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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


橋ものがたり』『蝉しぐれ』『たそがれ清兵衛』......。誰もが耳にしたことがある作品名ではないでしょうか。
 作者は藤沢周平。今年は没後25年となります。25年の年に、さらに藤沢作品を深く理解していただきたいと願い、『文豪ナビ 藤沢周平』を刊行しました。
 藤沢周平といえば海坂藩。作者の故郷庄内をモデルにした小藩で、海坂藩の地図を自作される熱狂的な読者の方もいらっしゃいます。その筆頭が作家の井上ひさしさん。『文豪ナビ』では井上さんが『蝉しぐれ』を読み解き自作したオリジナルの地図を掲載しています。
 また藤沢作品はこれまで多く映像化されてきました。本書では『三屋清左衛門残日録』に出演された北大路欣也さん、麻生祐未さん、伊東四朗さん、『武士の一分』の檀れいさん、『たそがれ清兵衛』の田中泯さん、『山桜』の東山紀之さん、『蝉しぐれ』の十代目松本幸四郎さんにご登場いただき、撮影秘話を深く語っていただきました。
 没後25年を記念して、新たな映像化も。『橋ものがたり』に収録されている「殺すな」が1月28日より全国のイオンシネマにて公開されます(2月1日、時代劇専門チャンネルでも放映)。また、新潮文庫の2月新刊では『決闘の辻』、3月には『市塵(上・下)』も刊行予定です。

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2022年01月15日   今月の1冊


 2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞し話題となった町田そのこさんですが、著者唯一のシリーズ作品であり、累計15万部突破の人気作『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』の第二巻が、このたび発売されました。
 このシリーズは北九州門司港にある小さなコンビニ「テンダネス門司港こがね村店」の店長・志波三彦(老若男女を意図せず魅了してしまう魔性のフェロモンを持つ)の元にやってくる、輪をかけて個性的な常連客たちとのやりとりがたいへん魅力的です。
 が、今回のテーマはなんと「恋」。
 一体誰の元に恋物語が舞い降りるのか。前作からお読みの方はにやりとなること間違いなしです。
 各話に出てくる登場人物達の心の動きはどれもリアリティに溢れ、思わず泣かされたり、くすりと笑えたり、何より「頑張ろう」と背中を押されるような素敵な物語集となりました。ラストにはかなり気になる人物も登場し、ますます目が離せません。著者の門司港愛に溢れた心温まる物語を是非ご堪能ください。

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2022年01月15日   今月の1冊


 組織のなかで中堅クラスになると、社内の確執や組織の膿、人事の綾が見えてくることが少なくありません。事なかれ主義や、自己保身がはびこる有様を目にして、落胆や絶望する会社員もいるでしょう。そんなとき頭をよぎるのが、「この会社ではやっていられない」「辞めるなら今か」という想いではないでしょうか。
 会社員なら一度は考えたことがある「辞表」の二文字......。経済小説の第一人者である著者は、普通の会社員の苦悩に焦点をあてた小説を、数多く発表してきました。本書に収められた作品はどれも、組織と個人の間で、人生の選択に悩む等身大の姿を描きだしています。
「エリートの脱藩」では、会社の将来性にきっぱりと見切りをつけ、自分の道を選択する男を描いています。自分の意思で決断した退職が、いかに力強いか、迷い多き会社員を励ましてくれる短編です。「社長の遺志」は、病魔に倒れた社長の後継人事に奔走する男の意外な秘策がストーリー。鮮やかすぎる進退が見事です。
 人員解雇に忙殺される人事部長。そんな皮肉な立場に置かれたら......辛い立場でも清々しい読み味なのが「人事部長の進退」。裏腹に、同期への友情と人事の間で苦悩する「エリートの反乱」は、身につまされる読み応えです。他に暴君社長の劇的な退任「社長、解任さる」を含め、勝ち敗けを超えた人生の瞬間を描きだす名作ぞろいです。

