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怪異猟奇ミステリー全史

風間賢二/著

1,650円(税込)

発売日:2022/01/26

書誌情報

読み仮名 カイイリョウキミステリーゼンシ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 271ページ
ISBN 978-4-10-603875-4
C-CODE 0390
ジャンル ノンフィクション
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,650円
電子書籍 配信開始日 2022/01/26

オカルト、エログロが日本探偵小説を生んだ⁉ 博覧強記の文学史がここに。

18世紀英国ゴシック小説は、フェイク精神、心霊主義、疑似科学、進化論・退化論、観相学・骨相学、セクソロジー、変態性欲と、あらゆる思想・学問を吸収し、日本へと渡ってきた。黒岩涙香に始まり、江戸川乱歩、横溝正史を経て、綾辻行人、京極夏彦へ――怪異猟奇を孕んだ日本ミステリーの成立を解き明かす、異端の文化史。

目次
はじめに
第一章 ゴシックこそがミステリーの源流
ゴシック小説の始祖『オトラントの城』/偽書アラカルト/ゴシックの真髄はフェイク精神/恐怖の美
第二章 恐怖のふたつのタイプ
過剰なセンシビリティ/崇高美サブライムを内包する恐怖/エログロ・ホラーの元祖/サスペンスとグロスアウトの技法/社会派サスペンスの始祖/アメリカ産ゴシック・ロマンス第一号
第三章 ポーとセンセーション・ノベル
探偵小説と反探偵小説を生んだポー/ニューゲイト・ノベルの進化形/十九世紀メロドラマの影響
第四章 スピリチュアリズムとオカルト探偵
ディケンズもキャロルもトウェインも/見ることは読解すること/擬似科学の趨勢/オカルト探偵登場!/オカルト探偵跳梁跋扈/実在したオカルト探偵
第五章 ドイル、そしてフロイトへ
ホームズにウンザリしていたドイル/名探偵ホームズの〈復活〉、そして〈再生〉/世界の謎に挑む探偵たち
第六章 内なる獣人、吸血鬼、火星人
観相学・骨相学がエセでなかった時代/細菌学と犯罪学は同類!?/進化論と退化論は表裏一体だった
第七章 黒岩涙香と翻案小説
画期的だった涙香流翻案小説/探偵小説非文学説/時期尚早だった涙香渾身の短編ミステリー
第八章 ホームズとルパン、そして捕物帖
ホームズのライバルたち/悪漢ヒーロー、ルパンの系譜/和製ホームズは怪奇幻想がお好き
第九章 日本SFの始祖、押川春浪と武侠冒険小説
高橋お伝の性器標本伝説!?/〈毒婦物〉、〈復讐物〉から〈人情物〉へ/じつはSFに近い政治小説も多かった/押川春浪が生んだ武侠冒険SF小説
第十章 文豪たちの探偵小説
アンチ翻案探偵小説の純文学作家たち/日本独自の推理小説は谷崎潤一郎から/佐藤春夫そして芥川龍之介の探偵小説
第十一章 雑誌「新青年」と江戸川乱歩、そして〈変態〉
変態性欲が〈変格〉探偵小説を生んだ/性科学に救われたオスカー・ワイルド/輸入された〈変態性欲〉
第十二章 乱歩とエログロ・ナンセンスの時代
切断されオブジェ化される女体/雑誌「新青年」のモダン化と乱歩の休筆/変態心理が『陰獣』を生んだ/乱歩の虚構世界にも似た現実の事件
第十三章 探偵小説から推理小説、そしてミステリーへ
夢野久作からの探偵小説第二期黄金時代/厳しい検閲がジャンルの裾野を広げた?/みな仲良く“ミステリー”となった
第十四章 〈新本格〉の登場、時代はパラミステリーへ?
〈新本格〉ってなんだろう?/怪異猟奇短編のショーケース『眼球綺譚』/特殊設定ミステリーの世界/もはやパラミステリーと呼ぶべき?/今日の怪奇幻想ミステリー
主要参考文献
人名索引 作品名索引

