
愛しの陽子さん―yoshimotobanana.com 2006―
565円(税込)
発売日:2007/11/28
- 文庫
みんな陽子さんにぞっこんさ! ドットコムシリーズ、リニューアルしました。
グチりたくてしょうがないとき、美味しいごはんを食べに行くとき、チビとウルトラマンで遊ぶときだって、いつもそばにいてくれる。陽子さんは家族のように大切なひと。みんな陽子さんにぞっこんさ、そんな思いをタイトルに込めました。楽しみ、悩み、考え続ける日々の記録。これからは一冊に一年間を凝縮。ボリュームアップで、もっと楽しくお届けするドットコムです。
Q&A
書誌情報
読み仮名 | イトシノヨウコサンヨシモトバナナドットコム2006 |
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シリーズ名 | 新潮文庫 |
発行形態 | 文庫 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 352ページ |
ISBN | 978-4-10-135930-4 |
C-CODE | 0195 |
整理番号 | よ-18-19 |
ジャンル | エッセー・随筆 |
定価 | 565円 |
書評
ふつうの女の子と小説家だましい
よしもとばななさんの公式ホームページがスタートしたのは2001年5月のこと。日記の連載も同時に始まった。それをまとめた文庫化第一弾『よしもとばななドットコム見参!―yoshimotobanana.com―』は、同年5月10日、「ヒロチンコ」さんとの卓球シーンから始まる。「ヒロチンコ」=よしもとさんの夫との暮らしはすでに安定軌道に乗っている気配。この年は、現在も進行中の長篇シリーズ『王国』の取材で伊豆高原にいったり、ムック「本日の、吉本ばなな。」に取り組んだり、の年でもある。作家名の表記に漢字が使われていた最後の時代でもあって、まだ吉本ばななさんだった。ぜんぶひらがなになったのは翌年の夏、『王国』の第一弾から。懐かしいな。
文庫二冊目の『ミルクチャンのような日々、そして妊娠!?―yoshimotobanana.com2―』では、文藝春秋の平尾さんと卓球をしていた五日後に(……因果関係は何もないけど)妊娠が判明。日本がワールドカップ一色になっていた頃だ。判明直後の日記はよしもとさんの率直さが可憐に爆発している。
そしていよいよ本格的におなかが重たくなり、ぎっくり腰にも悩まされた妊婦としての日々は三冊目の『子供ができました―yoshimotobanana.com3―』に。出産後しばらく車椅子と松葉杖のお世話になった立派な難産については『こんにちわ! 赤ちゃん―yoshimotobanana.com4―』にそれぞれ詳しく描かれている。出産については読んでいるだけでもギシギシと痛みが伝わってきて、手に汗にぎる。しかし、人間が生きものとして生かされている、ということをこれだけ虚飾なく記録しえたのは、やはりよしもとさんがただならぬ小説家であることのあかしだと思う。
本書は十冊目。ひとり息子のチビちゃんも大きくなった。どれぐらい大きくなったのかと言うと、この「ドットコム」シリーズの二代目編集担当者(女性)と同席したとき、携帯の画面を見せようとしながら顔を寄せていって、すかさず頬にチューするほど大きくなったのです。なるほどそういう手があったか! 男の子としてたのもしく、学ぶところも大きい、みごとな成長ぶりではありませんか。
担当者が三代目になった今年から、これまでは一年分を二冊に分けて刊行していたこのシリーズを、正月から大晦日までの一年ですっきりと区切ろうということになった。既刊九冊の文庫カバーをさまざまな趣向のイラストで飾ってくれた百田千峰さんに続いて、これからは、よしもとさんの小説の単行本などでもタッグを組み、日記にもいっぱい登場する山西ゲンイチさんが担当してくださることになった。
そのリニューアル第一弾である本書を読んで、よしもとばななという小説家のおそるべきところは、ごくふつうの顔をして日常のなかにまぎれ込んで暮らしている女の子である部分と(最近はもう、三〇代はもちろん四〇代でも女の子で、これからは五〇代の女の子が世の中に溢れてゆくであろう)、とんでもなく鋭くものごとを見て、感じとって、それをポンと伝えられる小説家だましいを持つ部分が、一分おき、三十秒ごと、いや一秒のなかだけでも小刻みに超高速で入れ替わってしまう、その変幻自在ぶりにあると思った。
ホームページにアップされる小説家の日常はエッセイとはちがう産地直送の味わいで、基本的にはゆるゆるとすすむ。食べもの、子ども、友人、映画、うた、家族、フラ、子連れの旅、夏の伊豆の海、買い物、幼稚園、マッサージ……そんな日々のところどころで、よしもとさんが突然ピリッと背筋を伸ばす瞬間がある。無理なく極私的であり続けるうち、大きなものもしっかりととりこんでしまう瞬間。そのとき、今という時代が、日本というものが、はっきりと透けて見えてくるのだ。
小説家とはつくづく油断のならない生きものだと思った。
(まついえ・まさし 初代編集担当者)
著者プロフィール
よしもとばなな
ヨシモト・バナナ
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1988年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、1989(平成元)年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、『TUGUMI』で山本周五郎賞、1995年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアでスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞〈Under35〉、マスケラダルジェント賞、カプリ賞を受賞。近著に『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』『切なくそして幸せな、タピオカの夢』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。