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国も会社もアテにならないけれど、僕らには「列島」という希望がある!

日本列島回復論―この国で生き続けるために―

井上岳一/著

1,540円(税込)

本の仕様

発売日:2019/10/24

読み仮名 ニホンレットウカイフクロンコノクニデイキツヅケルタメニ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 303ページ
ISBN 978-4-10-603847-1
C-CODE 0333
ジャンル 政治・社会
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,540円
電子書籍 配信開始日 2019/11/29

日本列島を根本から理解すると見えてくる、その凄まじいまでのポテンシャル。驚異の近代化、数々の復興の原動力となった「国土」と「地方」は、いま再び、未来に不安を抱きつつある私たちを救ってくれるのか。自然、歴史、コミュニティ、テクノロジーを総動員して構築する、全く新しいSDGs、イノベーションの思想。

著者プロフィール

井上岳一 イノウエ・タケカズ

(株)日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。1994年東京大学農学部卒業。Yale大学修士(経済学)。林野庁、CassinaIXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。森のように多様で持続可能な社会システムの実現をめざし、官民双方の水先案内人としてインキュベーション活動に従事。2019年10月現在の注力テーマは「ローカルDXによる公共のリノベーション」。共著書に『MaaS』(日経BP社)、『公共IoT』(日刊工業新聞社)、『AI自治体』(学陽書房)等がある。南相馬市復興アドバイザー。

書評

忘れられていた“山水郷”日本の未来を引き受ける

藻谷浩介

 俄然注目されるようになったラグビーというゲームには、世の現実というものが詰まっている。
 ボールを持った選手はタックルされ、のしかかられる。うっかりパスを受け取ってしまったが最後、文字通り袋叩きに遭うのだ。それでも勇気をもって闘う選手たちの姿は、この世で何事かを前に進めようと苦闘する人たちの姿と、ぴったり重なって見える。
 日本の地方、なかんずく過疎地の持つ可能性を、新たな論として世に問う作業も、まるでラグビーだ。さまざまな論者がパスをつないで切り込みを図って来たが、なにぶん敵は、明治維新から平成までの間に固まりに固まった日本の大都市信仰、中央集権信仰である。ディフェンスラインはなかなか破れない。掲題書の中でも紹介いただいた『里山資本主義』(2013年、角川oneテーマ21)の共著者の一人として、評者(藻谷)はそのことを、特に痛切に感じてきた。というのも同書は、「カウンターカルチャーの宣言書」という以上の位置づけを得ることはなかった。同書の最終総括の章に示した見取り図は、結論だけの略述で、先入観を壊すだけの説得力を備えていなかったのだ。
 その後も藤山浩著『田園回帰1%戦略』、金丸弘美著『里山産業論』など、さらにもっと実のある本によってパスはつながれたのであるが、なかなかゴールラインは割れない。だがそんな中、ついに、掲題書『日本列島回復論―この国で生き続けるために―』が出て来た。これでようやく、ラインの向こうにボールが突き刺さったと言えるのではないかと、評者は深く感慨を抱いているのである。
『日本列島回復論』では、なぜ過疎地(筆者のいう「山水郷」)にこそ日本の未来があるのか、その立論の全体像が重層的に語られている。
 第一章、第二章は、「経済成長」が世を救うと誤解したばかりに日本がどのような状況になってしまったのかを、見事に切り出した。これだけで一冊の新書になる中身である。とりわけ、「利潤は自由競争を阻害し独占を実現してこそ得られるものであり、利潤を目指す資本主義は、必然的に格差と分断を作り出す」という洞察は、最も鋭い現代社会批判として胸に刺さる。
 だが第三章以下で話が「山水郷」に移っていくのはなぜか、最初の二章を読んだ直後にはよく見えないかもしれない。そこで読者諸賢にはぜひ、第三章、第四章にある通時的分析、すなわち縄文時代から高度成長期までの山水郷の意義の変化を読了したのちに、その後に日本がどのような状況になったのか、もう一度第一章から読み返して頂きたいのである。そうすれば、なぜ日本の今の困難があるのか、何を忘れたからこうなってしまったのか、改めてすっきり頭に入るだろう。山水郷はかつては「天賦のベーシックインカム」であり、その後は「天賦のキャピタル」であった。石油文明と共にその価値を完全にかなぐり捨ててしまったことの、どこに間違いがあったのか、ゆっくり考え直してみるべきなのである。
 とはいえ第五章、第六章にある、今の山水郷からの最新動向の報告と、もっと多くの若者が大都市から山水郷へと回帰する未来への提言は、都会人の皆様の胸にどの程度まで落ちるだろうか。同じ現実を日々全国で見聞きしている評者としては、いちいち線を引いて頷くばかりの中身だったのだが、過疎地の現場を知らないほとんどの読者にとっては、「本当かな?」という疑いの残る話であり続けるのかもしれない。だがそうした人たちに評者は問いたい。「あなたは何を引き受けて生きているのですか」と。
「引き受けて生きる」。これは掲題書を貫くキーワードであり、すべての都会人に生き方を問いかけ直す言葉である。都会でその他大勢の消費者の一人として暮らすことをやめ、山水郷を引き受けて生き始めた若者たち。彼らが選んだ生き方こそ、日本中のすべての既存大企業や、都会のすべての超高層建築が、耐用年数を迎えた未来にも着実に残る生き方だ。本当に未来に残るものは何で、そこにかかわる生き方とはどのようなものなのか。それを考え始めてしまったら、心の中の大都市信仰、中央集権信仰は、ゆっくりと崩れ落ち始めるしかない。そう、「引き受けない生き方」なんて、あまりにつまらないのだ。
 ボールをつないで、つないで、どうやっても前に進めない中、一閃神風のように抜け出した著者が、ようやく決定的なトライを決めた。掲題書の刊行を、ラグビー日本代表の躍進以上に喜びたい。

