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新版 メディアとテロリズム

福田充/著

924円(税込)

発売日:2023/09/19

  • 新書
  • 電子書籍あり

マスコミとテロリストは「共犯者」ではないか。話題の論考に、安倍元首相、岸田首相襲撃事件の分析も加えた決定版。

テロリストはネットやTVなどのメディアで存在をアピールし、主義主張を宣伝する。メディアはそれを報じ、PVや視聴率、部数を稼ぐ。これはもはや“共生”どころか“共犯”関係である。あさま山荘事件、アメリカ大使館人質事件、地下鉄サリン事件から直近の安倍晋三元首相、岸田文雄首相襲撃事件までテロの歴史を俯瞰し、“負のスパイラル”を脱する道を探る。大きな話題を呼んだ原著に大幅な加筆をした決定版。

目次
序章 安倍元首相銃撃事件がもたらしたテロリズム新時代
要人暗殺テロの復活~安倍元首相銃撃事件/繰り返された要人暗殺テロ未遂~岸田首相襲撃事件/漁師たちの本心/これらの事件はテロリズムか?/ローン・オフェンダーの時代/テロリズムとメディアの問題
第一章 「撃つなアブドゥル! まだゴールデンタイムじゃない!」
インディアン・ムジャヒディンの犯行声明/予告通りに発生したムンバイ同時多発テロ事件/歴史学者J・ボウヤー・ベルのアイロニー/「テロの時代」はまだ続いている
第二章 北京オリンピックは「テロの舞台」だった
雲南省バス爆破テロ事件~オリンピックもテロの標的となった/TIP声明文「中国への戦争を宣言する」/映画『ミュンヘン』/民族解放運動~世界的イベントを狙うテロリズムの共通点/チベット独立運動はテロリズムか?/聖火ランナー妨害というPR作戦/日本も他人ごとではない
第三章 テロリズム時代の到来――9・11テロ事件とオウム
9・11テロ事件七周年とアメリカ大統領選/全世界にテレビ中継された9・11テロ/グローバル・メディアが支えるグローバル・テロリズム/地下鉄サリン事件の衝撃/メディアの「キラー・コンテンツ」となったテロリズム/メディアを利用したオウム、オウムを利用したメディア/人はなぜテロにひきつけられるのか?/メディアイベントと化した現代のテロリズム/テロリストの目標
第四章 政治的コミュニケーションとしてのテロ――一九七〇年代以前
赤穂浪士はテロリストか?/要人暗殺テロ/政治的闘争という大義名分を持つテロリズム/要求型テロとしてのハイジャック事件/ダッカ事件~一般市民一五六人対テロリスト九人/TWA847便ハイジャック事件~米国メディア総動員/メディア報道が作り出すテロリズムのメディア・フレーム/イランのアメリカ大使館人質事件~典型的な要求型テロリズム
第五章 恐怖と不安を充満させるテロリズム――一九八〇年代
フランス革命~「Terror=恐怖」による社会不安/グリコ・森永事件~メディアを利用した社会不安型テロと劇場型犯罪/連続企業爆破テロ事件~世界に先駆けた日本の現代的社会不安型テロリズム/ユナボマーの連続爆弾テロ~自分の論文をメディアに掲載させたテロリスト/赤報隊事件、米炭疽菌事件~テロリズムの標的ともなったメディア
第六章 テロとメディアの共生関係――一九九〇年代
オウム真理教地下鉄サリン事件~ワイドショー化したテロリズム/あさま山荘事件のテレビ中継~テロリズムというメディアイベントの誕生/在ペルー日本大使公邸人質事件~テロリストに積極的に接触した日本メディア/共同通信の突撃取材からテレビ朝日バッシングへ/テロリズムとメディアの共生関係=共犯関係?/メディアの側にある諸問題~センセーショナリズムやメディアスクラム/再びテロ報道管制論の是非
第七章 政府・企業による監視社会へ――二〇〇〇年代
イラク日本人人質事件で盛り上がった人質バッシング/メディア・フレームによって異なる解釈~治安問題か民族運動か?/消費の論理からテロのリスク化へ/リスク消費社会の誕生~リスクを売り物にする企業と広告代理店/監視カメラ、バイオメトリクス、ユビキタス~監視社会へ突き進む世界/「自由・人権」vs「安全・安心」という社会的葛藤
第八章 テロリズムに対してメディアはどうあるべきか
政府とメディアの関係はどうあるべきか/イギリスのBBCにおける対テロリズム・ガイドライン/イギリスにおけるDAノーティス制度~会議による協調・討議型モデル/9・11テロ事件におけるアメリカ政府のメディア対応/アメリカにおける政府とメディアの関係~法規制による対立・克服型モデル/ペンタゴン・ペーパー事件~アメリカのメディアの勝利/日本におけるテロリズムとメディアの現状/日本への提言~メディアはテロリズムに対してどうあるべきか?
終章 根本療法が求められるテロ対策
あとがき
新版のためのあとがき
参考文献
新版のための追加参考文献

