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蔦屋重三郎のエロチカ 歌麿の春画と吉原

リチャード・レイン/著 、浅野秀剛/著 、芸術新潮編集部/編

2,255円(税込)

発売日:2025/10/30

  • 書籍

蔦重×歌麿の黄金コンビが生んだ春画の傑作『歌満くら』を徹底解剖!

数ある浮世絵エロチカのなかでも、版元・蔦屋重三郎×絵師・喜多川歌麿の『歌満くら』は、その表現の斬新さで、そそり立つ。だが実はこの名作、刊行当時は不評だった!? それが一大復活をとげたのは、なにゆえか? レイン博士がその謎を解く。そして歌麿が描いた花魁たちの美人絵もたっぷりとご紹介。吉原の遊女を描いた絵師は多いが、歌麿は質量ともに、他を圧倒しているのだ。歌麿は吉原をどう描いたのか?

目次

〈第一部〉春画

蔦屋重三郎と歌麿と春画事情
【文】芸術新潮編集部

[グラフ]蔦重×歌麿の斬新なるエロチカ

傑作『歌満くら』全12図

“歌麿エロチカ”
挑戦・失敗・復活の謎を解く

【解説】リチャード・レイン
(一)新時代の絵師・歌麿登場!
(二)不発の『歌満くら』が復活するまで
(三)歌麿のラストエロチカ

蔦屋重三郎と歌麿のエロチカ
【文】早川聞多
『願ひの糸ぐち』ふたりの会話
ラストエロチカ
『絵本小町引』の男と女

〈第二部〉吉原

吉原ってどんなとこ?(1)

《青楼十二時》でよみとく花魁の24時間
【解説】浅野秀剛

遊女の生活を描いたふたつの名作
【解説】浅野秀剛

『青楼絵本年中行事』でよみとく花魁の1年
【解説】浅野秀剛

吉原ってどんなとこ?(2)

[グラフ]歌麿謹製、吉原ガールズコレクション

歌麿の遊女はなぜ魅力的なのか
【解説】浅野秀剛

リアル吉原~黒い報告書~
【文】永井義男

書誌情報

読み仮名 ツタヤジュウザブロウノエロチカウタマロノシュンガトヨシワラ
シリーズ名 とんぼの本
装幀 喜多川歌麿 『歌満くら』より第八図/カバー表、広瀬達郎(新潮社)/撮影、大野リサ/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-602311-8
C-CODE 0371
ジャンル 彫刻・工芸、芸術一般
定価 2,255円

