汚れた赤を恋と呼ぶんだ
693円(税込)
発売日:2015/12/24
- 文庫
- 電子書籍あり
傷つき、泣いて、僕たちは恋をする。
七草は引き算の魔女を知っていますか――。夏休みの終わり、真辺由宇と運命的な再会を果たした僕は、彼女からのメールをきっかけに、魔女の噂を追い始める。高校生と、魔女? ありえない組み合わせは、しかし確かな実感を伴って、僕と真辺の関係を侵食していく。一方、その渦中に現れた謎の少女・安達。現実世界における事件の真相が、いま明かされる。心を穿つ青春ミステリ、第3弾。
目次
プロローグ
一話、引き算の魔女の噂
二話、時計と同じ速度で歩く
三話、遠いところの古い言葉
四話、春を想うとき僕たちがいる場所
五話、ハンカチ
エピローグ
一話、引き算の魔女の噂
二話、時計と同じ速度で歩く
三話、遠いところの古い言葉
四話、春を想うとき僕たちがいる場所
五話、ハンカチ
エピローグ
書誌情報
読み仮名 | ヨゴレタアカヲコイトヨブンダ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮文庫nex |
発行形態 | 文庫、電子書籍 |
判型 | 新潮文庫 |
頁数 | 336ページ |
ISBN | 978-4-10-180056-1 |
C-CODE | 0193 |
整理番号 | こ-60-3 |
ジャンル | キャラクター文芸、コミックス |
定価 | 693円 |
電子書籍 価格 | 649円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/06/24 |
書評
心に刺さる言葉たち
小説を読んでいると、心に刺さる言葉に出会うことがある。たとえば、こんな一文だ。
ケーキを買うお金を持っていない子供だけが本当のケーキの価値を知っている。
文庫本の端を折って、忘れないように、またいつでも読み返せるように、大事にとっておきたくなる、言葉。河野裕さんの小説には、そんな魅力的な言葉が溢れている。
本作は『いなくなれ、群青』『その白さえ嘘だとしても』に続く、階段島(かいだんとう)シリーズの第三作だ。物語は、階段島という、少し奇妙な島を舞台に展開される。階段島は七平方キロメートル程度の小さな島で、そこでは約二〇〇〇人の住人が暮らしている。この島には大きな特徴がある。それは、人々が島にやってきた経緯を覚えていないこと。アマゾンの配送サービスは届くのに、グーグルマップには表示されない場所であること。そして、みなが「捨てられた人」である、ということだ。島で暮らす高校生、七草(ななくさ)は数ヶ月前にここにやってきて以来、不穏ながらも平和でのどかな生活を気に入っていたが、かつての同級生・真辺由宇(まなべゆう)との再会をきっかけに、階段島の謎に迫っていく。
捨てられた人? それはどういう意味だろう。現代において人が「捨てられる」なんてことが、あるのだろうか。はじめてこのシリーズに触れる読者は、独特の設定に驚くかもしれない。実は私も、そうだった。だが、ほんの数ページ、河野さんの文章に触れれば、そんな違和感は消えてなくなり、この世界にぐっと惹きこまれる。個性的なキャラクター。島の謎に迫るスリリングな展開。右を見ても左を見ても、わくわくするばかりだ。そんな魅力の尽きない階段島シリーズにおいて、私が何より惹かれるのは、河野さんの言葉である。
冒頭の引用は、第二作『その白さえ嘘だとしても』からだが、もちろん本作にも、魅力的な文章や言い回しがたくさん登場する。特に私の心を抉ったのが、以下の文章だ。
役割を忘れて話ができるのが友達だと思う。
私事だが、ちょうどこの小説を読んでいるとき、私は「友達」の定義について、悩んでいた。友人に「加恋の友達のラインはどこからなの」と聞かれ、うーん、と考え込んでしまったのだ。でも、この文章を読んで、そうか、と思い、河野さんの言葉をそのまま友人に伝えた。そんな風にして、私は小説に、小説の言葉に、助けられている。中でも階段島シリーズは、刺さる言葉が本当に多く、あれもこれも、メモしてしまう。
人は何を捨てて、階段島にやってきたのか。その謎の解明については第一作『いなくなれ、群青』を読んでもらわねばならない。この島を統べる人物は誰なのか。こちらの謎は、第二作『その白さえ嘘だとしても』で明らかになる。
そして、第三作となる本作では、階段島から舞台を移し、私たちの「現実」に近い場所で物語が進んでいく。本作をもっとも特徴づけるのは、新キャラクターの少女、安達(あだち)だ。彼女は、怖い。何を考えているのか、まったくわからない。本人は「気安い友達、の二文字目と五文字目で、安達」などと自己紹介しているが、ちっとも気安い感じがしない。このシリーズにおいて、私が初めて「怖い」と感じた人間だ。ミステリアスで、常に主人公の裏をかく少女は、階段島に波乱を運んでくる気がしてならない。
安達の真意はどこにあるのか。七草と真辺はどうなるのか。今後、階段島で何が起こるのか。作品を重ねるごとに謎は増え、シリーズの魅力も増していく。一度読み出したら、まず止まらない。未読の方には『いなくなれ、群青』を、一作目を読んだ方には二作目を、そして二作を読んでいるのなら、絶対にこの三作目『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』を薦めたい。私のように言葉に惹かれるもよし、階段島の設定にやられるもよし、七草と真辺の未来にヤキモキするもよし。とにかく、心から、読んでほしい、と思う。ハマりますよ?
