新潮社

吉本ばなな『キッチン』刊行30周年 『キッチン』と私 思い出・エピソード大募集

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──

あなたと『キッチン』をめぐる物語をお寄せください。
吉本ばななは、皮膚やかたちではなく、
はじめから人のこころを見ているような気がする。
糸井重里
あんなに澄んだ小説は、あとにも先にも出会ったことがない。
出てくる人みんな、一生懸命生きていて、こちらまで照らされる。
綿矢りさ
ただ生きている。
それだけの事を、こんなにも褒めてくれるのは、
この物語だけだと思う。
木村文乃

初めて読んだ頃、私はまだひとの死を知らなかった。ただ美しい言葉に胸を打たれた。親友をなくした今、夜中の台所で「私と台所が残る。自分しかいないと思っているよりは、ほんの少しましな思想だと思う。」という言葉を思い出す。同じ言葉たちが、美しさだけでなくリアルな切なさを持ってわたしを救ってくれた。

才子

『キッチン』と出会ってから、今では私の精神安定剤のようになっています。読んでいるとトゲトゲした心が、みかげの涙と一緒に流されていくようで、すぅーっと落ち着いてきます。いざという時や、心細い時に読んで心を落ち着かせるために、バッグに入れています。ハードカバーは流石に傷んできたので、今は文庫本を持ち歩いています。

ともみぃ

「私の言葉はどこまであなたの孤独に届くだろうー。」10年前古本屋で見つけたこの本はこんな帯紙が巻いてあった。19だった私はみかげのように足を進めることを、生きていくことを心底投げ出したかった。人生に負けまくって一歩も前向きになれない私の絶望に確かにこの本の言葉は届いた。何度も言葉に線を引いてページを折って読み返して、そうしても挫折も悲しみもなくならないけど確かに私の奈落のような孤独に寄り添ってくれたのはこの一冊の本だけだった。

生活感のあるキッチン

私がキッチンを初めて手に取ったのは20歳を超えてからだったと思います。読んでいるうちに中学生のころを思い出しました。当時の私は多感な時期ということもあり、色々と荒んでいたのですが、気分転換に母の夕食作りを手伝いはじめ、ゆっくりと、しかし確実に穏やかな気持ちになっていったのをよく憶えています。背の低かった当時は色々なものが高い位置にあり、奥まった所に置いてあるお玉や菜ばしを取るのに苦労していました。今では背伸びをすることも、腕を伸ばすこともなくなり、随分と遠い場所へ来たのだなと感傷に浸っています。

あまやま

孤独な人生だけど、ただただ生きていこうと思わせてもらえた。いつか素敵なキッチンのある家に住みたくさん料理を作ろうとゆう夢がひとつできた。

あや

台所と、月のように美しい孤独。
それから、夜を歩いていく方法。
『キッチン』という小説は、私にとってそういう居場所だったのです。

はかり

キッチンは私に取ってお守りのような、切迫しているときは酸素ボンベのような存在です。苦しくても1ページ目を開けば息ができるようになる。そうやってずっと生き延びてきた感じがします。
人はやはり一人です。家族がいても、恋人がいても一人です。それでいいと思う。
でもその一人に『キッチン』は優しく寄り添ってくれる。
今は私もそんな仕事ができるようになりたい。受け取ったきれいなものをまた誰かに渡したい。それが、恩返しのような気がします。

透子

善意なのか悪意なのかは置いておいて、自分の線を浸食してくる他人に悩まされていた頃に私と「キッチン」は出会いました。
その頃好きだったのは、誰もいない深夜の実家のキッチンでお菓子を作ることでした。完全な独りじゃないけど一人の時間という心地よさが良かったのだと思います。
誰と接していても自由になんてふるまえず、誰かに接すれば自分がどこか間違っているような気がして、誰かに知ってほしい気もするけどすべてを知られるのは怖かったようなあの頃。他者は恐怖だったあの頃。小説という形で、直のふれあいでないからこそ、ただ純粋に寄り添ってくれて、一方的にエネルギーだけをくれたこと、感謝しかないです。ありがとうございました。これからも体を大事にして、なるべく長く作品をこの世に残して頂けるとうれしいです。(勝手なお願いですみません。)

すんすん

中学生のとき、夏休み課題で読書感想文があった。国語の教科書で吉本ばななさんを知った私は、安直に『キッチン』を選んだ。一日で書き終えた課題は、各クラス一人選ばれる表彰を貰った。
何を書いたかも、今はもう思い出せないが、あのときいじめられて独りぼっちだった私に光をくれたのは確かに『キッチン』だった。淡くて優しい光は今でも私を照らしている。

もものたね

何度も何度もページをめくり、紙と紙の間に隙間ができて、角が丸くなって、表紙が薄くなって…
はじめて読んだ中学生のときから、「キッチン」は私の常備薬で、大切なお守りです。
これからも気持ちの行き場に迷ったとき何度も助けられると思います。吉本ばななさんに、この物語に、主人公たちに、出会えてよかったです。

すず

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