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ぼくが年を取っても、杏奈は少女の姿のまま。運命の初恋を描くタイムトラベルロマンス。

杏奈は春待岬に

梶尾真治/著

680円(税込)

本の仕様

発売日:2018/10/01

読み仮名 アンナハハルマチミサキニ
装幀 たえ/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-149012-0
C-CODE 0193
整理番号 か-18-12
ジャンル 文芸作品、文芸作品
定価 680円

少年の日、健志は恋をした。桜の咲く頃だけ春待岬の洋館で会える、美しい少女・杏奈に。なぜ、彼女が現れるのは一年のうち数日だけなのか。なぜ、館に暮らす老人を「兄さん」と呼ぶのか。杏奈の秘密を知った健志は、彼女をいつか救い出そうと決意する。月日は流れ健志は年を重ねていくが、杏奈はずっと少女の姿のまま……。幼い初恋はやがて究極の純愛へ。切なすぎるタイムトラベルロマンス。

著者プロフィール

梶尾真治 カジオ・シンジ

1947(昭和22)年、熊本生れ。少年時代から小説を書き始め、1971年「美亜へ贈る真珠」で作家デビュー。短編を中心に活動を続け、代表作は『地球はプレイン・ヨーグルト』(星雲賞受賞)、『未踏惑星キー・ラーゴ』(熊日文学賞受賞)、『サラマンダー殲滅』(日本SF大賞受賞)など。2003(平成15)年には、『黄泉がえり』が映画化され、原作、映画ともに大ヒットを記録。他の著作に『黄泉びと知らず』(星雲賞受賞)『怨讐星域』(星雲賞受賞)、「エマノン」シリーズ、『未来のおもいで』『あねのねちゃん』『穂足のチカラ』『クロノスの少女たち』などがある。

書評

空前絶後の初恋小説

成井豊

『杏奈は春待岬に』の主人公は、十歳の少年・白瀬健志。
 四年生と五年生の間の春休み、健志は熊本県天草市の西にある村の、祖父母の家に行く。その村の「春待岬」と呼ばれる小さな岬に、古い洋館が建っていた。少年の冒険心から、その洋館へ行ってみると、そこには信じられないほど美しい女性がいた。それはまるで、妖精か天使のようだった。健志は何とかして、彼女と言葉をかわせるようになりたいと思った……。
 というふうに、梶尾真治さんの最新作『杏奈は春待岬に』は、十歳の少年の初恋物語として幕を開ける。普通の作家なら、物語は春休みの間だけで終わる。エピローグとして、十年後の再会のシーンがくっつくかもしれない。出会って、結ばれて、別れて、再会して。これがラブストーリーの定型というものだろう。
 が、天下の梶尾真治がそんな当たり前の小説を書くはずがない。少年はひたすら暴走する。と言っても、別にストーカー化するわけではない。無垢な愛情はけっして病的にならず、あくまでも無垢なまま、しかし、それ以外のすべてを犠牲にして、真っ直ぐに走り続ける。読者は「一体どこまで行くんだ?」と青ざめながら、しかしどうしても結末が知りたくて、ページを繰り続ける……。
 梶尾さんは1947年に熊本県熊本市で生まれ、1971年に「美亜へ贈る真珠」でデビュー。以来、四十五年にわたって、日本SF界で活躍してきたが、その作品は本格SFからファンタジー、伝奇小説、パニック小説と、きわめてバラエティ豊か。しかし、その中に、これこそまさに梶尾ワールドとでも言うべき系譜がある。それは、無垢なる者が暴走する物語だ。
 私は梶尾さんの大ファンで、十年ほど前から様々な作品を舞台化させてもらってきた。その第一作が連作短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』の中の一話である、「吹原すいはら和彦の軌跡」(舞台化した時のタイトルは「クロノス」)。
 主人公の吹原和彦は、花屋の店員・蕗来美子ふきくみこに思いを寄せるが、彼女は交通事故で亡くなってしまう。吹原は彼女を救うため、「クロノス・ジョウンター」というタイムマシンで過去へ行く。ただし、そのタイムマシンは欠陥品で、過去には数分しか滞在できず、元の時代にも戻れない。過去に行った反動で、遠い未来に弾き飛ばされてしまうのだ。吹原は何度も救出に失敗し、そのたびにタイムトラベルを重ねる。そして、今度過去へ行ったら、二千年後に弾き飛ばされるところまで追い詰められる……。
「吹原和彦の軌跡」を読んだ時の衝撃は、今でも覚えている。一言で言えば、「なんじゃこりゃあ?」。こんな小説、読んだことない。どこにでもいる普通の会社員が、片思いしている女性の命を救うために、ひたすらタイムトラベルを繰り返す。救出に成功しても、彼女と結ばれることはないとわかっているのに……。
 梶尾さんの小説に、ヒーローは登場しない。どこにでもいる普通の男が、ちょっとした偶然から恋をする。『クロノス・ジョウンターの伝説』の吹原和彦も、『杏奈は春待岬に』の白瀬健志もそうだ。が、彼らはきわめて自然に、その恋心を保ち続ける。欲望や打算や狂気には発展させない。出会った時のままの、無垢な心で彼女を思い続ける。だから、本人たちは自分のしていることが異常だとは思わない。読者も思わない。気づいた時には、主人公を応援している。頑張れ頑張れと。
 思えば、デビュー作の「美亜へ贈る真珠」も、この系譜の小説だった。『未来あしたのおもいで』も『つばき、時跳び』もそうだった。もちろん設定もストーリーも作品ごとに全く違うが、無垢なる者の暴走を描く時、梶尾さんの作品は一段と光を増す。読みながら、胸打たれずにはいられない。そして、ああ、これこそが恋だと思う。
『杏奈は春待岬に』とはそんな小説だ。空前絶後の初恋小説。読まない手はありませんぜ。

(なるい・ゆたか 演劇集団キャラメルボックス代表)
波 2016年4月号より
単行本刊行時掲載

判型違い(書籍)

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