ホーム > 書籍詳細:子供の死を祈る親たち

子供の死を祈る親たち

押川剛/著

781円(税込)

発売日:2017/03/01

  • 文庫
  • 電子書籍あり

親を奴隷扱いする息子、薬と性具に狂う娘……。親の何が子の心を潰してしまったのか。

親子間の溝はますます深くなっている。自室に籠もり、自殺すると脅して親を操るようになった息子。中学時代、母親の不用意な一言から人生を狂わせ、やがて覚醒剤から抜け出せなくなった娘。刃物を振り回し、毎月30万も浪費するひきこもりを作ったのは、親の強烈な学歴信仰だった……。数々の実例からどのような子育てが子供の心を潰すのかを徹底的に探る。現代日本の抱える病巣を抉る一冊。

目次
はじめに
第一章 ドキュメント
ケース1 自宅籠城
孤絶する家族/増加する「強迫性障害」/「死」の恐怖/ネグレクトのループ/親との決別
ケース2 「いい子」の仮面の犯罪者
「いい子」のホステス/クスリに溺れる日々/ゴミ部屋の中の血痕/シャブ&セックス/「いい子」という仮面/薬物依存からの脱却/幸せの前借り
ケース3 奴隷化する親たち(1)
二次元の住人/逆転する親子関係/家庭内ヤクザ/無視が最大の防御/「なんとなく」の人生/自立まで
ケース4 奴隷化する親たち(2)
浪人という名のひきこもり/たてこもる子供たち/ゴミの中の真実/親になりたくない親/危険な移送/母親教と父親のトリック
ケース5 死んでほしいきょうだい(1)
火種/きょうだいが負債に/家族の修羅場/放火/お金が第一/「死んでくれたら……」
ケース6 死んでほしいきょうだい(2)
異臭を放つ家/空白の多い人生年表/子供の死を祈る親/座敷牢に住む家族
第二章 事件化する家族
事件化する家族の激増/家族の殺し合いが許される国/危機的状況とは何か/たてこもるひきこもり
第三章 なぜ家族は壊れるのか
総強迫性社会/自分を過大視する子供たち/自信と劣等感のアンバランス/等身大の自分を受け入れる/内面の暴走族/行き着くところは「お金」でしかない
第四章 これからの家族
家庭の中にある不安を取り除く/お金に価値をおいた子育ては失敗する/お金では買えないものを与える/タテとヨコのつながり……ローカル力を味方にする/風通しのよい家庭をつくる/「オール3」でヨシとする/親と子の断絶/ファミリーヒストリーを理解する
第五章 患者の二極化がはじまった
脱施設化・地域移行/病識のない患者に「意思」を問う不親切/患者の二極化がはじまった/暴力行為は事件化に/アメリカにおける「脱施設化」の真実/「社会的入院」から「社会的制裁」へ/精神疾患をもつ親への支援
第六章 現場からの提言
相模原障害者施設殺傷事件はなぜ起きたか/すべては警察に振られている/第三者によるスペシャリスト集団を/地域移行の責任を、我々一般市民がどう負うか
あとがき
参考文献

書誌情報

読み仮名 コドモノシヲイノルオヤタチ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 AGE FOTOSTOCK/カバー写真、アフロ/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 448ページ
ISBN 978-4-10-126762-3
C-CODE 0195
整理番号 お-89-2
ジャンル 社会学、ノンフィクション
定価 781円
電子書籍 価格 737円
電子書籍 配信開始日 2017/08/09