(もたに・こうすけ 日本総合研究所調査部主席研究員)
波 2019年11月号より

目次

はじめに
第一章 この国の行く末
第一節 今、何が起きているのか
見えない貧困の実態/広がる格差/希望を持てない人々
第二節 なぜこんなにも不安なのか
先行き明るい要素がない/「椅子取りゲーム」の人生/居場所がない
第三節 これから起きること
GDPの伸び悩み/増税できない社会/格差と分断が止まらない/崩壊する「土建国家モデル」/土建国家の遺産
第二章 求められる安心の基盤
第一節 資本主義の本質
資本主義の“効能”/どのように立ち向かうか
第二節 セーフティネットの空洞化
ポスト土建国家の社会保障/そして大企業、高学歴、中央志向は続く/「普遍的職業」の消失
第三節 稼ぎに貧乏が追いついた
「寅さん的」なるもの/土建国家モデルのオルタナティブ/「つながり」を求める人々/三陸の孤立集落で見た究極のセーフティネット
第三章 山水郷の力
第一節 天賦のベーシックインカム
山水郷とは何か/縄文人の心得/中世までは一等地だった山水郷/三〇〇〇万人を支えたポテンシャル
第二節 多様性と自立を促した山水郷
「平地人」と異なる世界/自力救済の伝統/自立経営が育んだ多様な生業と人材
第三節 “強い国づくり”を支えた山水郷
山水による資本蓄積/中央集権と立身出世/『ふるさと』を歌う理由
第四章 動員の果てに
第一節 捨てられた山水郷
ニーズの低下/“生きる場”としての機能の低下/閉鎖的な共同体
第二節 里山は「野生の王国」になった
災害のリスクが高まる/クマが来る/予測不能の野生/天道と人道
第三節 このまま撤退を続けていいのか
都市だけでやっていけるのか/一〇〇〇年の生きる知恵/失われゆく日本の魅力
第五章 山水郷を目指す若者達
第一節 山水郷の復権
若い世代が考えていること/求めているのは安心/先祖還りのライフスタイル/山水郷が子どもに与えるもの/ローカルベンチャーの興隆
第二節 回帰の風景
通信網と交通網の発達/“つながる経済”への憧れ/ババ様達の力
第六章 そして、はじまりの場所へ
第一節 山水郷の合理性
山水郷は不便なのか/物語の呪縛/本社は地方です/内に向かう進化
第二節 引き受けて生きる
ローカルに根ざし、ローカルと向き合う/孤立と自立/己を超えた存在/郷土を引き受けて生きる
第三節 次の社会の物語
古来と未来/第四次産業革命と山水郷/生き心地の良い社会をつくる/共につくる社会の物語
あとがき

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