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スマホ脳

アンデシュ・ハンセン/著 、久山葉子/訳

1,078円(税込)

発売日:2020/11/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

世界的ベストセラー上陸! スティーブ・ジョブズはわが子になぜiPadを触らせなかったのか? 最新研究が示す恐るべき真実。

平均で一日四時間、若者の二割は七時間も使うスマホ。だがスティーブ・ジョブズを筆頭に、IT業界のトップはわが子にデジタル・デバイスを与えないという。なぜか? 睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存――最新研究が明らかにするのはスマホの便利さに溺れているうちにあなたの脳が確実に蝕まれていく現実だ。教育大国スウェーデンを震撼させ、社会現象となった世界的ベストセラーがついに日本上陸。

目次
まえがき
コロナに寄せて――新しいまえがき
第1章 人類はスマホなしで歴史を作ってきた
人類が現代に適応できない理由/人間は現代社会に適応するようには進化していない/感情があるのは生存のための戦略/決断を下すとき、私たちを支配するのは感情/ネガティブな感情が最優先
第2章 ストレス、恐怖、うつには役目がある
ストレスのシステムが作られた過程/扁桃体――人体の火災報知器/すぐに作動する扁桃体/不安――起きるかもしれないという脅威/不合理な不安さえも合理的/うつは天然の防護服か?/長期にわたるストレスの代償/うつ症状――感染への防御?/感情を言葉で表せることが大事/警告フラグ/必ずしも「いちばん強いものが生き残る」わけではない
第3章 スマホは私たちの最新のドラッグである
ドーパミンの役割/脳は常に新しいもの好き/「かもしれない」が大好きな脳/「もしかしたら」がスマホを欲させる/報酬中枢を煽るSNS/シリコンバレーは罪悪感でいっぱい/IT企業トップは子供にスマホを与えない/デジタルのメリーゴーラウンドにぐるぐる回されてしまうのは簡単だ
第4章 集中力こそ現代社会の貴重品
マルチタスクの代償/脳は働きが悪いときほど自分をほめる/かぎりある作業記憶/サイレントモードでもスマホは私たちの邪魔をする/リンクがあるだけで気が散る/私たちはさらに気が散るように訓練を重ねる/手書きメモはPCに勝る/長期記憶を作るには集中が必要/脳は近道が大好き/グーグル効果――情報が記憶に入らない/周囲への無関心
第5章 スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響
過小評価されている睡眠/私たちはなぜ眠るのか/ストレス――それにスクリーン――が眠りを妨げる/ブルーライトの闇/電子書籍vs「普通の」本/感じやすさは人それぞれ
第6章 SNS――現代最強の「インフルエンサー」
人間の脳は悪い噂が大好き/ゆりかごから墓場までの社交性/人生の数年がフェイスブックに吸い取られる/私たちは自分のことを話したい/SNSを使うほど孤独に/社会的地位は精神の健康のために重要/デジタルな嫉妬/フェイスブックが人生の満足度を下げる/SNSは様々な方向から私たちに影響を与える/SNSが女子に自信を失わせる/他人は自己を映す鏡/では、SNSが私たちの共感力を殺すのか?/あなたの注目を支配しているのは誰?/デジタル軍拡競争/どんな商品が欲しいのか、決めるのは私たち/「自分たちvsあいつら」の血塗られた歴史/フェイクニュースが広まるメカニズム/そろそろデジタル・デトックスを
第7章 バカになっていく子供たち
子供のスマホ依存/アルコールは禁止するのに/幼児には向かないタブレット学習/報酬を我慢できなくなる/学校でのスマホ――敵か味方か?/スマホ追放で成績アップ/若者はどんどん眠れなくなっている/若者の精神不調が急増している/長期調査の結果も同じ/インターネットを携帯できるようになった時代/精神状態vs依存/スクリーンタイムの概念
第8章 運動というスマートな対抗策
情報のTsunami/少しの運動でも効果的/では、なぜ集中力が増すのか/子供でも大人でも、運動がストレスを予防する/ストレスに対する心のエアバッグ/ますます運動量が減っている/すべての運動に効果がある
第9章 脳はスマホに適応するのか?
私たちのIQは下がっている/タクシー運転手の脳が変化した理由/「鉄道酔い」と「デジタル酔い」の決定的違い/研究が追いつかない!/私たちは何を失いかけているのか/人間はまだ進化するのか/心の不調を軽くみてはならない/人間は幸せな生き物ではない/テクノロジーで退化しないために
第10章 おわりに
デジタル時代のアドバイス
コラム 適度なストレスにさらされよう/人前で喋る恐怖/不安は人間特有のもの/どんな人がスマホ依存症になるのか/マルチタスクによって間違った場所に入る記憶/スマホでうつになる?/スクリーンは食欲にまで影響する?/一生のうちに何人と知り合えるのか/手薄になる自己検閲/何にいちばん嫉妬する?/なぜ前頭葉は最後に成熟するのか/私たちはひどい体型!
謝辞
人生のバイブルに――訳者あとがき

