新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

キッチンといえば、お腹を空かせた小学生の私を思い出します。学校の帰り、1人で鍵を開けて家に入る。空腹で夕飯まで持ちそうにもないし、両親は仕事。オムライスがどうしても食べたくなって、卵を焼いた。ケチャップライスの作り方が分からなくて、ボールに入れたご飯にケチャップをぶちまけて混ぜました。ご飯茶碗を型にして焼いた卵をかけて食べたの、美味しかったな。

みきのぴ

父の本棚にあった本でした。読むことに急速にのめり込んでいた10歳~16歳のあの頃、進路に迷い始めていたあの頃。自分とは状況も境遇もまるで違う「みかげ」が台所で寝起きし、あの親子と共に過ごす夏までを強烈に我が身に起きたことのように感じました。カツ丼を届けるところまでもう一気読みですが、何度も何度も繰り返し読むのはみかげが夏、独学で料理を学ぶ辺りです。あの夏はいい夏だった、今も心に残っています。

はくまい

ボロボロの福武文庫を大切に持ってます。今年愛猫を看取ったのですが、闘病中に何度もキッチンの言葉が頭に浮かんできました。誰かを自分の手で看取った人間のみが実感できるあの言葉たちが、私を救ってくれました。毎日どんどん痩せていく猫を傍らにあの文章はこういう情景なのかとか、私は何にもわかってなかったなとか、まるで世界に猫と私とばななさんの言葉だけがあるかのような夜を何日も過ごしました。
30年かけてやっとこの作品が身をもって理解できる年齢になったのだなあという感慨にふける日々でした。
雄一くんみたいな子になると嬉しいなと密かに目標にしながら育てていた一人息子も今春社会人として旅立ち、猫の具合が心配で何度も帰ってきてくれていました。
そして見送った後の強烈な喪失感を、ムーンライト・シャドウが癒してくれるのです。本当に本当によくできた一冊だ。これからも大切にします。ありがとうございました。

ちょり

私が「キッチン」と出会ったのは高校生の頃でした。なんだかさみしい、けれどあたたかい。そんな世界の中に自分も入り込み癒されていました。みかげが雄一にカツ丼を届けるシーンがとても好きで、つらいことがあるといつもこのシーンを思い出し前向きな気持ちになることができました。大切な大切な一冊です。

うり。

わたしに力なんてないと思っていたあの頃、このお話が美しいと、そして、大好きだと感じられたことが、深いところでわたしを支えてくれました。ばななさん、書いてくださってありがとうございます。

あきこ

家の中がごたごたしていた時、『キッチン』に出会いました。みかげちゃんの優しさ、雄一の繊細さ。エリ子さんの輝き。辛かった心に温かな毛布を掛けてもらった気持ちになりました。あれから何度も読み返し、やっぱり彼らは私の一部であり、登場人物全てが私の宝物です。うんと磨かれた使い込まれたシンクのように、其処にある幸せを大切にしたい作品です。

みほ

確かあれは中学生の頃、一つ下の弟が「面白かったよ」と言って手渡してくれたのが『キッチン』でした。
あのあまりにも有名な最初の一行を読んだときの衝撃。この小説の雰囲気や匂いみたいなものが詰め込まれていて、たった一行で全てを語る著者のセンスに驚き、一気に読みました。あんなに楽しく、ドキドキした読書体験は初めてでした。思春期の葛藤が全て代弁されていました。今の葛藤もです。
本当に、何度読んだかわかりません。どれだけ救われたかわかりません。もしかすると、今この世にさえいなかったかもしれません。私にとって『キッチン』に出会えたことは、大きすぎる幸運でした。今も毎日葛藤しながら、とても幸せです。30周年おめでとうございます。

yoco

おそらく初めて
本、小説というものを
ちゃんと認識し、意識し、
文章が自分の一部になった本です。
シンプルに好き
複雑に身から切り離せない。
何度も、何度でも読んで
その度に自分の成長が、停滞が分かる
指針です。

にゃんまげ

私がこの世で一番濃く深く寄り添った本は、『キッチン』だ。だと思う、じゃなくて少なくとも今の所、断言できる。高校で卒業論文を執筆する際、多くの生徒は社会問題を題材にしていた。それを横目で見ながら私は、小説を扱おうと決めていた。最初は他の作家の他の作品を分析しようとしていた。でもどうもしっくりこなくて、何をしたいのかもわからなくなって、いよいよ明日には自分のテーマを書いたプリントを提出しなくてはならない、そうなったとき、ぽーんと『キッチン』が思い浮かんだ。『キッチン』が降ってきたのは小さな運命だったのだと、『「違うこと」をしないこと」を読み終えた今、思う。Twitterを下から上へと送っていてふと、この企画に気がついたのもまた、小さな運命だったのだ、とも。

はる

30年経ったのですね。吉本ばななさんが描く世界にそう年が違わない高校生の私はどんな人なんだろう?どんな事考えてる人なんだろうと、心をとても揺さぶられたことを今も覚えています。30年後の私が私のキッチンで『キッチン』を読んでみたくなりました。
折に触れ吉本ばななさんの小説には励まされてきました。
これからもお元気に作品を生み出されることを楽しみにしております。

青梅

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