書評

魂の叫びは届くのか

東えりか

 約二年前、長期間ひきこもり、家族に暴力をふるう子供を説得し、精神病院へ移送するという仕事について記した『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)が上梓された後、大きな反響があったそうだ。「子育てのノウハウを教えてほしい」という相談に対し著者の押川剛は言う。――私が得意とするのは、壊れてしまった家族への危機介入であり、子供を立派な人間に育てるためのプロフェッショナルではありません――
 本書は子育て論ではない。押川の仕事は、目の前にいる瀕死の状態にある本人と家族に対して、医者のように治療を模索し回復を手助けすることなのだ。
 治癒が望めない場合はその時点での最善を尽くす。それには本人と家族とを強引に縁を切らせたり、家を含め家財道具を一切売り払って住み慣れた場所を引き払ったりさせることも多い。「精神障害者移送サービス」を始めて二十年の経験から、押川には解決策が見えるのだろう。
 とくに今回は「子供の心を壊す親」の特徴に留意している。ここ数年、多くの「毒親本」が出版されている。両親の過度な期待に応えられず、ひきこもりや家庭内暴力を繰り返す子供たちが、そこからどのように立ち直り独り立ちしたかという話には説得力がある。憎しみが親離れを促すのは少し寂しい気がするが、大人になる過程としては正常なことだろう。
 だがひきこもりが嵩じてたてこもりになっている子供たち(とはいっても十代から五十代まで幅広い)は、その親から離れられず、憎む親によって生き延びさせてもらっている。
 もちろん本人の挫折によって大きく傷つき、精神的に社会に適応できなくなった例もあるだろう。だが明らかに「親がおかしい!」と思えるケースも多くある。最近では親自身が気づき、自分の育て方が悪かったと話すことも増えてきているようだ。だからといってその子の一生を丸抱えし、面倒を見ていくことが責任の取り方ではないだろう。
 最終的な目標は、親は子供が抱える問題を解決する手助けをし、子供は親から自立して社会のなかで生きていくこと。そのために押川は、時には劇薬とも思える強引な手段を用いることもあれば、慢性疾患に処方する薬のように、長い時間をかけて子供の自立を見守っていく場合もある。成功例だけでなく、押川が臍を噛んだような失敗例も紹介されている。
 本作の半分以上を占める第一章「ドキュメント」には押川が関わった6つのケースが詳細に記されている。
 潔癖症から強迫性障害となり十五年間ひきこもり生活を続ける三十二歳の男。本人の意思を最優先させる親が、問題を深刻にしていた。
 性格のよさで客受けがいい新宿のキャバレーホステス。彼女の裏にはヤクザまがいの男がいて薬におぼれていたのだが、大元の原因は母親に関心をもってもらいたかったのだ。
 二次元のアイドルに入れあげる十九歳の青年は、母親から厳しく躾けられた反動で、親に暴力をふるっていた。
 医者の息子として跡取りを期待されていた二十五歳の青年は、過度の重圧に耐えきれず、親や妹を支配しようと家庭内で君臨していた。
 美人で町の評判だった娘が、結婚の夢破れてひきこもりとなり、精神に異常をきたして近隣に多大な迷惑をかけても、親はそれを隠そうと画策する。
 三十年あまり自宅に引きこもる五十代の男。家族や近隣住民からの依頼を受けても医療機関や行政機関が動かず、面倒を見ている母が老い、悲愴な面持ちの姉が相談にやってきた。
 押川はスタッフと共に本人を長期間観察し、警察や保健所など公的機関の協力を取り付けて、絶妙のタイミングで本人を説得し、病院へ移送する。命の危険を伴う難しい仕事だ。
 第二章以下は日本が抱える家族の問題と、社会的背景、行政の対応、精神保健分野の現状、そして何より本人に対する再教育の重要性が説かれる。
 特に第六章の「相模原障害者施設殺傷事件」に対する考察は必読である。あの事件を防ぐタイミングはいくつかあったのだ。だが精神保健分野のプロフェッショナルの不足と、情報の共有の不徹底がひとりのモンスターを作ってしまった。
 家族の中の出来事は他人には窺い知れない。取り返しのつかない事件がまた起こる前に、新たな枠組みを作ることが喫緊の課題であると、著者の悲痛な叫びが聞こえてくる。

(あづま・えりか HONZ副代表)
波 2017年3月号より

著者プロフィール

押川剛

オシカワ・タケシ

1968年生まれ。福岡県北九州市出身。ジャーナリスト・ノンフィクション作家・株式会社トキワ精神保健事務所所長。専修大学中退、北九州市立大学卒。1996年、“説得”による「精神障害者移送サービス」を日本で初めて創始。移送後の自立・就労支援にも携わる。その活動は国内外から注目を浴び、ドキュメンタリーが多数放映される。著書に『子供部屋に入れない親たち』『「子供を殺してください」という親たち』『子供の死を祈る親たち』など。

押川剛公式ブログ (外部リンク)

関連書籍

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

押川剛
登録
社会学
登録

書籍の分類