書誌情報

読み仮名 スマホノウ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-610882-2
C-CODE 0247
整理番号 882
ジャンル 心理学、IT、暮らし・健康・料理
定価 1,078円
電子書籍 価格 1,078円
電子書籍 配信開始日 2020/11/18

書評

「やっぱり」と「なんだ、なんだ」

池上彰

「東大生って、歩きスマホをしないんですね」
 東京大学駒場キャンパスでテレビ局のプロデューサーと待ち合わせたときのこと。私の到着を待っている間、キャンパス内を行き交う東大生の様子を観察した結果、歩きスマホをしている学生がいないことに気づいたという。彼が住む家の近くにある私大では、誰もが歩きスマホをしているのを見ていたので、新鮮な驚きだったという。
 言われてみて、私が教えている東工大のキャンパスで観察したところ、街中を歩いている若者に比べて、歩きスマホをしている学生が極端に少ないことに気づいた。
 もちろん東工大生もスマホは使っているのだが、一日中スマホとにらめっこをしているのではなく、メリハリをつけて使っていることに気づいた。
 学力とスマホの使用頻度には負の相関関係があるのだろうか……と漠然と思っていたところに、『スマホ脳』に出合った。
 この本が売れているという。書店の店頭ではベストセラーの棚に並んでいる。子どもがスマホ中毒になっている様子を見ている親が手に取ったのか。あるいはスマホを手放せない自分に嫌気がさした大人が買っているのか。気になっていたのだが、今回じっくり読んでみて、人気の秘密がわかった。
 本のメッセージは明確だ。「今あなたが手にしている本は人間の脳はデジタル社会に適応していないという内容だ」と本人が冒頭で明らかにしている。
 著者のアンデシュ・ハンセン氏はスウェーデンの精神科医。人間の進化の過程は、飢えや死の恐怖からどのように逃げ出すことができるのか、という点が一義的なものであった。そんな人間の精神はデジタル社会に十分対応できるものではないと著者は強調する。
 その結果、ストレスを溜める人たち、眠れなくて困る人たち、鬱状態に陥る人たちの多いこと。いずれもスマホが引き起こしているというのだ。
 スマホを身近に置いておくと、着信音がするたびに気になって画面を覗く。仕事をしていても、ついスマホを手に取る。結局、長時間机に向かっていても、仕事がちっともはかどらない。
 SNSで発信すると、「いいね」がどれだけつくか気になって仕方がない。相手に送ったメールが既読スルーされると、不愉快な気持ちになる。
 私の場合、出版社の編集者からのメールにすぐに反応しないと、「メールは届いているでしょうか?」という、パソコンの安否を尋ねるかのような文体の催促のメールがやって来る。みんな、どうしてこんなに我慢ができなくなったのか。そうした理由も解き明かしてくれる。
 スマホのアプリは、脳に快楽物質を放出する「報酬系」の仕組みを利用して開発されているとは。ITの世界では、技術者ばかりでなく脳科学者や心理学者も求められているというわけだ。
 やっぱり、と納得するのは評者がスマホをあまり使っていないからか。大学の教室でガラケーを取り出した私を見た学生たちから「先生はスマホを使っていないんですか?」と言われて屈辱感を味わってしまった身としては、「バカになっていく子供たち」という章のタイトルを見ただけで拍手を送りたくなる。
 それなのに文部科学省はデジタル教科書を普及させ、タブレットでの授業を拡充させるという。その人たちには、本書のこの部分を読ませたい。
「普通に遊ぶ代わりにタブレット端末やスマホを長時間使っている子供は、のちのち算数や理論科目を学ぶために必要な運動技能を習得できない」
 アップル創業者の故スティーブ・ジョブズはわが子について、「iPadはそばに置くことすらしない」と新聞記者のインタビューに応じて言い放ったことがある。
 なんだ、なんだ、自分の子どもには使わせない商品を売っているのか、と驚いてしまうが、それだけスマホの使用の危うさを知っているからこそなのだろう。
 念のために付け加えれば、評者はふだん通話用にガラケーを使っているが、パソコンに送られてきたメールのチェックや最新ニュースの確認にはスマホを使っている。と言っても自慢にはならないが。
 スマホを傍らに置くだけで学習効果、記憶力、集中力は低下するという著者の指摘には驚く。スマホ断ちの時間は絶対に必要だ。

