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寂しさの力

中森明夫/著

770円(税込)

発売日:2015/03/14

書誌情報

読み仮名 サミシサノチカラ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-610611-8
C-CODE 0210
整理番号 611
ジャンル 倫理学・道徳
定価 770円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2015/09/11

ディズニー、ジョブズ、坂本龍馬、山口百恵、酒井法子、中島みゆき……成功はさみしさから生まれる。「人間の最も強い力」を描き出した作家の新境地。

人間のもっとも強い力は「さみしさ」だ。スティーブ・ジョブズ、ウォルト・ディズニー、坂本龍馬、山口百恵や酒井法子……世界を変える偉人やスターは、みんな猛烈なさみしさの持ち主だった。彼らは精神的「飢え」をいかにして生きる力に変えていったのか。自身の喪失体験をもさらけ出して人生の原動力を示した筆者の新境地。さみしくても大丈夫、ではない。さみしいから、大丈夫! なのだ。

目次
まえがき
序章 人はなぜ泣きながら生まれるのか?
一番最初の光景/まさか自分が「さみしい」なんて/孤独とさみしさは違う/誰も「さみしい」とは言わない/俺は、さみしい!
第一章 悲しさは一瞬、さみしさは永遠
さみしさの原因/幼少期の瀕死体験/選挙に狂奔する父/上京して家出少年になる/爆発的な読書体験/万引少年団/家庭裁判所へ/父の死/篠山紀信夫妻と食事/箸の持ち方の師匠/父との再会/死とは「いない」こと/「悲しさ」と「さみしさ」/父の“形見”
第二章 さみしさの偉人たち
龍馬人気の不思議/龍馬の孤独/一度は忘れ去られた/三度の復活/龍馬はなぜよみがえったか?/ディズニーランドを作った男/ウォルト・ディズニーの子供時代/“創造の狂気”/さみしい子供の楽園/「誕生と破局」/小林秀雄のヒトラー論/二十歳の浮浪者/三島由紀夫のヒトラー劇/さみしさの独裁者/大正時代のスーパースター/こんな男がいたのか!/大杉栄に会いたい/涙を隠さない男/スティーブ・ジョブズの死/捨てられた子供/クレージーな人たち
第三章 芸能界は、さみしさの王国
芸能人とは何か?/欠点が魅力/精神的な飢え/異様に明るい少女/酒井法子とは何者か?/のりピーの“秘密”/相澤会長の涙/存在そのものが悲しい/“死の影”/何のために命を懸けるか?/美空ひばりと山口百恵/ユーミンの“孤独”/それでも、あなたは歌いますか?/中島みゆきからの返答
第四章 さみしさの哲学
モンテーニュの孤独観/中二病・ルソー/沖仲仕の哲学者・ホッファー/祖国を追われたツヴァイク
終章 自分が死ぬということ
あの瞬間、思い浮かべた顔/母の手を握る/さみしさの彼方に

インタビュー/対談/エッセイ

運命の一冊

中森明夫

 運命ってあるんだな、とこの歳になって痛感した。きっかけは田舎の母からの電話だ。老いた母は「さみしい、さみしい」と泣き出した。その後、私はツイッターで〈人間のもっとも強い力は何だろう? さみしさの力じゃないか〉と発信した。未知の方からリプライがある。〈さみしさの本を書いてください〉。新潮社の常務取締役・石井昻さんだった。2011年6月4日の夜のこと。
 さみしさについての本を書こう。親不孝な私が一生に一度、母のために本を書く。母の人生を、さみしさを肯定するために。苦しい作業だ。尋常小学校出の母が読める文章でなければならない。書いては直しの繰り返し。時間ばかりが過ぎる。
 私が出逢った芸能人について書いた。上戸彩、松任谷由実、中島みゆき、パク・ヨンハ、彼らの根底には「さみしさ」がある。とりわけ、酒井法子だ。86年秋、デビュー前ののりピー・・・と私は対談した。彼女が逮捕された2009年、所属事務所の会長を取材して、彼の涙も見ている(「新潮45」4月号で私は28年ぶりに酒井法子と対話した)。
 スティーブ・ジョブズは捨てられた子供だった。ウォルト・ディズニーは親にひどい虐待を受けた。坂本龍馬は誰にも理解されず孤独な生涯を終えた。世界を変える偉人はみんな猛烈な「さみしさ」の持ち主だ。数多くの人物評伝を読んだ私は、それに気づいた。芸能人も歴史上の偉人も、さみしい人こそが成功する。彼らが精神的な「飢え」を、いかにパワーに換えたかを考え抜いて、書いた。
 執筆から1年を経て、母が病に倒れた。元気な母だったのに。私は病院に駆けつけ、母の手を握り、その耳元で書きかけの原稿を読んだ。翌々日、母は息を引き取った。82歳だった。未完成の生原稿は棺に入れて母と一緒に焼いてもらった。
 なんということだろう。私の本は間に合わなかった。一生に一度、母ちゃんのために書こうとした本なのに。これが運命か。もし神様がいるなら、なんて残酷なことをするんだ、と呪った。私は執筆意欲を失った。結局、原稿を完成させたのは、それから2年後のこと――。旅先の盛岡駅の待合所で、ノートに書いた。迷った末に最終章で亡くなった母のことを。書き終えた瞬間、涙があふれて止まらなくなった。母との本当のお別れだった。
 今にして思う。それこそ、この私がもっとも“さみしさの力”を発揮した瞬間だったのだ! 亡くなって、やっと自分にとって一番大切な人が母だったのだと気付いた。我ながら馬鹿息子だ。大切な人を失った“さみしさの力”によって本書は書き上げられた。私が母に捧げたこの本を、母は受け取らなかった。その反対に、すごいパワーを私にくれた。“さみしさの力”を。自らの命と引き換えに。もう自分はこれ以上の文章を書けないかもしれない――本書の最終章を読み直して、そう思う。この力が通じないはずがない。母から最期にもらったすごいパワーだ。ぜひ、本書を手に取ってほしい。55年、生きてきた自分が人生を賭けた本――運命の1冊だ、と思っている。

(なかもり・あきお 作家・アイドル評論家)
波 2015年4月号より

著者プロフィール

中森明夫

ナカモリ・アキオ

作家/アイドル評論家。三重県生まれ。1980年代から多彩なメディアで活動する。著書に『アイドルにっぽん』『東京トンガリキッズ』『午前32時の能年玲奈』、共著に『AKB48白熱論争』等。小説『アナーキー・イン・ザ・JP』が三島由紀夫賞候補となる。

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