技法の解説
錦繪版畫の摺順
凡例 撮影條件
天の卷
天・表紙
天・扉繪 大首繪
天・序文
天・見開繪(一) 女三の宮の秘密の切掛け
天・見開繪(二) 稚妻と稚兒の逢瀬
天・見開繪(三) 吉原の女郎と馴染客
天・見開繪(四) 裏長屋の夜の夫婦
天・見開繪(五) 高僧が憧れるは衆妙の門
天・見開繪(六) 岡場所の女郎と遊客
天・裏扉繪 大開繪
本文解説
地の卷
地・扉繪 大首繪
地・見開繪(一) 吉原花魁の表と裏
地・見開繪(二) 琴の師匠の特別授業
地・見開繪(三) 貧相な女郎宿の風景
地・見開繪(四) 眞夏の出合茶屋の男女
地・裏扉繪 大開繪
人の卷
人・扉繪 大首繪
人・見開繪(一) まさきの前に迫る高師直
人・見開繪(二) 江戸の下町、戀仲の男と女の事後
人・挿繪 薄雪からの判物の返し
人・見開繪(三) やうやく實現した薄雪との出合圖
人・見開繪(四) 屏風の蔭で自慰におよぶ腰元間垣
人・見開繪(五) 醜男と交はる間垣の妄想
人・裏扉繪 大開繪
跋文
序文・本文
全文翻刻
天・序文
天・本文
地・本文
人・本文
『花鳥餘情 吾妻源氏』全圖
書誌情報
| 読み仮名 | ウキヨエシュンガノゼツギコンナニスゴイカチョウヨジョウアヅマゲンジ |
|---|---|
| 装幀 | 歌川国貞『花鳥余情 吾妻源氏』より天・見開絵(一) 老戴コレクション蔵/カバー、サンエムカラー/撮影、深山貴世(ZONOCO)/ブックデザイン |
| 雑誌から生まれた本 | 芸術新潮から生まれた本 |
| 発行形態 | 書籍 |
| 判型 | B5判 |
| 頁数 | 176ページ |
| ISBN | 978-4-10-357221-3 |
| C-CODE | 0071 |
| 定価 | 4,950円 |
書評
まるで「春画」原本に触れられるかのよう
早川聞多氏は、国際日本文化研究センター(日文研)に勤めていた頃、40年近く前に「春画」に出会って以来、様々な角度からこのジャンルについて調べてこられました。春画は長いこと日本ではタブーだったため、大学の教授が研究するには難しい対象でした。ようやく平成になった頃に、春画の局部にぼかしを入れることなく出版できるようになりました。
早川氏は、まず春画の実際の内容、特に詞書を徹底的に翻刻し、現代語訳することを基礎として解説を書かれました。また江戸時代の春画の読者を調べたり、春画の面白さ、とくに笑いとヒューマニズム(和合)を論ずることで春画のイメージを一変させました。
早川氏は春本(艶本)を広く調べていくうちに、多くの発見をされました。そのひとつが、25年ほど前に出会ったという江戸時代の文化から天保期(1804~1845年)の超豪華木版摺りの春本でした。
春本は享保期から徳川幕府の出版禁止令(1722年頃)の対象になりましたが、通常の本屋仲間の出版申請と許可の手続きを経ずに、一種の暗黙の了解のようにして出版されていました。その上、寛政の改革以後(1790年代)には奢侈禁止令が出され、豪華な摺りの本は一般的に出版できなくなりました。
しかし春本はきちんとした奥付がない本なので、本屋仲間や幕府の取り締まりの目から逃れ、逆に自由に豪華本を出版することが可能となりました。結果として、その時代、つまり18世紀の末から19世紀の前半に、皮肉にも、最も技術的に優れた豪華な木版摺りは、春画の本にあるということになりました。すなわち春本を除いて、浮世絵や木版の出版文化史を語ることはできないのです。
本書で取り上げられた歌川国貞の『花鳥余情 吾妻源氏』(1837年刊)は、豪華本の素晴らしい例のひとつです。早川氏は、このような本を読者に味わってもらうにはどうしたらよいかと、現代の製本・出版技術の専門家(印刷技術者や写真家など)に相談しながら、この傑作の魅力を木版の技術の魅力に注目することで、ようやくこの一冊をものされました。
さらに早川氏が主張しているのは、江戸時代の浮世絵は一人の絵師(例えば、北斎や広重など)だけの作品ではなく、絵師の他に、彫師や摺師などとの共同制作であることです。
この本一冊だけで、浮世絵春画とは何であったのか、目の前に開けてくるでしょう。世界に誇る日本の木版文化を代表する春本の原本の写真がただ掲載されているだけでなく、細かないくつもの角度からの部分写真も参考として入っています。それぞれの絵を解説によって理解しながら、日本のレベルの高い木版技術をはっきりと見て取ることができます。
通例、春本には絵が多く、肝心な図はセックスを描いている場面です。しかし『花鳥余情 吾妻源氏』にはそれだけでなく、風雅な恋話が長々と載っています。文章の翻刻の頁に原文の写真も載せて、読者は元の詞書を味わうことができます。
本書は早川氏の博識と熱意から生まれました。木版の技術を調べるためには、歌川国貞のこの本の3点に絞れば、技術の偉大さがわかるといいます。それらは毛彫り(髪の毛ほか体全体の毛)、凹凸表現(窪み、空摺など)、光沢(金銀箔摺、雲母摺など)という技法です。
そして本の構成については、原本の見開きの頁の内容を解説しながら、摺りの特徴を、部分写真を参考図として(紙の裏側の写真も含めて)、細かく分析しています。まるで原本の紙に触れられるような気までします。こう観てくると、あまり表には出てこない彫師と摺師がどれほど骨を折ったのかということがしみじみとわかります。
本書は、さまざまな工夫を凝らして、読者がこの春本を楽しく読めるように導いてくれるのです。
(アンドリュー・ガーストル ロンドン大学東洋アフリカ研究学院名誉教授)
波 2026年10月号より
単行本刊行時掲載
著者プロフィール
早川聞多
ハヤカワ・モンタ
1949年、鳥取県生まれ京都市育ち。国際日本文化研究センター名誉教授。専門は日本美術史、江戸文化史。大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。著書に『蕪村画譜』(毎日新聞社)、『夜色楼台図』『春画の見かた 10のポイント』(ともに平凡社)、『春画のなかの子供たち』(河出書房新社)、『春信の春、江戸の春』(文春新書)、『春画──秘めたる笑いの世界』(洋泉社)など。

