ケーキを買うお金を持っていない子供だけが本当のケーキの価値を知っている。
文庫本の端を折って、忘れないように、またいつでも読み返せるように、大事にとっておきたくなる、言葉。河野裕さんの小説には、そんな魅力的な言葉が溢れている。
本作は『いなくなれ、群青』『その白さえ嘘だとしても』に続く、階段島(かいだんとう)シリーズの第三作だ。物語は、階段島という、少し奇妙な島を舞台に展開される。階段島は七平方キロメートル程度の小さな島で、そこでは約二〇〇〇人の住人が暮らしている。この島には大きな特徴がある。それは、人々が島にやってきた経緯を覚えていないこと。アマゾンの配送サービスは届くのに、グーグルマップには表示されない場所であること。そして、みなが「捨てられた人」である、ということだ。島で暮らす高校生、七草(ななくさ)は数ヶ月前にここにやってきて以来、不穏ながらも平和でのどかな生活を気に入っていたが、かつての同級生・真辺由宇(まなべゆう)との再会をきっかけに、階段島の謎に迫っていく。
捨てられた人? それはどういう意味だろう。現代において人が「捨てられる」なんてことが、あるのだろうか。はじめてこのシリーズに触れる読者は、独特の設定に驚くかもしれない。実は私も、そうだった。だが、ほんの数ページ、河野さんの文章に触れれば、そんな違和感は消えてなくなり、この世界にぐっと惹きこまれる。個性的なキャラクター。島の謎に迫るスリリングな展開。右を見ても左を見ても、わくわくするばかりだ。そんな魅力の尽きない階段島シリーズにおいて、私が何より惹かれるのは、河野さんの言葉である。
冒頭の引用は、第二作『その白さえ嘘だとしても』からだが、もちろん本作にも、魅力的な文章や言い回しがたくさん登場する。特に私の心を抉ったのが、以下の文章だ。
役割を忘れて話ができるのが友達だと思う。
私事だが、ちょうどこの小説を読んでいるとき、私は「友達」の定義について、悩んでいた。友人に「加恋の友達のラインはどこからなの」と聞かれ、うーん、と考え込んでしまったのだ。でも、この文章を読んで、そうか、と思い、河野さんの言葉をそのまま友人に伝えた。そんな風にして、私は小説に、小説の言葉に、助けられている。中でも階段島シリーズは、刺さる言葉が本当に多く、あれもこれも、メモしてしまう。
人は何を捨てて、階段島にやってきたのか。その謎の解明については第一作『いなくなれ、群青』を読んでもらわねばならない。この島を統べる人物は誰なのか。こちらの謎は、第二作『その白さえ嘘だとしても』で明らかになる。
そして、第三作となる本作では、階段島から舞台を移し、私たちの「現実」に近い場所で物語が進んでいく。本作をもっとも特徴づけるのは、新キャラクターの少女、安達(あだち)だ。彼女は、怖い。何を考えているのか、まったくわからない。本人は「気安い友達、の二文字目と五文字目で、安達」などと自己紹介しているが、ちっとも気安い感じがしない。このシリーズにおいて、私が初めて「怖い」と感じた人間だ。ミステリアスで、常に主人公の裏をかく少女は、階段島に波乱を運んでくる気がしてならない。
安達の真意はどこにあるのか。七草と真辺はどうなるのか。今後、階段島で何が起こるのか。作品を重ねるごとに謎は増え、シリーズの魅力も増していく。一度読み出したら、まず止まらない。未読の方には『いなくなれ、群青』を、一作目を読んだ方には二作目を、そして二作を読んでいるのなら、絶対にこの三作目『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』を薦めたい。私のように言葉に惹かれるもよし、階段島の設定にやられるもよし、七草と真辺の未来にヤキモキするもよし。とにかく、心から、読んでほしい、と思う。ハマりますよ?
(みやま・かれん 女優)
波 2016年1月号より
著者プロフィール
河野裕
コウノ・ユタカ
1984(昭和59)年、徳島県生れ。兵庫県在住。2009(平成21)年、『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』でデビュー。2015年、『いなくなれ、群青』で大学読書人大賞を受賞。同作から始まる「階段島」シリーズは2019(令和元)年『きみの世界に、青が鳴る』で完結した。2022年、『君の名前の横顔』で「読者による文学賞」を受賞。著書に『昨日星を探した言い訳』、「架見崎」シリーズとして『さよならの言い方なんて知らない。』などがある。
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