(いけがみ・あきら 東京工業大学特命教授・ジャーナリスト)
波 2021年3月号より

薀蓄倉庫

数字で見るスマホ

 本書の著者、アンデシュ・ハンセン氏によると、現代人は1日平均4時間、最低でも10分に1回はスマホに触れており、タッチする総計は1日2600回以上に上るそう。これが10代の若者となると、その2割は1日7時間もスマホを使っていることになるのだとか。英国の調査では、子供とティーンエイジャーで毎日平均6時間半、スマホやテレビなどスクリーンに接しており、米国のティーンエイジャーは毎日平均9時間、インターネットに接続しているのだそう。その結果、これは20代の若者の調査ですが、彼らが80歳まで生きるとして、そのうち何年をSNSに使っているかというと、実に5年に及ぶそうです――。
 デジタル・デバイスがいかに我々や子供たちの生活に深く食い込んでいるか、考えさせられる数字ではないでしょうか。

掲載:2020年11月25日

担当編集者のひとこと

教育大国スウェーデンを騒然とさせた本

 スマホがうすうす、「なにか自分に影響を与えているのではないか」と思っている人は多いのではないでしょうか。スマホ中毒になる人がいるとか、ブルーライトが睡眠に影響を与えているとか、IT界のセレブたちは子どもにスマホやタブレットを与えていないとか、そんな話題に触れるたびに「ありそうなことだな」と思いながらも、きちんと確かめはせずにいる……それは私のことだったのですが。
 11月に刊行されたアンデシュ・ハンセン著/久山葉子訳『スマホ脳』はそんなうっすらとした不安に正面から答える一冊です。
 著者のハンセン氏は脳科学の分野で世界的ベストセラーの著書がある精神科医です。彼は「スマホの悪影響」と言ったところで、自分はそんなに使っているわけではないし……と思っていたのだそうですが、自分のスマホにスクリーンタイムを計測するアプリを入れて実際に測って見たところ、愕然としたそうです。1日3時間も使っている!
 調べてみると、スマホの人間への影響に関する論文は世界中に膨大にあり、それらを彼が精査してゆくと、やはり無視できぬ影響があることがわかったわけです。
 詳しくは本書を読んでいただくとして、同書はハンセン氏の母国、スウェーデンで刊行されると瞬く間にベストセラーとなり、中でも、反響が多きかったのは教育界だったそうです。スウェーデン在住の訳者によると、ハンセン氏の講演のURLが貼り付けられた一斉メールが学校から保護者に送られたり、彼の提唱したメソッドを取り入れた学校も多いのだとか。実際、ハンセン氏はテレビ、ラジオの出演はもちろん、学校現場からの講演に引っぱりだことなったそうです。
 スウェーデンの11歳の児童がスマホを持っている割合は98%。
 日本だってそう遠い数字ではないでしょう。
 今やライフラインと言ってもよいスマホと、自分だけでなくわが子も、どう付き合っていくべきか話し合うきっかけになる一冊になればと願っています。

2020/11/25

著者プロフィール

1974年生まれ。精神科医。スウェーデン・ストックホルム出身。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得後、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『ストレス脳』『運動脳』が世界的ベストセラーに。科学ナビゲーターとしても各メディアで活躍中。

久山葉子

クヤマ・ヨウコ

1975年兵庫県生まれ。翻訳家。エッセイスト。神戸女学院大学文学部卒。スウェーデン大使館商務部勤務を経てスウェーデン在住。訳書に『スマホ脳』『ストレス脳』など多数。

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