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遊廓

渡辺豪/著

2,200円(税込)

発売日:2020/06/29

書誌情報

読み仮名 ユウカク
シリーズ名 とんぼの本
装幀 渡辺豪/撮影、中村香織/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク
発行形態 書籍、電子書籍
判型 B5判変型
頁数 143ページ
ISBN 978-4-10-602294-4
C-CODE 0372
定価 2,200円
電子書籍 価格 2,200円
電子書籍 配信開始日 2020/06/29

北海道から沖縄まで、消えゆく娼街、娼家140景。

遊廓に魅せられた著者が、10年にわたって渾身取材撮影した全国の遊廓跡・赤線跡およそ500箇所から厳選収載。消滅間際の、あるいはすでに消えてしまった姿を克明に伝える空前絶後の写真集にして、日本の「影」の近代遺産を記録する貴重な資料。独特の建築様式やモザイクタイル、窓飾りの細やかな意匠が見どころ。

目次
はしがき――記憶と記録のはざま
華は細部に宿る
モザイクタイル
窓の意匠
遊廓小史――日本の近代化がもたらしたもの
おくがき――なぜ美しいのか
掲載写真リスト
掲載写真日本地図分布リスト
遊廓その後――旧娼家旅館の煌めき

書評

『遊廓』に見る数奇屋とアール・デコ

井上章一

 一般の家屋、屋敷とは趣のことなる建築がかつての遊里にはたっていた。いわゆる娼館が粋な、悪く言えばあくどい構えを、見せつける。分類をすれば数奇屋風と言うしかない姿で、異彩をはなっていたのである。
 こうきりだすと、少なからぬ建築学の研究者はいやな顔をする。数奇屋の意匠は、江戸時代のはじめごろに、茶室のしつらえをつうじて、ととのえられた。桂離宮のデザインにその典型例はある。色街の建築などで、数奇屋を論じるのはやめてほしい、と。
 一七世紀前半の茶室づくりが、この形式をはぐくんだことはたしかである。桂離宮や修学院離宮をはじめとする別荘で、それが集大成されたのもまちがいない。
 しかし、数奇屋の細工は、ほぼ同時代の京都にいとなまれた角屋すみやでも、うかがえる。桂や修学院より、いっそう数奇の度合いをこらしたありかたで、今もたっている。ねんのためしるすが、角屋は島原という遊廓にもうけられた、いわゆる揚屋あげやである。遊里や花街では、京都以外の場所でも、ながらくここが建築の手本だとされてきた。
 数奇屋は、好き心(数奇心)をいかした造作である。樹皮がはがされていない材を、床柱につかう。床壁の一部をくずし、わざわざ穴をあけ、下地の小舞が見えるようにしてしまう。今、想いつくままに例示したが、とにかく遊戯的なしつらえをさしている。
 おりめただしい施設では、つかわない。茶室や別荘といった、遊びの場で好まれる、建築的なおしゃれに、それはなっていた。ジーパンにあざとく穴をあけたような装いが、服飾面での類例にあげられようか。
 もともとは、逸脱をもとめた意匠であった。しかし、時代が下るにしたがい、その形は形骸化を余儀なくされる。くずした形が、そのまま継承すべき手本になりだした。とりわけ、茶室でその傾向はいちじるしい。家元制度の下で、茶の湯じたいが形式主義にとらわれはじめたせいだろうか。
 遊里や花街の数奇屋造りが江戸中期以後、どう推移していったのかは、よくわからない。ただ、明治以後になっても変化の歩みをとめなかったことは、うけあえる。
 じっさい、そこにはしばしば中華風が加味された。西洋的な建築手法も、とりいれられている。たとえば、階段を舞台のようにもうけた例がある。踊り場にたたずむ遊女を、ひきたてようとしたのだろうか。
 あちらの流行も、日本の遊廓建築にはつたわっている。1920年代からは、アール・デコの意匠が、数奇屋のそれにとけこまされたりもした。そして、両者をまぜあわせたような表現なら、まだいくつか実例ものこっている。茶室の場合とちがい、新奇をもとめる志が、風俗施設では生きつづけたのだと考える。
 さて、今は鉄筋コンクリートの時代である。男たちを遊ばせるための建物も、その大半はこの現代的な構造でたてられる。たとえば、ホステスクラブやソープランドなども。男女へ性愛の場を提供するラブホテルでも、もう木造の新築はありえない。
 それらの施設にも、数奇屋の延長線上へおきうる要素はあるだろう。数奇屋とポストモダニズムのモチーフを、融合させている。たとえば、そう言えそうなナイトラウンジも、実在すると思う。
 だが、鉄筋コンクリートの風俗施設と木造のそれは、同列にあつかえない。アール・デコが数奇屋と同居する木造の娼館から、ずいぶん前者はへだたっている。私は両者を別物とみなしたい。
 周知のように、旧遊廓は二〇世紀のなかば以後、営業を禁止された。ほかの風俗施設とちがい、鉄筋コンクリートが普及しきる前に、たてられなくなっている。おかげで、その遺構はアール・デコ化された木造数奇屋の姿を、とどめることができた。
 茶室あたりとちがい、数奇屋が二〇世紀に入っても現役で生きつづける。とうとう、アール・デコと融合するまで、変容していった。そんな数奇屋の最終形態、コンクリート化される前の姿が、ここには記録されている。貴重な映像資料の刊行を、よろこびたい。

(いのうえ・しょういち 建築史家)
波 2020年7月号より

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著者プロフィール

渡辺豪

ワタナベ・ゴウ

1977年、福島県生まれ。全国に残る遊廓跡・赤線跡およそ500箇所を撮影取材。2015年、遊廓専門の出版社「カストリ出版」を創業、主に貴重書の復刻を行う。翌2016年、吉原遊廓跡に遊廓専門の書店「カストリ書房」を開店。『遊廓』に収録した写真はすべてシグマ社製カメラを用い、多くはDP1 Merrillで撮影。

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