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2021年12月15日   今月の1冊

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 累計940万部突破の大ヒットシリーズ「しゃばけ」。今年は記念すべき20周年の年にあたります。
 メモリアルイヤーのフィナーレとして、『えどさがし』以来7年ぶり、待望の外伝、『またあおう』が文庫オリジナルで刊行されました。
 収録される豪華5話は......
 書き下ろし作品「長崎屋あれこれ」は、若だんなが長崎屋の妖たちを紹介しようとして騒動が起きる楽しいお話。しゃばけビギナーにうってつけの作品です。
「はじめての使い」は、長崎屋へのお使いを頼まれた若い猫又、とら次とくま蔵の物語。猫又たちの頑張りと旅情が楽しめます。
「またあおう」は、屏風のぞき金次たちが『桃太郎』の世界に飛び込んでしまうお話。鬼のかわりに退治されそうになり大ピンチ!?
「一つ足りない」は、とっても格好いい九州の河童の王、九千坊が主人公。東の河童の大親分、禰々子姉さんも大活躍しますよ!
「かたみわけ」は、なんと若だんなが長崎屋を継いでからのお話。妖退治の高僧、寛朝さんがこの世を去り(!?)、その遺品をめぐって波乱が起きます。
 しゃばけ初心者からマニアまでが大満足の外伝です。

 そして20周年の今年は、特別にもう1冊の新刊が登場します。それが『しゃばけごはん』です!
 兄やたちが給仕してくれる日々のごはん、妖たちとの宴会、そしてお花見や料理屋での特別なご馳走......しゃばけにはおいしそうな場面がたくさん。そんな料理場面のなかから33品を選び、簡単でおいしく再現できるレシピをご紹介しています。
 料理を担当してくれたのは『100文字レシピ』などで知られる料理家の川津幸子さんなので、その味は間違いなし!
 若だんなの大好きな卵焼きに、葱鮪鍋、やなり稲荷にお花見弁当、栄吉の辛あられなどなど、しゃばけの味をおうちで楽しめる料理本です。
 この2冊があれば、今年の年末年始は、しゃばけ色になること間違いなし!


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2021年12月15日   今月の1冊


 日本を代表する料理研究家・土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』は、2016年の刊行直後から大きな話題を呼び、「一汁一菜」ムーブメントの火付け役となりました。シンプルでいて絶大なインパクトのあるカバーが印象に残っている方も多いのではないでしょうか。(このカバーの制作秘話が記されたあとがき「きれいに生きる日本人――結びに代えて」も必読です!)

――日常の食事は、ご飯と具だくさんの味噌汁で充分。あれば漬物を添えましょう。
 土井さんのこの提言は、日々の料理を担う多くの人の心を楽にしてくれました。
 毎食、一汁三菜の食事を作るべき、肉か魚のメインと野菜の副菜を用意するべき、毎日違ったメニューを考えるべき......。そんな「思い込み」に囚われ、献立作りや買い物や、調理が苦痛になってしまう。ちゃんとできない自分に落ち込んで、憂鬱な気持ちになる。

 そのような方にこそ、本書を読んでいただけたらと思います(かくいう私も、そんな「べき」に縛られていた一人です)。「一汁一菜」の具体的な実践法を紹介しつつ、食文化の変遷、日本人の心についても考察します。日常の食事は、「とびきりおいしい」ものである必要はなく、「普通においしい」くらいでいいのだという指摘に、深く納得し、救われたような気持ちになりました。文庫化に際して、コロナにも言及した文庫版あとがき(「一汁一菜の未来――文庫化にあたって」)も新たに収録。土井家のリアルな食卓のカラー写真も満載です!

 本書を片手に「一汁一菜」という生き方を始めてみませんか?
 健康的で心地よい、持続可能な暮らしの一助になることと思います。

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2021年11月15日   今月の1冊