書評

老後の楽しみとなる永久保存版ブックガイド

東えりか

 私が小学生のとき、と言えば半世紀も前の話になるが、教室には必ず学級文庫があった。本の裏表紙には貸出カードが付いていて、借りた人の名前を書いて、誰がどの本を読んだかが分かるようになっていた。同じ本を読んだ友だちと内容を話し合うのがとても楽しかったのをよく覚えている。学級文庫をコンプリートすることが自分の課題だった。
 その時代、本を読むことが好きな子は、みんな同じ作品を読んでいたことになる。絵本ではない物語の面白さを知ったのはこのころだが、それらが子供向けに翻案された作品だったと知ったのはかなり後になってからだ。
『巌窟王』『ロビンソン・クルーソー』『ああ無情』『小公子』『若草物語』など、あのころに読み、あらすじを覚えている作品はいくつもある。日本の小説、たとえば『路傍の石』や『次郎物語』など記憶の彼方なのに、なぜ翻訳ものはこんなにも鮮明に記憶に残っているのだろう。
『怪異猟奇ミステリー全史』を熟読してその理由の一端が見えた気がした。
 翻案されていたとはいえ、外国の小説は未知の国への憧れと同時に、どこか妖しげで後ろ暗く、秘密や背徳の香りが子供心をくすぐったのではないか。『ああ無情』のジャン・バルジャンの食事がパンと赤ワインだけだから不満だという記述に、フランスはなんて豊かな国なのかと驚いた。のちに『レ・ミゼラブル』の舞台や映画を観たときも、その気持ちはどこかに残っていたように思う。
 本書は18世紀のイギリスに登場したゴシック小説から筆を起こし、さまざまに発達を遂げたミステリーの「怪異と猟奇」に焦点を当て、その進化を時系列に沿って辿った労作である。書評家という職業を標榜しているのに、巻末に掲げられた膨大な著者名や作品名の中で聞いたことがあるのは十分の一ほどしかない。ずいぶん読んできたつもりだったが、世の中にはまだ面白い本がたくさん存在している。
 ゴシック小説の始祖と言われる『オトラントの城』もその一冊である。
 著者のホレス・ウォルポールは貴族の家系で資産家、その上秀才で「働いたら負け」の身分。ある晩見た夢からインスピレーションを受けて二か月ほどで完成させた小説が『オトラントの城』だという。
 ――イタリアの貴族、オトラント家に伝わる不気味な予言と不可解な事件。数々の怪奇現象が起こり、人々が右往左往する。やがて解明される予言の真相とは――
 そそられて検索すると、一昨年刊行の、東雅夫さん編纂の『ゴシック文学神髄』(ちくま文庫)に収録されているではないか。思わずポチる。
 イギリスで生まれたゴシック小説は、その後様々に形を変えていく。本好きの少女(私のことです)が夢中になった作品、C・ブロンテジェーン・エア』、E・ブロンテ嵐が丘』、そしてデュ・モーリアレベッカ』に通じることを知った。恋愛や性に対して初めて触れた忘れられない小説だ。だがその嚆矢ともいえるアン・ラドクリフの作品を読んだことがない。彼女の傑作で多くの作家に影響を与えたという『ユドルフォ城の怪奇』のあらすじがまた魅力的なのだが、なんと昨年9月に作品社から出版されているではないか。しかも本邦初訳。また、ポチる。
 ことほど左様に、紹介される本が悉く面白そうで「欲しい本」が膨れ上がる。
 本書の本題である「怪異猟奇」は大衆が好むスキャンダラスでグロテスクで、かつサスペンスフルだ。日本でも同時期に黄表紙が人気となり、鶴屋南北の歌舞伎狂言がエロティックで複雑な人間関係を描いているのと同期しているのは、何かわけがあるのだろうか。
 これらの小説が明治時代になって日本に輸入、翻訳され、黒岩涙香の翻案小説が一般庶民に娯楽として受け入れられ人気を博し、探偵小説の草創と現代のエンターテインメント小説の隆盛の土台になった詳しい経緯は、ミステリー研究者たちが必ず知っていなければならないことだろう。
 日本の推理小説の父ともいえる江戸川乱歩は亡くなって50年以上経つというのに人気が衰えないのは、小説がエログロサスペンスに満ちているからだ。新人ミステリー作家の登竜門が「江戸川乱歩賞」という冠を持つのもむべなるかな。読みたい本の箇所に付箋を貼ったらフサフサになってしまった本書は、老後の楽しみの一冊として永久保存版である。

(あづま・えりか 書評家)
波 2022年2月号より

著者プロフィール

風間賢二

カザマ・ケンジ

1953年東京生まれ。武蔵大学人文学部卒。早川書房を退社後、幻想文学研究家・翻訳家として活躍。1998年に『ホラー小説大全』(角川選書)で第51回日本推理作家協会賞評論部門を受賞。主な著書に、『ダンスする文学』(自由国民社)、『スティーヴン・キング論集成』(青土社)など。訳書に、スティーヴン・キング『ダークタワー』シリーズ(角川文庫)、カレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』(新潮社)などがある。

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