書評

春画研究を拓いたR・レインさんのこと

平賀弦也

 ひとむかし前の春画ブームを牽引した林美一さんとリチャード・レインさんは、どちらも組織に所属しない独立研究者だった。浮世絵の母国日本でも、富裕な愛好家が蒐めた優れた浮世絵コレクションを各地の美術館に擁する米国でも、春画はながくタブー視されていたのだから当然か。ことに日本では刑法一七五条が重くのしかかり、研究成果の公表さえままならない時代が長くつづいた。
 潮目が変わりはじめたのは二十世紀の末、「芸術新潮」1988年3月号が林氏監修による「浮世絵の極み 春画」を掲載したあたりから。翌年から1993年にかけて、林氏は北斎、歌麿、春信、国芳、広重とつづいた同誌の浮世絵特集に寄稿し、1994年にはレイン氏の「浮世絵 消された春画」が掲載された。欧米のコレクターが春画を嫌ったため、日本の浮世絵商たちは、オリジナル版画の「不適切」な部分を切除し、別作品の美人図などを象嵌したパッチワーク版画を売りつけた。それがバレないくらいの超絶技巧をもつ版画修復師が大正期の日本にはいたのである。米国のいくつかのコレクションのカタログでは、こうした改竄版画が「他に類例のない」作品として記載されている、といういささか情けない実態を暴いた画期的な特集で、すこし間をおいた2002年と2003年にもレイン氏による北斎と歌麿の特集が掲載された。
 劈頭の「浮世絵の極み」を担当した縁で、わたしはこれらすべての特集に関わり、晩年のおふたりに接する機会をえた。林さんは膨大な量の黄表紙、読本類を読破し、絵師たちの描き癖や細部の特徴を目に焼きつけ、また時代風俗に詳しく、戯作者たちの文意を読み解くことに長けていた。レインさんはコロンビア大学で日本文学の博士号を取得、ホノルル美術館では客員研究員に任じられ、またシカゴ美術館の浮世絵版画目録の監修も手がけている。1950年代末から日本に住まい、自身で美術品を買ったり売ったりしながら独自の画像アーカイヴを構築し、世界のどこにどんな作品が所蔵されているか、知悉していた。自著に掲載する図版には強いこだわりをもち、編集部で入手した写真原稿はレインさんのチェックを経なければ使わせてもらえなかったし、内外の美術館から写真を借りるばあいも、春信「雪中相合傘」はどこ、北斎「赤富士」はどこと、作品ごとに所蔵館を指定された。レインさんの著作の掲載図版はどれも厳選されていて(美的価値より資料的価値を優先することもあったようだ)、他の書籍の掲載図版と見較べると、思いがけない発見にいたることもある。
 2002年の「北斎のラスト・エロチカ」では『喜能会之故真通』の「蛸と海女」の図を掲載した。北斎自作とされる書き入れ文を紹介するため変体仮名を書き起こし、校正ねがいます、と送信すると、日本語の本が何冊も出ているだろう、と返信がきた。それが信頼できないから頼んでいるんだと、某出版社の一冊をコピーして送信すると、あまりの杜撰さに驚愕したらしく、ていねいにチェックしてくれた。春画ブームといっても、そのていどのごく底の浅いものだったのだ。この特集ではレインさんの本論のほか、北斎の画歴をたどるQ&Aテキストを付したが、その初校ゲラに、自著『伝記画集 北斎』は二つの賞をもらった、そのことを付記してもらえないかと書かれていた。いまさら行数を動かしたくはなかったが、無視するわけにもいかない。北斎の画風が多様で捉えにくいことが、この伝記画集を書いた理由だと結ぶパラグラフの最後に、〈幸い日本浮世絵協会賞と京都大学の人文科学研究奨励賞をいただくことができました。北斎先生のおかげです〉と加筆して(そのぶん他を削除)送ると、当該箇所に「御工夫ありがとうございます」と書き添えたゲラが返信されてきた。終の住処と定めた日本での受賞がよほど嬉しかったものか。
 2005年、わたしはとんぼの本『歌麿の謎 美人画と春画』の編集を手伝うことになった。林さん、レインさんによる二本の歌麿特集を合体したもので、おふたりはすでに亡く(林さんは1999年に、レインさんは2002年に他界された)、旧稿を再使用するほかない。なんとか新味がだせないものかと、自分なりの視点で見つけた歌麿版画の特質に関するテキストを、今回と同じ筆名で添えることにした。林さんもレインさんもつねにリサーチを怠らず、発表にさいしては最新の成果を盛り込もうとつとめていた、それにならいたかったのだ。今回の『蔦屋重三郎のエロチカ 歌麿の春画と吉原』のレインさんのテキストも、若き日の歌麿が蔦重の援助をえて創出した春画「歌満くら」がなぜ不人気だったのか、重三郎の死後にどのように復活したのかなど、いまなお新鮮な示唆にとむ。林さんとレインさんには、あと十年、いや五年でもながらえて、刺激的な研究成果を発表しつづけていただきたかった。

(ひらが・げんなり 元編集者)

波 2025年11月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

リチャード・レイン

Dr.Lane,Richard

(1926-2002)1926年、アメリカ生まれ。東京大学、早稲田大学、京都大学の大学院で国文学を学ぶ。コロンビア大学、メリーランド大学他で日本語、日本文学、日本美術を教えると共に、ホノルル美術館の学芸員も務めた。2002年逝去。著書『浮世絵 消された春画』(新潮社、2002年)他多数。

浅野秀剛

アサノ・シュウゴウ

1950年、秋田県生まれ。美術史家。2025年10月現在、大和文華館およびあべのハルカス美術館館長。千葉市美術館学芸員時代には、「喜多川歌麿」(1995年)、「青春の浮世絵師 鈴木春信──江戸のカラリスト登場」(2002年)、「鳥居清長 江戸のヴィーナス誕生」(2007年)などの重要な浮世絵展を手掛けた。編著多数。

芸術新潮編集部

ゲイジュツシンチョウヘンシュウブ

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