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いま注目の本! 原民喜『夏の花・心願の国』、井伏鱒二『黒い雨』、井上ひさし『父と暮せば』、遠藤周作『女の一生 二部・サチ子の場合』




1945年8月6日の広島、8月9日の長崎に、原子爆弾が落とされました。二発の原爆で、その年の暮れまでに広島では約十四万人、長崎では約七万四千人が亡くなったといわれています。この筆舌に尽くしがたい悲惨な出来事を、それでも作家たちは文章で書こうとしました。
「この眼で視た生々しい光景こそは死んでも描きとめておきたかった」というのは、広島で被爆した原民喜。『夏の花・心願の国』には、原爆投下前後の広島の様子が、美しい文章で描かれています。
井伏鱒二の『黒い雨』は、投下直後に降った黒い雨を浴びた矢須子と、彼女の叔父の物語。原爆症に苦しむ二人からは、長期にわたって人々を苦しめる核兵器の残酷さが伝わってきます。
生き残ってしまった人間の罪悪感を描いたのが、井上ひさしの『父と暮せば』。父は、恋をしている娘を応援しようとしますが……。
長崎での原爆投下についての運命的なシーンがあるのが、遠藤周作の『女の一生 二部・サチ子の場合』。なぜあのとき、という思いを抱かずにはいられない物語です。戦後八十年を迎えるこの夏、みなさんに手に取っていただきたい四冊です。
著者紹介
原民喜ハラ・タミキ
(1905-1951)広島市生れ。慶応義塾大学英文科卒。中学の頃より詩作を、大学予科の頃より短編小説の創作をはじめ、1935(昭和10)年、作品集『焔』を自費出版する。疎開先の広島で原爆被災。以後、被爆後の広島の凄惨な状況に向き合いつつ数々の佳品を発表。1947年に刊行した『夏の花』は多くの読者に深い感銘を与え、水上滝太郎賞に輝いた。1951年、『心願の国』を遺し、自殺した。
井伏鱒二イブセ・マスジ
(1898-1993)広島県生れ。本名、満寿二。中学時代は画家を志したが、長兄のすすめで志望を文学に変え、1917(大正6)年早大予科に進む。1929(昭和4)年「山椒魚」等で文壇に登場。1938年「ジョン万次郎漂流記」で直木賞を、1950年「本日休診」他により読売文学賞を、1966年には「黒い雨」で野間文芸賞を受けるなど、受賞多数。1966年、文化勲章受賞。
井上ひさしイノウエ・ヒサシ
(1934-2010)山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『腹鼓記』、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、2009年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った。
遠藤周作エンドウ・シュウサク
(1923-1996)東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30)年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。主な作品は『海と毒薬』『沈黙』『イエスの生涯』『侍』『スキャンダル』等。1995(平成7)年、文化勲章受章。