書誌情報

読み仮名 シンパンメディアトテロリズム
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-611013-9
C-CODE 0220
整理番号 1013
ジャンル 社会学、思想・社会
定価 924円
電子書籍 価格 924円
電子書籍 配信開始日 2023/09/19

蘊蓄倉庫

赤穂浪士によるテロ

 日本の長い歴史の中で、最も有名なテロリズムは何か。『新版 メディアとテロリズム』で著者は、忠臣蔵で有名な「元禄赤穂事件」を挙げています。赤穂浪士の立場に立てば、正義の行動でしょうが、当時の政府から見れば間違いなく暗殺テロなわけです。しかしこれを当時の民衆、あるいはメディアはコンテンツとして消費しました。その結果、いまなお語り継がれる物語になっています。「日本には、赤穂浪士の行動は義挙であり、テロリズムとはみなされない歴史的文化がある。この文化が日本におけるテロリズム対策を難しくしているという側面もある」と著者は指摘しています。

掲載:2023年9月25日

担当編集者のひとこと

テロリストについてどこまで伝えるべきなのか

 安倍晋三元首相の銃殺事件後、容疑者の動機その他についてかなりの情報が報道で伝えられました。SNSによる拡散も多く見られました。
 難しいのはどこまで詳しく伝えるべきなのか、という点です。
 仮に容疑者による詳細な犯行声明文があったとして、それを全部紹介するのはいいことなのか。その狙いが、主張を広めることだとすれば、結果としてテロリストの思うツボではないか。そんな成功例があれば、次のテロリストも主義主張を広めるために、誰かを殺そうと考えるのではないか。これはリスクを考える側の懸念でしょう。
 いや、報道の自由、言論の自由を優先すべきだろう。独裁国家では、仮に反政府運動が行われても、「なかったこと」にされるし、その狙いが報じられることもない。そんな状況を許していいはずがない。起きたことをきちんと伝えるのは大原則のはずだ。これは報じる側の論理です。
 ただ、こうした原則や建前とは別に、メディアの側には損得勘定もあります。身も蓋もない言い方をすれば、テロの話題は「数字を稼げる」ネタだという面があるのです。テロリストもそんな事情を承知しているので、メディア受けするテロを実行するわけです。
 このような関係を本書の著者は「共生」関係あるいは「共犯」関係だと指摘します。
 
 この負の連鎖をどのように止めるべきか。止めることができるのか。あさま山荘事件、アメリカ大使館人質事件、地下鉄サリン事件から直近の安倍晋三元首相、岸田文雄首相襲撃事件までテロの歴史を俯瞰し、“負のスパイラル”を脱する道を探った論考です。

2023/09/25

著者プロフィール

福田充

フクダ・ミツル

1969(昭和44)年兵庫県西宮市生まれ。日本大学危機管理学部教授、同大学院危機管理学研究科教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。著書に『政治と暴力』『テロとインテリジェンス』『リスクコミュニケーション』など。

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